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現在ログインした。プレイヤー名、ソウ。魔人種。連絡求む

 

 ふわっとした感覚の後、周囲を見渡す。どうやら俺は広場のど真ん中にいるようだ。喧騒の中、辺りを見渡す。何らかの香りと雑踏の音、空から感じる熱と淡く吹く風。なるほど――これはすごい。

 本物の街中にいるのと変わらぬ感覚だ。そして全身を見ると白い服、白いズボンに手甲と足甲。ふむ、全くチュートリアルそのままの姿だな。さてそれでは、と。

 思考制御でメニューを表示。おお、空間投影のように目の前にメニューが見える。メニュー欄にはインベントリ、設定等のメニューが並ぶがその中の一つ、メールを選択。そこにアドレスを入力して、本文を記載、と。


『現在ログインした。プレイヤー名、ソウ。魔人種。連絡求む』


 よし、これでいいだろ、送信。数秒の後、頭の中に通知音が鳴る。えっと、フレンド申請、プレイヤー名・リフレ。リフレって、お前……。すぐに承諾すると、再び通知音。開くと声が聞こえた。


『師範代!今どこですか!?』


『うるさい。まだログインしたばかりだよ。どっかの広場の真ん中に立ってる』


『じゃあそこからまっすぐ歩いて左にあるベンチに座ってて下さい。すぐお迎えにあがります』


『ベンチ、あれか。了解』


 広場を囲むように配置されているベンチの一つ、正面より左のベンチに腰かけてみる。木製のベンチだが手入れされているようで中々快適だ。それにしてもすごいな、これ。本当に現実と変わらない。空気の感触、耳に聞こえてくる喧騒、雑踏。振動。太陽の暖かさ。確かに五感が生きている。

 ゲームの世界のはずなのに、確実に『生きている』と実感できる。本当にゲームなのか疑わしいとさえ思えてくる。そんな事を感じながら数分待っていると、真っ直ぐこちらに近づいてくる気配を捉えた。俺を確認したのだろう、少し足早になって目の前へとやってくる。


「しっ――ソウさん。お待たせしました!」


 フード付きのマントを被っていたそいつはフードを脱いで顔を見せる。どうやら俺と同じく顔のパーツは大きく変えていないようだが、その髪色は金色で、割とウェーブのかかった長髪をしていた。


「……なに、お前。そういうの憧れてたの?」


「みっ、見た目の事はいいじゃないですかっ!」


「いや、意外というか何というか。それより俺はアイツに連絡したのに、なんでお前が?」


「それは別に、いいじゃないですか。あ、彼のプレイヤー名はガントです。それより、行きましょう」


「行くってどこに?」


「まずは服を買わないと。ソウさん今、目立ってますから」


 あぁ、それは気付いている。不躾というか無遠慮というか、そういう視線をさっきから感じてはいた。だがこいつが来た時にその不躾さが明らかに上がったのにこいつは気付いているのだろうか。


「完全に初期装備のプレイヤーなんて良いカモですからね。厄介なのが来ない内に行きましょう」


「良いカモ、ねぇ。厄介なのって?」


「ギルドの勧誘とかですね。あとは初心者講習を銘打ってお金を巻き上げようとする人とか」


「なるほど、そりゃ厄介だ」


 そう言ってベンチから腰を上げる。


「じゃあついてきて下さい。良いお店知っているので」


「あいよ、お任せしますよ」


 そうしてリフレの先導で街中を練り歩く。雑多な人混みの中、様々な生活をする人を見かけ、その自然な在り方に少し驚く。中世風の服装をした人が街中で談笑をしていたり、商売をしていたり。本当に様々だ。

 そして、街中の一つの店舗の前でリフレが足を止め、無遠慮にそのドアを開いた。


「こんにちはー」


「あらリフレさん、いらっしゃい。お久しぶり」


 どうやら店は服飾店のようで、様々な洋服が並んでいた。俺もリフレに続いて店内に入ると、リフレの対応をしていたおばちゃんが少し驚いたような目を向けてくる。


「いらっしゃいませ。マルコニー服飾店へようこそ。リフレさんのお連れさんですか」


「どうも。ソウといいます。リフレがお世話になっています」


「来訪者さんね。それにしても……大きいですね」


 どこか感心したように言うおばちゃんの言葉に少し困ってしまう。確かに俺は大柄……180後半だからまぁ、でかい方だろう。中々ストレートに言う人だなぁと思いつつ店内を見渡す。なるほど、男性・女性両方を取り扱っているのか。


「そうなんです。ガントよりも大きいので、マルコニーさんの所がいいかなって。合うサイズ、あります?」


「えぇそうね。ここらへんなんてどうでしょう」


 案内されたエリアで服を引っ張り出しては俺の身体に合わせていくリフレとマルコニーさん。基本ゆったりとした服なのだが、一度試着してみると余り余裕が無いのが分かる。肩幅とかが結構ぴったりだ。


「どうでしょう、もう少し余裕持たせた方がいいかしら」


「そうですね、もう少し」


「分かりました、じゃあここらへんで。それにしても、立派な筋肉ですね」


「鍛えてますから」


 そうしてあぁでもないこうでもない、とリフレとマルコニーさんに手伝って貰いながら服を選び、初期装備の真っ白の上下から普段着っぽい服を数点選び終える。

 途中、下着を選ぶ時にはさすがにリフレは介入させなかった。お前に下着選ばれたくねぇよ?

 この世界の下着はトランクスが基本で腰紐で幅を調整するタイプだ。こちらも幅に余裕があるものを数点選んで、いざお会計となった。


「はい、それではこちらで3400ロンですね」


 マルコニーさんに言われた通りの金額をインベントリから引き出す。ちなみに俺が初期で持っていた金額は20000ロン。この世界の通貨単位はロンらしい。一着はそのまま試着室で着させてもらってから、残りをインベントリにしまう。最初リフレがお金を出そうとしたのだが、流石にそれは断った。俺のものなのだから俺が払うのだ。


「ありがとうございました」


「はい、それではまた、ご贔屓に。リフレさんも」


「ありがとうございました、マルコニーさん」


 マルコニー服飾店を出てから少し歩き、溜息を一つ吐く。


「どうかしたんですか?」


「いや、凄いな。あの人、プレイヤーじゃないんだろ」


 俺の感想に、あ、とリフレが少し驚いた表情を浮かべる。


「説明してませんでしたっけ。この世界って、こういうものなんです」


「あぁ、なんていうか、理解した。疑似人格とかいう単語が馬鹿らしく感じる。ありゃちゃんとした人格のある人だ」


「凄いですよね。感覚にも違和感なくて。痛覚だけはどうにもならないみたいですけれど、それ以外は本当に本物なんです」


 あぁ、確かにこりゃ本物だ。あいつらが凄いと言うのも分かる。何せ何も違和感が無いのだから。だからこそ、とも思う。あいつらは一体この世界で何をしているのか、と。


「それで、拳児と隼人は?」


「えーっと、ガントとシュンですね。ソウさんを待ってます」


「待ってる?どこで?」


 俺がそう聞くと、リフレはちょっと楽しそうに俺に振り返って言った。


「この街の、闘技場で、です」

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