表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/295

そうですわね、しっかりご飯を食べておきましょう


 朝起きてから朝食、胡桃が会社に行くのを見送る時にキスをすると一瞬キョトンとした後で胡桃がにっこり笑った。


「どうした?」


「宗吾さんからしたの、初めて」


「そうだったかな」


 あまり意識していなかった、俺からしたのは初めてだったか、そのまま笑顔で胡桃が車に乗り込むのを見送ってから午前の鍛錬。うん、思うように拳が振るえている、これなら心配はない、俺はまた前を向いて拳を振るえる。

 風呂に入ってからログインしてみんなと合流した時に伝える。


「ナリンセンを送ったら1人でチェミールの所に行ってくるよ、みんなは好きに過ごしてくれ」


「分かりました、いってらっしゃいませ」


 みんなでナリンセンを店に送ってから俺は1人で転移門へと行きシャスチニへ転移し、そのまま軍部へ。相変わらず軍部に入るとそのままチェミールの所に通され、部隊長室で書類仕事をしていたチェミールに話しかける。


「よう、先日は手間をかけたな」


「何我が友の為だ、あれくらい何でもないよ」


 部隊長室のソファーに対面で座りお茶を用意してもらったので一口飲むと、チェミールが教えてくれた。


「あの後の事を伝えようか。ウチの父もそうだがゲンドル殿もそれはもう怒り心頭でね、ジェニス家にも王子にもすぐに話は伝わった。セニタス当主はまず失敗するとは思っていなかった、失敗してもジェニス家が出てきて終わると思っていたみたいだね、彼の家も侯爵、ジェニス家相手ならなんとかなる。しかし第1王子第2王子が出てきて、その王子までも怒り心頭になるとは思わなかったと」


「それはまた、ありがたい話だ」


「今セニタス当主は王都に留め置かれている状態で、沙汰を待っている。王としてもいくら蟄居しているとは言え息子である第1王子と後継者になる第2王子が揃って同じように怒っている状況は看過できないし、悪神を倒し国を守った相手にやった事は悪質だ。今セニタス当主が君以外の他の者にもやらかした事を調査している所だが、王子達は少なくとも領主はすげ替えるつもりだと言っているよ」


「それもありがたいな、今のままだと素直にスェーミェに協力しようという気にはなれないからな」


「そうだろうともさ、少なくともセニタス家はただでは済まないよ」


 全くありがたい話だ、こうしてみんな怒ってくれるとはな。あの男に関しては今だに殺してやりたいとは思うが、多少溜飲が下がるというものだ。

 そう考えているとチェミールが含み笑いをしながら言ってくる。


「それでセニタス当主が灼熱の吐息なんてものまで使った理由だがね、本人としては神殺しが常人の範囲に収まる人物ではないと理解はしていたようだ、だからそんなものまで持ち出したらしい。流石に動物の繁殖に使われる強力な薬物であればなんとかなると思ったんじゃないかな」


「それが分かってるのになんでそういう手段に出るのかねぇ」


「そればっかりは本人が言わないから分からないけれどね、まぁ弱みを握って都合良く使おうとでもしたんじゃないかっていうのが有力な見方だね」


 全く馬鹿げた話だ、どうしたらそういう思考回路になるのか、今までも同じ手段が通用してきたから俺相手でも通用すると思ったのだろうかね。別に何もしなければスェーミェに普通に協力する分には問題なかったのに、自分で問題を起こしてしまうとはな、呆れたものだ。


「それで君にとってはさらに不愉快な話だが、君がその手段で上手く行けば、同じ手段でリフレ君達にも男を宛てがおうとしていたんだ、それは既に当日に俺達で調べて判明している、それ用の貴族の子弟や商人の子弟が用意されていたよ。最悪本人が好きなように弄ぼうとしたかもしれないね、彼女達は美しいから」


「今から王都行ってあいつ殺してこようか」


「流石にそれは庇えなくなるからやめたまえ、気持ちはよく分かるがね。その貴族の子弟達も今は立派な情報源だし利用価値はある、セニタス家を領主からすげ替えるまでは利用させてもらうさ」


「全くなんてゲス野郎だ、そこまで醜悪な奴は中々いないぞ」


 あぁなんか、想像しただけで腹が立つ、あの顔を思い出すだけで何かを殴りたくて仕方がない、ゲス野郎すぎる。


「領主が替わるまでは九堂武術道場はスェーミェを利用しないように通達する、その間に何があっても俺達は知らん」


「それでいいと思うよ、わざわざ使ってやる必要もないだろうしね」


「すまん、色々教えてくれて感謝する、今日はこれで帰る」


「あぁ、存分に彼女達と共に過ごしてくるといいよ」


 俺がその場に立ち上がって言うとチェミールが笑顔で見送ってくれる、そんな所も申し訳ないが、今はすぐにでも彼女達に会いたい気持ちで一杯だった。

 俺は軍部の出口に向かいながらすぐにギルドチャットで道場の全員に連絡あるまでスェーミェの利用禁止を通達した後でグループチャットで彼女達にすぐに当主の間に集まってくれるように連絡する。そうして転移門を通ってドゥヴァリエに戻り本拠地の当主の間へ入ると、店で仕事をしていたナリンセンも含め全員が集まってくれていた。

 みんなでお茶している姿を見てほっとした所でリフレが問いかけてくる。


「何かあったんですか?お怒りのようですが」


「あぁ、まぁな、さらに不愉快な話があった」


「とりあえず、お茶を飲んで落ち着いてくださいまし」


 フタバの用意してくれた竜の水の緑茶を飲んで一息ついて、どうにか精神を落ち着けようとする。竜の水の緑茶は本当に美味い。


「それで、何があったの?」


「本当に不愉快な話だ、口にしたくない」


「駄目、ちゃんと共有する」


 ネスの問いかけに教えるのを拒否すると、ナリンセンに窘められる。だが確かにみんな集めておいて言わないというのも、と考えてから正直に言う事にした。


「あの領主は俺に盛った薬をお前達にも飲ませて男を宛てがおうとしていたらしい、男が用意されていたそうだ」


 俺の言葉にみんな驚いた後で、顔を青くしたり無表情になったりと反応は様々だった。その後で表情を消したフタバが言う。


「そのような事になったら舌を噛んで死んだ後で現実でも舌を噛んで死にます」


「私もです、薬を飲まされてどうにかされるくらいなら死にます」


 同じく無表情のリフレが重ねて言うと、ネスとナリンセンが怒りの表情を浮かべる。


「私はその場の全員殺した後で死んで、やっぱり現実に戻って死ぬわ」


「ん、その場の全員燃やし尽くす、その後死ぬ」


「そうはならなかったから良かった、だがやはり許せん、なので領主がすげ替わるまでは道場の全員あの街を利用禁止にした」


「あの通達はそういう事だったんですね、納得です、それにしてもゲス過ぎる輩です」


「全くだ」


 リフレの怒りの言葉に全面的に同意する。その考えがゲス過ぎる、外道の輩だ、その手で被害を受けた人は思った以上に多いのではないだろうか。しかし、と思う。


「これは完全に俺の独占欲だ、俺はお前達の誰か1人のものになれないのに、俺はお前達に手を出されるのを想像しただけで許せなかった、我儘な話だが、俺はそういう奴だ」


「宗吾さんはそれでいいのですよ、そんなあなたをわたくし達は愛しているのですから」


 俺の言葉にそう答えてくれるフタバにありがたく思う、完全にこれは俺の我儘、独占欲だ。自分でも驚くくらい想像しただけで怒りが湧いてしまったのだ。こんな俺を受け入れてくれた彼女達をありがたく感じる。

 そこへ、ネスが俺の腕を引っ張った。


「今度は私達に付き合って、あんな話聞いて、あなたと触れ合いたくなったわ」


「そうですね、今は宗吾様とたっぷり触れ合いたいです、想像するだけで嫌な今の気持ちを、変えて下さい」


 リフレにももう片方の腕を引っ張られて立ち上がる。


「今は俺も、感情をぶつけるだけになってしまうぞ」


「それでもいい、むしろ一杯ぶつけて欲しい、今はそういう気分」


 ナリンセンにも抱きつかれてもはや逃げ場はない、だが確かに今は俺もそういう気分だ、今だけは自分で決めた約束を少しだけ破ってしまおう。


「さ、一杯愛し合いましょう、旦那様」


「あぁそうだな、今だけはそれも許されるだろう」


 そうして俺達は今度はお互いの感情をぶつけ合うように愛し合った。俺の発散だけの行為じゃない、感情のぶつかり合いをしっかりとしてお互いを確かめ合った。

 みんなが満たされた頃にはこちらの世界で夕方になってしまっていた。


「あぁ、こちらの昼食食べていない、夢中になってしまった」


「私も、普段より無我夢中になってしまいました」


 俺の呟きに俺の胸を枕にしたリフレが言う、それだけ今回の話はお互いに心を揺さぶられたという事なのだろう、あの領主の考えはやはり許せん。


「宗吾、胡桃がまた寝てるわ」


「体力一番ないもんな、申し訳ないな。胡桃、起きろ」


 やはり俺の腕を枕にして寝ていた胡桃を腕を揺さぶって起こすと、胡桃はゆっくり起きた後でにへらと笑った。


「今日は別の意味で凄かった、今まで以上に感じられた」


「そうですわね、なんだかお互いの繋がりがより強くなった気がしますわ」


 二葉も普段よりも満たされたような表情を浮かべる、なんだかそれも分かる気がするな。それで、だ。


「次からは現実時間の3日おきに戻そう、うん、やはりこのままでは溺れてしまう」


「そうかもね、今でも現実でも求めてしまいそうなのに、こちらの世界で連日してしまうと我慢できないわ」


 俺の意見に智香子も冷静に同意する。うん、やはり現実でも求めてしまいそうになる、そうなったら自制が効かなくなりそうだ。そんな事を思っていると急に胡桃が頬を膨らませる。


「この後みんな宗吾さんと現実で昼食、私会社、うらやましい」


「そうだな、ごめんな胡桃」


「帰ったら一杯甘えたい、それで許す」


 そう言いながら枕にした俺の腕にたっぷり頭をこすりつける、恐らく今も甘えているのだろう。


「さて、それじゃあシャワー浴びてこちらで夕食食べてからログアウトしよう、そしたら現実で昼食だ」


「そうですわね、しっかりご飯を食べておきましょう」


 みんなでシャワーを浴びた後でこの世界での夕食を食べていたのだが、そんな中でやたら経営陣の方がにこにこしていたのが気になった。あ、防音の魔道具忘れてた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ