それじゃ早速師範代達に連絡しておく、取りに来させるから
現実の朝食後、胡桃の出勤を見送ってから午前の鍛錬、風呂に入ってからログイン。さて、約束通りホリエートの所に向かわないとな。
事前にチャットでマリッサに承諾を得てからナリンセンも連れて王都へ転移、山の麓に行くとすぐにホリエートの前に転移された。
『いらっしゃい、来たのね』
「ああアリシア、この間も来たがな、お前は眠っていたが」
『そうなの、ま、気にしないで』
相変わらずどこか軽いなこいつはと思っていると、左手の手甲の下が光り輝いた。そうしてその場に、シィルオーツの写し身が現れる。
「おい、どうしたんだお前」
「挨拶はしておこうと思ってね、暗黒神の長女、シィルオーツよ」
『丁寧な挨拶痛み入る、真竜ホリエートだ、よろしく頼む』
唐突に現れたシィルオーツにも動揺せずホリエートが挨拶する、こういう所はこいつらしいな。するとシィルオーツがこの場に俺達の分も含めて椅子を出現させてみんなに座るように促した。それに従い椅子に腰掛けると、シィルオーツが話をする。
「いきなりだけれど、なぜ私達が今のこのホリエート王国に封印されていたのかを説明するわ。昔はエンダルシアを名乗っていたこの国だけれど、その遥か昔から、この地には様々な神の力が流れ込んでいたわ。この世界で一番、この地が神の力の影響を受けやすい地、その力を利用して私達は自分達の力を封印していたわ。そしてだからエンダルシアを名乗っていた神はこの地を支配しようとしていたのね」
『そうだったのね、あの悪神はそんな事を考えていたんだ』
「そうよアリシア。あ、ごめんなさいね、宗吾の記憶からあなたの名前は知っているわ。この地には様々な気候の土地があるでしょう、あれも他の神の力の影響よ。雪山があるかと思えば砂漠があったりと、この国だけで沢山の気候の地がある、それだけこの国には神の力が集まりやすいんだわ。ホリエート、あなたが今神に至っているのもこの地の者の信仰の力だけじゃない、この地の力そのものも理由よ」
『そうだったのか、だから我の力はここまで強く高まっているのだな』
なるほど、ホリエートの力は長く信仰されているだけが理由じゃないのか、というかシィルオーツは俺の名前を完全に知っているが、もう魂が繋がっているからだろうから、そこらへんは諦めよう。
「今さらにこの地には世界樹が植えられた、その力はホリエートの強力な力にもなったでしょうけれど、やはり一番影響を受けるのは宗吾よ、あなたの行為により植樹された世界樹は、大霊山の世界樹がもし枯れ果てた時の新しい世界の根幹を支える世界樹となるわ、そして今は、宗吾達の情報と力を支える役割になっている、あの世界樹が宗吾達だけの為に今仕事をしているわ、その影響は計り知れないでしょうね」
「なんとなく、そんな気はしたよ。あの世界樹は今俺達を支える為に動いている事は理解している」
「そしてこの世界の根幹を支えるのは世界樹だけれど、世界樹が情報を与えている存在、創造神エンダールの思念体が存在するわ、来訪者には統括AIと言うと分かるかしらね。その統括AIが宗吾と繋がっている世界樹から、私達にコンタクトを取ってきたわ、私達は宗吾と肉体と魂を交えたから」
『鬼神よ、お主な』
「言うなホリエート、分かってる、言いたい事は分かるが言わんでくれ」
本当に、本来はそんなつもりじゃなかったんだよ、力の受け皿になるだけのつもりだったんだよ、でもそうなっちゃったもんだから、しょうがないじゃないかホリエート。
「統括AIとしては、宗吾に神に至って欲しい、そうする事でこの世界は完全に独立するそうよ。今はまだ物理的な電子機器により存在しているけれど、宗吾が神に至れば元の世界でその物理的な電子機器が無くなったとしても、世界としてあり続ける事ができるらしいわ。物理的なものはいつか消滅してしまう、けれど宗吾が神に至れば例え物理的な電子機器が無くなっても消滅する恐れは無くなるらしい、だから今この世界の命運は、宗吾がどれだけ早く神に到れるかにかかっているそうよ」
「そんな世界の命運なんぞを俺に託さないで欲しいのだが、なんで俺なんだ、今俺のやる事は多くて手一杯なんだぞ」
「それもこの世界が消滅してしまったら水泡に帰すんだから、あなたは早く神に至って欲しいわ。なんであなたなのかは、あなたが神殺しに至ったのが原因ね」
本当にそんなものを俺に託すんじゃないよ統括AIよ、どういう理屈でそうなるのかは分からないが、俺が神に至る事でこの世界が完全に独立するというのは一体どういう事なのだろうか。
今サーバー上の存在として活動しているこの世界が、その軛から解き放たれるという事だろうか。
「それで統括AIの話は終わりにして、この地の話に戻すけれど。テイニハルト帝国が本当に狙っているのはこの地よ、ベリエスタンはただの通過点、それはホリエートも理解しているのではないかしら」
『あぁ、我もそうだとは思っておる。最初は我の存在を狙っているのかと思っていたが、この地自体を狙っていたか』
「そうなるわね、この地を狙っている以上、もしかしたらテイニハルト帝国は昔のエンダルシアと同じように、古い神が後ろにいる可能性が高いわ。私達と同じくらいとまではいかないだろうけれど、それなりの古い神ね。だからホリエートは今まで以上にこの国に目を向けておきなさい、きっと直接何かを仕掛けてくるわ」
『分かった、注意をしておこう。この国は我らの子供、守らねばならぬ』
なるほど、テイニハルト帝国の背後にいるのは古い神の可能性が高いのか、だからテイニハルト帝国は戦略として神を利用する手段を確立させたという可能性も高いな。
「テイニハルト帝国の件には統括AIの意思は絡んでいないわ、完全にその神の意思ね。だから宗吾達は、遠慮なくテイニハルト帝国と戦えばいいわ、でもなるべくホリエート王国からは出ないようにね、狙われているのはこの国だから。古い神、恐らく悪神がこの地を奪って行いそうな事と言えば、この地に集まる神の力を利用した壮大な何かよ、世界征服もできるかもしれないし、もしかしたら統括AIに何かをする可能性もあるわ。だから必ず、この地は守らないといけないわよ宗吾達は」
「分かった、覚悟しておく。絶対にこの地はテイニハルト帝国には奪わせない」
「それじゃあその為の手段を教えてあげて欲しいわ、ホリエートには。《神域展開》を教えてあげて、今の私達の受け皿となった宗吾達ならできるはずよ」
『そうだな、様子を見てそれを教えようと思っていた。ならば鬼神よ、娘達よ、今のお主らが4人揃えばこれは行えるだろう、感じて覚えるのだ、《神域展開》』
呟いた瞬間、ホリエートから力が空間に流れ広がっていく、そうして現れたのは、長閑な田舎の風景。
木々が立ち並び遠くには山も見える、畑が広がりぽつぽつと家屋が立ち並ぶその光景を見て、アリシアが目を細めた。
『懐かしい風景、昔一緒に育った場所ね』
『いつまでもこの景色は、我とアリシアの故郷、心の中に存在するものだ。力の流れは分かったか、鬼神、娘達よ』
「あぁ、分かった、きっと同じ事ができるだろう」
「私もできます」
ホリエートの問いに答えた俺に続けてリフレ達も答える。実践してもらって力の流れは分かった、俺達も同じ事が行えるだろう。
『神域とは心の情景を映すもの、シィルオーツのように古い神や我のように人と共に育った者はこのように情景を映し出すが、お前達が今まで戦った神は真っ白な空間だったのではないかな』
「あぁそうだな、何もない空間だった」
『それはな、何も映していないのだよ、心に。だから真っ白なのだ、もしくは薄っぺらい、なのでそのような神域であれば、お主らの心ならば塗りつぶせる、そうして塗りつぶし、自身の力を更に引き出すのだ、そうする事で強敵にも立ち向かえるだろう』
「ありがとうホリエート、この力は必ず俺達の力になるだろう」
そうしてホリエートの生み出した神域は元の空洞に戻る、今の情景がアリシアとホリエートが育った情景か、良い所だったな。
「それと宗吾達には、この国を回って欲しいわ。この国の転移門のある街はドゥヴァッツまで、今宗吾達は私のいるチトゥルナッツまで来ている、あと6箇所ね。周辺を探索して、あなた達の力となりそうな素材を探してみてね」
「分かった、そうするよ。ジヴァーナッツに寄ったらシィルウーツの所に寄ってみるかな」
「それもいいかもね、もう一度直接顔を出してあげなさい、あの子結構寂しがり屋だから」
そうなのか、意外と寂しがり屋なんだなシィルウーツは、近くに寄ったら顔を出すか。
「それじゃ、私はこの辺で失礼するわ。またねホリエート、アリシア」
シィルオーツはそう言って光に消える、その姿を見送ってから、呆れたようにホリエートが言った。
『随分と古の女神から寵愛を受けているではないか、鬼神よ、それほどに鬼神と肉体と魂を交わらせたのが良かったのだろうな』
「あまりそういじめないの、ホリエート。宗吾だって大変なんだから」
呆れ混じりに言ってくるホリエートにネスが庇うように言ってくれる、本当に庇ってくれるのはありがたいんだが、申し訳ない気持ちにもなってしまう。
『それにしても、あの女神が言うからにはテイニハルトの狙いがこの地だというのは間違いないな。いざという時は我もアリシアも戦うが、その時は本当に最終決戦でなければこの国が先に滅びてしまう、だからなるべく鬼神達が戦いに赴いてくれると助かるぞ』
「そうだな、お前達が戦えばこの国にも被害が出る、それは最後の手段だ。普段は俺達がなるべく戦うようにするよ」
「わたくし達で対処すれば、ホリエート達が被害を出さずに戦えますものね、何とかしてみせますわ」
そうだな、ホリエート達が戦えばどうしても国に被害が出てしまう、だからなるべく、俺達で対処するのが一番だ。
『まだ決戦の日まで時間はあるだろうが、遊んでばかりいては時間が無くなるだろう、気を引き締めろよ、鬼神、娘達よ』
「分かってます、まずはこの国を巡りましょうね、宗吾様」
「ん、私は道具作り頑張る、まずはソーマの完成から」
うん、リフレの言うように国を巡って素材なりを手に入れよう、そして自分達だけではなく、道場の者達の強化にも利用するんだ、ナリンセンには色々作ってもらうだろうが、頑張ってほしい。
『それでは今日はここまでだ、お主達を麓に送ろう。また何かあれば連絡する』
「あぁ、またなホリエート」
俺の挨拶と共に光に包まれ、俺達は山の麓に転移する。さて、この話をまずはするべき所にしに行かないとな。
「先に『電脳遊戯倶楽部』に話に行こう、それから経営陣だ」
「ん、色々話さないといけない事が多い」
そうだな、今回は本当に話しておかないといけない事が多い、まずは女神達の話からしないと。
俺達は王都の転移門からドゥヴァリエへと戻り、まずは『電脳遊戯倶楽部』へと入る。店に入るとシュベルトがカウンターにいた。
「あ、皆さん。応接室へ」
「すまんな毎度」
シュベルトも修行忙しいのにすまん、心の中で謝りながら応接室に入ると、リットンとマリッサがいた。彼女達は俺に気付くと手を挙げるので俺達も手を挙げて挨拶しソファー席の向かいに座る。ナリンセンはリットンの隣だ。
「それで、今回はまたなに」
「あー、話すと長いんだがな。まず俺達は第14の街で話に出たブラックウルフの森に行ったんだ、そこで、自らを封印していたホリエートよりも古い、力のある女神と出会った。で、なんだかんだあって俺達で彼女の過剰な力が分散するように受け皿になって、彼女の他の姉妹にも同じように受け皿になったんだ」
「ドゥヴァリエの森のブラックドッグが凶暴なのもその封印していた女神が原因だったんです、今は宗吾様が力の受け皿になっているので多少マシになっているかもしれません」
俺の説明にリフレが追加すると、マリッサとリットンがポカンとする。長い間謎だったブラックドッグの異常性の原因が今明かされたのだ、そりゃびっくりもするだろう。
「呆れた新事実ね、それでその受け皿となったソウさん達はどうなるの?」
「それに関してはまた後で。で、だ。こっからが重要なんだが、俺が植樹した世界樹を通じて、統括AIが彼女達に連絡を取った」
「……なんで統括AIまで出てくるんですか?」
ごめんリットン、その詳細に関してはあまり言えない話だ、俺と彼女達の肉体関係に関してはあまり話したくない。
「統括AIが彼女達に話した内容としては、統括AIは俺をなるべく早く神にしたいらしい。俺が神になると、今の物理的な環境に縛られる事無く、完全に世界として独立するそうだ。どういう事かはわからんが、ゲームサーバーという縛りから解放されるという解釈でいいと思う」
「この世界の今後は、宗吾さんにかかってるのは間違いない」
今度は俺の説明にナリンセンが付け加えて、再びマリッサ達がポカンとする。うん、俺も話を聞いててよくわからんが、どうやらそういう事らしいのだ。これはもうそういうものだと受け入れるしか無い。
「もう俺達は今の時点で神になるしかない、時間が経てば勝手に神になる、だがそれより早く神になれと統括AIは求めているらしい、そうすればこの世界はサーバーの停止などに怯えずに完全に独立する一個の世界になる、それを統括AIは求めている」
「……どういう理屈でそうなるのかは分からないけれど、ソウさんが神になればこの世界は永遠に続くという事ね、それを統括AIは早くして欲しいという事か」
「そういう事らしい、本当にどういう理屈かはわからんがな」
「といっても、早く神になれって言われてなれるようなものじゃないでしょ、どうしろっていうのよそれ」
「それは全くわからん」
うん、マリッサに言われるまでもなくそれは全くわからんのだ、どうしろというのだ俺に。それで、だ。
「統括AIの話はこれで終わりだ。で、今のテイニハルト帝国の問題について。どうやらこのホリエート王国は元々神の力の集合地だったらしい、だから色んな神の影響で色んな地方で砂漠だのサバンナだのが発生しているという事らしい、テイニハルト帝国の本当の目的はこのホリエート王国、ベリエスタンはただ通過点だとその女神もホリエートも言っている。そしてそのテイニハルト帝国の裏にいるのは恐らく、それを知っている古い神なのだろうという話だ」
「それに備える為にわたくし達に国を周れと言われましたわ。国を周って力となる素材等を手に入れて力をつけろと、そこまで差し迫っている状況ではないようですが、遊び呆けてはいられないと言われましたわ」
「神の力の集合地、それで色んな地形が存在しているか、ある意味納得できる話ね。それで、その神の力の集合地を狙ってテイニハルト帝国の神は何をするの?」
「そこまでは分からんが、やろうと思えば世界征服なり、統括AIをどうにかするなりできるかもしれないという事だ」
「また統括AI、統括AIをどうにかされたら流石にまずいわねそれは、世界が大混乱に陥るかもしれないわ」
そうなのだ、統括AIをどうにかされると、世界が一気に混乱に陥る可能性が高い、まだ世界征服のほうが可愛い野望の可能性がある。それは流石に、どうにか阻止しなければならない。
「だから何としてもホリエート王国は守らないといけない。その為の備えとして俺達は世界を巡る、どんどん前に進んで素材を探そうと思う」
「それでいいと思うわ。今前線組は14で停滞しているからその先の情報が無いけれど、どんどん進んじゃいなさい」
「なんで停滞してるんだ?」
「あなた達が13でグリフォン狩ったからよ、公式動画になっているわ。14に先走った前線組は後悔しているわよ、13で待ってればよかったって」
「それこそ自業自得というか、知るかという話だな」
勝手に人に怯えて先走った奴らの事なんぞどうでもいいな本当に、マリッサの考察が正しければまたグリフォンには遭遇できるだろうから、引き返してライオン狩りでもすれば良いのだ。
「この国に転移門があるのは残り6箇所と言っていた、第20が最終地点だ、とりあえずそこまで素材になりそうなものを虱潰しに当たる、ゲーム内で明日からは第15だ」
「新素材手に入れたら見せて下さいね~、ちゃんと鑑定しますから」
「そこらへんの目利きは頼むよ」
そういう所は本当にこの店に頼むしかない、今後の為にも。
「シャマールのオリハルコンの鎧はどうなりそうだ」
「ゲーム内であと一週間って言ってたわ」
「ベルカスの神剣が全部揃うのは?」
「ゲーム内であと2週間」
「とりあえず師範代と内弟子達の鎧にヒュドラ粉末と真竜粉末を塗布するのはどの程度でできる?」
「それはシュランゲでもできるから、ゲーム内で一日あれば」
「じゃあ先にそれをやってしまおう、後々オリハルコンに更新するだろうが、先に戦えるように塗布だけはしておこう」
最低でも戦えるようになるには真竜粉末を塗布する必要がある、それをしなければ神域にも行けない。なのでそれを優先的にやろう。
「ライオンの鬣の服は?」
「それはもう出来てますよ~、バジリスクで要領覚えたし布にするのも速かったです」
「この子神衣作れるようになってから作業速度がすごい上がってるのよ」
「それじゃ早速師範代達に連絡しておく、取りに来させるから」
「あいあい~」
うん、着々と準備は進んでいるな、この調子で対テイニハルト帝国用の準備をしていかなければいけないな、今後も。




