是非ネスティフさんに、一手ご指南を
『公式動画』を観戦したが、割と良く編集されていたというのが率直な感想だ。俺が見ていない場面でのリフレやネスの立ち回りも鮮やかに映されていて良かった。ただ自分のシーンになると、うん、確かにこれは恥ずかしい。客観的に見るとこんな立ち回りしていたんだなとこそばゆくなる。
ただそれと同時に、この時もうちょっと上手く立ち回れたかも、なんて振り返りもできるしそういう点では良い、かな。だが『公式動画』の公開と共に各種スレッドで議論されている『ソウチーター説』とか『ソウサイボーグ説』とかを見ると普通の立ち回りじゃないんだな、と改めて実感した。
そして興味本位で「ネスティフ」で検索をかけると『伝説の忍者の末裔』『ニンジャソウルを宿したNINJA』『ポー○ルバニーニンジャ』『ネスティフ疾風伝』など俺より散々な言われようだ。やはり日本人は忍者好き。これは確かに、恥ずかしすぎて『しにたい』発言が出てしまうかもしれない。
それとやはり出てきた『ネスティフたん』。これも地味にダメージでかいと思う。ここは一つ『~~たん』の先輩であるリフレにその心持ちを教授していただくのが良いのではないかな。
まぁ『公式動画』の内容に関しては割と好評、俺達に対して好意的な意見多数、って所かね。それだけは良かった、いや本当に。そんな事を思いながら夕食を食べていると、拳児と隼人が『公式動画』の話題を持ち出してきた。
「いや、師範代に関しちゃ分かってましたけれど。あのネスティフさん、凄い技量ですよね」
「えぇ、本当に。涼子はともかく、初対面の師範代に合わせられる方は中々いません」
「という訳で師範代」
「是非ネスティフさんに、一手ご指南を」
グイグイと迫ってくる拳児と隼人に苦笑を浮かべてしまう。そういうのあいつ、単純に嫌がりそうなんだよなぁ。
「まぁ、暇ができたらな」
とお茶を濁しておく。俺が言うのもなんだが、ネスの立ち回りは独特だ。それこそ才能の上に適切な努力を積んだ者のソレである。
立ち回り的に相性が良いのは隼人かな。拳児と涼子には相性が悪い相手である。そんな事を考えていると、興味深そうに上座から声がかかる。
「その話は興味あるね。拳児と隼人が言うくらいなら、本物なんだろう」
「親父……」
意外な人物の参戦に驚く。まさか自分の父親からゲームの話に興味があるという言葉が出るとは思っていなかった。
それに気を良くした拳児と隼人がならば早速と、食堂のテレビをインターネット画面に切り替える。こらこらこら!
「ちょ、食事中に見るもんじゃないだろ。出血とかあるんだし」
「俺はもう食べ終わったから、見てもいいよ」
「親父……」
アカン。こうなったら誰も師範である親父には逆らえない。あー、この大画面であの映像流れちゃうのかー。そう思ったのは俺だけではない。涼子も羞恥を浮かべている。
そうしている間に動画がはいドン!上映開始されました。うわー、これは恥ずかしい。俺の立ち回り、涼子の立ち回りにおぉ、とかうん、とか言いながら頷いている。
そしてネスの立ち回りを見た時にほぉ……と感心するように見ていた。そうして三人でアジトに突入したシーンからは無言で頷きながら見ている。
そうして全てを見終わった親父は、一つ頷いた。
「宗吾、どう見た?」
「あれは、そうですね。身体操作術を代々継承しているような家の者だと思います」
「うん、そうだろうね。跳躍術なんかは飛び六法なんかが有名だけど、現存してるのかどうなのか」
「飛び六法……忍者、ですか?」
唖然とした俺の言葉に親父がこくりと頷く。え、いや、さすがにそれは。と思ったのだが、拳児達はヒソヒソと会話をする。
「ネスティフ忍者の末裔説……」
「まさか、実在していたというのか……」
「いや、俺も実際に忍者を見たことが無いから確かな事は言えないけれどね。あれはかなり特殊な身体制御だよ。武道・武術なんかとは根本的に違う」
拳児達の言葉に注釈を入れつつ注意する。そうして親父は再び俺へと視線を向けた。
「彼女、宗吾と比較すると背丈は140前後かな。年齢は?」
「振る舞いとしては恐らく、俺より少し下くらいでしょうか。涼子よりも上ですね」
「えっ」
気付いてなかったのか、涼子。まぁあの背丈だ、見た目には誤魔化されやすい。
俺の言葉にうむうむと頷きながら、キラリと親父が目を光らせた。あ、これ嫌な予感するやつだ。
「彼女――欲しいね」
「えっ」
今度は俺が声をあげてしまう。本当えっだよ。何いってんの親父。欲しいって、何をどうするおつもり?
「まぁ何も情報が無いと始まらないから、そこからだね。そっちはこっちでやっておくから宗吾、涼子。彼女とは仲良くね」
『は、はい……』
有無を言わせぬ親父の眼力に、俺と涼子は頷くしかないのであった。
*********
「――っていう訳なんだけど。親父が何をどうするのか分からん。注意しておいた方がいい」
夕食後のログイン。金の牡鹿亭の俺の部屋にリフレとネスを呼び寄せ、ネスに今日あった事を告げる。するとネスが額を押さえて俯いた。
「ごめんなさい、ちょっと頭が……。いえ、それもアレなんだけど、そんな事私に話して良かったの?」
「裏があって関わっていくつもりはない、という誠意のつもり。実際そういうのは好かんからな」
俺がそう言うと、ネスは佇まいを正して俺に告げる。
「つまり、裏表のない関係でいようっていう事?」
「ま、そうだな。だからほれ、ウチの事情も話しただろう?」
「まぁ、そうね。師範代と内弟子っていう事も聞いてしまったし」
「あはは……そうなんですよね、実は」
ネスの言葉に照れくさそうに頭を掻きながらリフレが言う。それに対してネスは苦笑を浮かべながら言った。
「別にウチを調べられても……ねぇ。ま、いいわ。それに関しては頭の片隅に置いておくわ。何かのきっかけに私からあなた達に言うかもしれないけど、今は言わないでおくわ」
「ま、そうしてくれ。あ、ちなみにだけど検索サイトで特定キーワード入力すると情報出てきたりしちゃう系か?」
「あー、しちゃうわね」
「まずいな」
「まずいかもですね」
「まぁ、そうなったらそうなったで」
という事で、一旦置いておく事にした。そうしてウチの事情説明を終えた所で、再びネスがうーんと唸る。
「なんだ、どうした?」
「これよ」
ネスがそう言って手をスライドさせると、ネスのメニューウィンドウが可視化される。今開いているのは『メール』メニューだ。
そこには次から次へとメールが送られてきている。なにこれすごい。
「いたずらメール?」
「なのかどうかも判別できないくらい次から次にメールが来るの。ちょっと困っているわ」
「見なければいいのでは?」
「とは言ってもね。今の装備を取り扱っている店舗からの素材納入メールとかも来るようにしているから……。ていうかリフレさん、メール見てないの?」
「私はもう、メールメニューは金輪際開かないようにしているので」
凄い遠くを見つめながら言うリフレに思わず二人してお、おう……と言ってしまう。今のリフレの未読メールは一体何件になっているのだろうか。考えるだけで恐ろしい。
俺も自分のメールが気になったので、メールメニューを開いてみる。どうやらネスのように次から次に来るような状態にはなっていないようだが、未読メールが90件も来ていた。
「俺の方はネスに比べれば大丈夫だな。ただ、内容に問題があるなこれは」
内容の多くがリフレとネスに関するものだ。僻み妬み嫉みの類が多くを占めている。なぜいきなりスケコマシ野郎扱い?俺なんか具体的な行動をしたか?あの公式動画で。うーん、わからん。
「あの動画見てハーレム野郎扱いされるのは納得がいかんのだが……」
「それは、なんででしょうね」
「認知の歪み?」
そんな要素欠片もなかったと思うのだが。ええい、こういうのは纏めて運営に通報してやろう。この件数ならいけるだろう。纏めて運営さん、よろしくね。
そうして残った健全なメールは10件程度。だいぶ減ったな!!
「残ったのは全部、格闘技関連のお誘いメールだな。ギルド勧誘、闘技会勧誘」
『筋肉を引き締め隊』って、そんなギルドもあんのか……奥が深い。一応1件1件目を通して、全て既読にする。内容的にどれも俺の興味を引き出すものではなかった。全て既読スルーでいいか。
これで俺のメール処理は完了だ。そして未だに新しく来続けるネスのメール。まるで滝だな。
「ネス。もうメール見るのやめとけ」
「うぅん、そうよねぇ。この状態じゃあね」
「メール見なくても意外と平気ですよ。重要な情報は大体フレンド登録してる人から来るので」
「それもそうね。じゃあもう見るのやめるわ、メール会員解除しないと」
メールの対応を諦めたネスが、そのまま何事かの作業をしている。恐らくメール会員登録しているプレイヤーズショップへの対応だろう。
そのまま作業していたネスが、再び難しい表情を浮かべる。なんだろ、また何かあったんかな。すると、ネスが申し訳なさそうな顔を俺達に向けてきた。
「あの、二人とも。これから時間ある?」
「リアル時間であと三時間くらいなら大丈夫だが、何か厄介事か?」
「いえ、大した事ではないのだけれど。ショップの人が店に招待したいって。私達三人を」
「あぁ、そういう事ですね。私は別にいいですよ」
ネスの言葉に何か納得したリフレが頷くが、俺には何のことやら分からない。だが、時間ならあるからな。
「別にいいぞ。今から向かおうか」
「そうね、そう連絡しておくわ。店はドゥヴァリエだから、案内するわ」
そう言ってフレンドチャットの入力を終えたのだろうネスが立ち上がる。それに合わせて俺達も立ち上がり宿の部屋を出た。そこでネスへ確認する。
「それで、行く店はどんな店なんだ?」
「まぁ、行けば分かるわ。店の名前は『電脳遊戯倶楽部』よ」
一体どんな店に案内するつもりなんだ。その店名に一抹の不安を覚えるのだった。




