私を殺しに来たの?神殺し
朝食後、胡桃の出勤を見送ってから午前の鍛錬、風呂に入ってログイン。店までナリンセンを送って転移門へ行くと、門下生は15組に増えていた。
これ放っておくとどこまで増えるんだろうかと思いながらみんなで第13の街へ転移して、サバンナへ移動、探索を開始した。
途中で昼食を食べてから再び探索をすると、反応する気配、これはやはり、オスライオン。
「やはり遭遇率が高い、おかしい」
「事前情報と違いすぎるわ」
俺の言葉にネスも同意して警戒しながら討伐していく、オスライオンを護衛するように配置されたメスライオンも増えている、オスメス全体で15匹だ。
中々骨が折れるなと思いながら一体ずつ撃破していき、残り5匹という所でそれは来た。
「っ!急加速で接近してくる奴がいる!」
「どこから!?」
「空だ!!」
高速で近づいてくる物体を確認しながら目の前のライオンに対応していると、とうとうそいつは姿を現した。
大きな獅子の身体に、背中に白く大きな翼、目の前のライオンよりも更にでかい巨体が、まるでライオン達を守るように俺達の前に降り立った。
全体で10メートルくらいはありそうなその巨体の翼の生えたライオンは、俺達に向かって吼える。
『グオオオオオオッ!!』
「くっ!」
全身をビリビリと響かせる咆哮に一瞬身体を硬直させると、そのライオンは突進してきた。
「避けろ!!」
慌てて全員で散開して避けるとライオンは方向転換して再び突進、前足で攻撃してくる。それを手甲で受けると身体ごと後ろに押し出された。
「こいつ、力が強い!」
地面に踏ん張った後をつけながら下がらせられると、だがライオンはそれが不服なのか再び俺目掛けて突進してくる。その横からネスが横腹に飛び込みクナイを振るうと、その横腹にしっかりと斬撃が入り血が吹き出す。慌てて身を捩って方向転換した所にリフレが槍を突き出すが、それをジャンプして避け、そのまま空中を旋回し始めた。
「こいつやっぱり飛ぶんだな」
「飛ばれると厄介ですわね、翼を潰しましょう」
俺の呟きに反応したフタバに頷く、飛ばれるのは厄介だ、その翼を潰すに限る。旋回していたライオンが、急降下してくる、狙いは俺。
急激な角度で急降下してきたライオン目掛け、ネスとフタバが跳んだ。
「ネスティフ!」
「えぇいくわよ!」
フタバとネス、2人で真っ向からライオンに向けて跳び上がりその広げられた翼に向けて刃を振るうと、その両翼が断ち切られるが、既に勢いのついた落下速度は変わらない。
俺はしっかり踏ん張って、その顔面に正面から拳を叩き込んだ。
「おおおおおっ!!」
ゴン、という音と共に衝撃が内側に通り浸透勁が炸裂、俺の目の前に落下した所に俺が飛び退いてリフレが槍を突き出す。
「せいりゃぁ!」
深々と額に突き刺さった槍を抜いてリフレが飛び退くと、その巨体のライオンはもう動く事は無かった。ふぅ、これで終わりかと周囲を見渡すと俺達が相手取っていた残りのライオンは既に退散した後だった。
退散されては仕方がない、残った死体のライオンの毛皮と鬣を処理してから、翼の生えた大きなライオンをどうしようか考える。
「やっぱり『電脳遊戯倶楽部』にお願いするか」
「それがいいと思います」
俺の提案にリフレも同意して死体を丸ごとインベントリに入れてナリンセンに連絡、翼の生えたライオンで10メートルくらいと連絡するとすぐに道場前の空き地で待機すると返信があった、助かる。
そのまま街に戻りみんなで空き地に行くと『電脳遊戯倶楽部』のみんなとガミンガ達、調薬ギルドと狩猟ギルドのギルド長達までいた。
「何かあるかと思ったけど、やっぱりあったわね」
「そうだな、やっぱりあった」
マリッサと2人で苦笑しながら防御シートの張られた上にライオンの死体を置くと、みんなでおーと言ってからナリンセンが言う。
「まさしくグリフォン、空の獅子、よく倒した」
「空の獅子か、確かに空飛んでたもんな」
みんなで解体して肉は狩猟ギルド、内臓は皮なめしに使う以外は調薬ギルドが持っていき、皮と爪、牙をそれぞれ分配、鬣は全部『電脳遊戯倶楽部』だ。
断ち切られた翼も店で買取してもらって全て処理を完了した所でマリッサが言う。
「多分だけど、こいつはオスライオンの討伐数が関係あると思うわ」
「討伐数?」
「そう、一定以上のオスライオンを討伐すると定期的にグリフォンが現れるようになっているとかそういう感じ、考察スレに投げておくわ」
「了解、よろしく頼むよ」
そういう情報の取り扱いに関してはマリッサに一任しているのでお願いしてしまう。もうこちらの世界では夜なのでみんなでそのまま本拠地で夕食にして、風呂に入ってからログアウトした。
現実で昼食を食べてから午後の鍛錬、風呂に入って再度ログイン、ナリンセンを店に送るついでに入店すると、マリッサがカウンターにいたのでそのまま話す。
「よう、グリフォンの鬣とライオンの鬣で師範代達の神衣は作れそうか?」
「えぇ数としては十分ね、2着ずつは用意できると思うわ」
「それならいい、魔獣の蚕の絹の服は?」
「そっちはもう用意できてる、今日4人に着てもらってそのまま引き渡しよ」
なるほど、準備は着々と進行中という訳か、これはいいな。そうしてマリッサと話していると店にガント達が入ってくる。
「あ、師範代お疲れ様です」
「あぁお疲れ。早速試着か」
「えぇご用意いただけたという事ですので」
俺の言葉にシュンが答えてそのままマリッサから商品を受取る、衣装の見た目は俺達のものと一緒だ。
「様式はソウさん達のと合わせたわ、統一感あったほうが良いかと思って」
「なるほどね、早速着てみろ」
「はい!」
そうしてみんなが試着室で着替えると、なるほど存在感が増している、これは上手くいったかもしれないな。
「それじゃ軽く魔力制御だ、やってみろ」
「はい!」
全員で魔力制御すると更に存在感が増し、迫力が出る。これは確かに、ホリエートにも似た気配を感じる、これは成功だな。
「うん、神衣だな、上手くいったみたいだ」
「これは凄い服です、神の攻撃を防ぐのも納得です」
「えぇ、魔力制御もしやすく、とても使いやすいです」
俺の言葉にメープリーとイロハッチが感動したように衣装を見回しながら言う、うん、喜んでくれてなによりだ。
「今後はそれをメインに使うように、ちゃんと洗濯とか忘れるなよ」
「そうします、幸い速洗の魔道具もありますしね」
そうだな、あれのお陰で毎日2着を着回しできている、あの魔道具には本当に感謝だ。ガント達はそのまま服を着て狩りに出かけた、早速調子を確かめるみたいだ。
それを見送ってからマリッサに言う。
「本来なら門下生全員に配りたいんだが流石に無茶だから、師範代と内弟子だけにする。今後の魔獣の蚕の絹は普通に卸せるぞ」
「ありがたいけれど、あれで普通の服作っても勿体ないし、やっぱりドレスかしらね。それにしても素材が超高級品だからとんでもない値段になるけれど」
「ま、そこらへんの扱いは任せるさ、欲しかったら経営陣の方に相談してくれ」
「分かったわ、ありがとうね」
普段からこの店にはお世話になっているからな、優先的に卸すのは問題ないという訳だ。
「それで、師範代の分も十分なら俺達は第14に行こうと思う、あれ以降追加の情報あるか?」
「特に無いわね、平原には動物が多くいて、森には前にも言った黒い狼が大量に出るくらいかしら」
「そんなもんか、それじゃあ俺達の目標はその森だな、ありがとう」
「えぇ、素材手に入れたらよろしく」
マリッサにそう言って店を出る、さてそれでは。
「第14に行って情報収集した後で早速森に行ってみるか」
「そうですね、楽しそうです」
リフレも楽しそうに頷いて、俺達は第14の街に早速転移した。情報収集の為に狩猟ギルドへ向かう道すがら、やはり来訪者に見られる。
「もう来てる」
「速すぎるだろ」
「なんで前線に来るんだ」
いやなんかすまん、別に前線に来たい訳じゃないんだけど、行く所がもう既に前線になってしまっているんだよね俺達、粗方用事済ませて街進むともう前線になってしまうようになってしまったのだ。
「別に我々の事など気にしなくてよいのに」
「前線組のプライドとかいうのがあるのよ」
フタバのそんな呟きにネスが苦笑しながら返すが、そんなプライドなど溝に捨ててしまってよいかと思うのだ、下らない。そんな事思いつつ狩猟ギルドで確認する。
「すみません、黒い狼の出る森ってどこでしょうか」
「あぁブラックウルフですね、それなら北の森ですけれどおすすめしませんよ、数は多いですし凶暴ですから」
「そうですか、ありがとうございます」
なるほど狩猟ギルドでもそういう認識なら楽しそうな森だ、早速行ってみよう。北門から出て30分、すぐに森へと到着すると内部へと侵入する。
内部は鬱蒼と草が生い茂っており、薬草類も豊富だ。少し摘みながら進むとすぐにこちらに駆け寄ってくる反応がある、早速お出ましか。
「さて、どんなものかな」
「まずは小手調べですわね」
草をかき分け現れたのは全身真っ黒な狼、その数は6と中々の数だ。そしてそいつらは脇目も振らず、俺達目掛けて飛びかかってきた。ブラックドッグと同じような、まるで狂乱じみたその凶暴さを感じながらまずは一匹正面から殴り潰し、二匹目を回し蹴りで沈める、三匹目は上げた足をそのまま踵落としで頭を潰した。
残りの3匹はそれぞれリフレ達が相手取り一匹ずつ処理を終える。ふむ、こんなものか。
「こいつらはやっぱりブラックドッグと同じだな」
「そうね、なんだか狂気じみたものを感じるわ」
一体何が原因でこんな風になっているんだろうなと思いながら皮を剥ぐと、やはりその胴体の中に魔核を発見する、こういう所もブラックドッグと同じだ。
皮以外を全て土魔法で埋めて、再び前進、すぐにブラックウルフと遭遇するのでやはり討伐して皮を剥いで残りを土に埋める、しかしこうも繰り返しとなるとな。
「なんだってこんな性質なんだこいつらは」
「ブラックドッグといい謎ですよね」
リフレの言葉に頷く、どうしてこうもこいつらはこんな狂気じみた感じで襲いかかってくるのか、それが謎だ。
一体何が原因なのかと感じつつ先へと進み、ある程度ブラックウルフを討伐してそろそろ戻ろうか、と思った所でそれを感じた。
「なにか、ある」
「なにか感じましたの?」
「あぁ、この先に何かを感じる」
フタバの問いかけに肯定して先を進む、引き返そうかと思ったがそれが気になる、なんだか、気になる気配だ。その方向に進みながら、道中で出てくるブラックウルフを片付ける。
「皮はいらない?」
「今はこの気配が気になる、素材は無視しよう」
ネスの問いに言いながら先を急ぐ、次第に感じる気配が強くなっていく事を意識しながら先へと進むと、やがてそこに辿り着いた。
何でも無い場所にある、立てられた石。本当に無造作に石が置かれており、その周囲には何もない。だがそこに、確かに何かがあると感じる。
「確かになにかあるわ、ここ」
「そうですね、感じます」
「悪い気ではないですが、何かありますわね」
3人も同じ感覚を得ている事を理解して、その石に近づくと、途端にその石が光った。次の瞬間、俺達は深い森の中にいた。
今までも森の中だったが、それよりも自然な、なんというか荘厳な気配のする森だ、これはまさか。
「これ、神域じゃ」
「あぁそうだ、ここは神域だ」
過去に2度経験した事のある、神の空間、神域。リフレの言葉に同意して周囲を確認するが、過去に経験した神域は真っ白は空間だった。だがここは明らかに深い森の中、でも感覚は確かにここが神域だと訴えている。
一体どういう事だと考えながら全員で四方を見るように固まり武器を構えていると、正面からその存在はやってきた。
真っ黒なドレスを着た、黒髪の美女。絶世とも呼べるだろうその美女は、俺達に向かって問いかけた。
「私を殺しに来たの?神殺し」
しっかりと俺達を見据えて問いかけるその美女は、間違いなく、神だった。




