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死体も残らないからな


 昼食を食べてから午後の鍛錬。その後ゲーム内へログイン。当主の間から玄関へ出て3人と合流してそのまま転移門で第8の街へと到着した。


「さて、本格的にダンジョンに行こうか」


「そうですね、頑張りましょう」


 俺の言葉にリフレが気合を入れて頷く。そうして東門を出て一時間、ダンジョンの入り口の祠へと到着した。中に入ってダンジョンを入り口を確認すると、確かに鉱山ダンジョンと同じような入り口がある。4人でそこを潜っていくと、完全に周囲は平原だった。


「これはまた、凄いダンジョンだな」


「見渡す限りの平原ですわ」


 フタバの言う通り、見渡す限りの平原、目印も何もない。俺達の背後にはダンジョンの入り口しかない。


「みんな方位磁石で都度確認な」


「そうね、下手したら迷って出られないわ」


 そう、こんなに広い目印もない平原なんて迷う可能性が高い。今の地点から方位磁石を取り出して確認を行っておく。うん、真っ直ぐが北か。


「じゃあここを真っ直ぐ進んでおこうか。それが一番安全だ」


「そうね、そうしましょう」


 俺の言葉にネスが頷いて真っ直ぐ進む事にする。見晴らしの良い平原、隠れる所は何もない、敵と真っ向からの勝負だ。これは面白くなってきたなとワクワクしていたら早速気配察知範囲に反応があった。


「この先に二匹いる。向かおう」


「わかりました」


 リフレが槍を構えながら一緒に進み、敵を目視できる範囲まで来るとそこには巨人が棍棒を持って立っていた。ふむ、これがトロールかな。お腹のでっぷりとした巨人が俺達を見つけると、棍棒を地面に一度叩きつけて大股で走ってくる。


「あぁ確かに頭が悪そうだ」


「そうですわね」


 俺の言葉にフタバが同意してこちらもトロール目掛けて走る。トロールは手にした棍棒を大きく振り上げ俺達目掛けて振り下ろしてくるが、それより早く俺はトロールの懐に潜り込んで胸に浸透勁の拳をぶち当てた。それで動きの止まったトロールの首をフタバが寸断する。トロールの胴体は後ろに勢いよく倒れ、ズドンと大きな音を立てた。ふむ、こんなもんか。もう一匹のトロールを見るとリフレが胴体に槍を払い斬り裂き、ネスが首を刎ねる。あちらももう終わってしまったか。ならばそうだな、剥ぎ取りだ。


「トロールは皮だな。でかいから多くの皮が取れそうだ」


「胴体に関しては肥料にするから持って帰るんですよね」


「そうだな、経営陣の方にお願いされてるからな」


 みんなで剥ぎ取りをしながらトロールの皮は皮でまとめ、胴体はそのまま肥料用として収納する。うん、これでよしだな。しかしこれはどうなのだろうか。


「あまり手応えがございませんわね」


「オークとオーガに期待かしら」


 フタバとネスが言うがその通り、手応えがない。トロールに関しては思った以上に頭が悪いという事で理解しておこう。そうして再び先へと進み、またトロールと遭遇する。今度は三体だ。


「一体は俺1人でやってみる」


「では残りは私達で」


 リフレの言葉に頷いて前に出る。一対一だ、粘ってみろよ。やはりトロールは走ってきた勢いのまま棍棒を振り上げ攻撃してくる。棍棒が着弾する前にトロールの前へと踏み込み、胸に浸透勁。ドン、という音と共に反動が返ってくる。うん、心の臓が破裂したか。トロールは棍棒を取り落して胸元を押さえ、そのまま仰向けに倒れてしまった。うーん、こんなものか。隣を見るとやはりリフレが胸を貫き、ネスとフタバが首を刎ねる。それで終わってしまった。


「やっぱりいくら再生能力が高くても心臓は無理なんですね」


「首を刎ねても無理よね、さすがに」


 リフレとネスの言う通りさすがに心臓や首などは無理っぽい。俺達にはそのウィークポイントを的確に狙える技術があるのもこれだけあっさり終わってしまう理由だろう。


「俺達の想定する強い敵ってなんだろうか」


「カイザーアントとかヒュドラとか……」


 俺の単純な疑問にフタバが困ったように答える。そうだよな、今まで遭遇した強い敵ってそういう奴らだよな、うん。一般的には化け物レベルの相手になってしまう。


「本当にマリッサに言う通り、竜とかを目的に狩りをした方がいいのかもしれないわね」


「でもそんなの早々遭遇しませんよ」


 うん、そうだな、そんなの早々遭遇しない。ネスの言うことももっともだが、リフレの言う通りそんなの頻繁に遭遇しないから困ってしまう。俺達が期待しすぎなのだろうか。ともかく剥ぎ取りを行い皮と胴体を確保、再び先を進む。すると今度は、多数の反応が引っかかった。


「お、これはオークかオーガかもしれん。いくぞ」


「少し期待いたしましょうか」


 期待を胸にその方向へ向かうと、そこには豚というより猪の頭をしたでっぷり太った集団。なるほどこれがオークか。俺より少し背が高い程度のその集団が、俺達を見つけると鳴き声をあげながら襲いかかってきた。


「ブギイイイィ!」


「おーいいじゃないか!やってやろう!」


 やる気満々の集団に楽しくなってみんなで突っ込む。敵の持つ武器はやはり棍棒、そいつを避けながらまずは顔面に一撃を与える。あ、頭蓋を砕いたか。しかし次の奴がすぐ横から来るので回し蹴りで迎撃、逆側からも足刀で対応する。目の前の敵を次々と蹴散らしながらリフレ達の様子を見ると、やはり危なげなく対応している。オークの集団は俺達を取り囲むように攻撃を仕掛けてくるが、俺達も四方に向けて互いをカバーしながら迎え撃つ。敵の戦意は高く次々棍棒を振り下ろしてくるが、何より技術もスピードも足りない。やがて俺の前の一匹を殴り潰して地面に沈めると、周囲は血の海と敵の死体の山となっていた。全員が処理を終えた所で確認する。


「みんな怪我は?」


「大丈夫です」


「問題ないわ」


「わたくしも問題ありません」


 うむ、みんな問題なしと、それじゃ剥ぎ取りだ。


「オークの剥ぎ取り箇所は?」


「腹肉ですね。そこが狩猟ギルドで買取します」


 リフレに教えてもらいながらみんなで剥ぎ取りをする。やはりこれは、倒すより剥ぎ取りのほうが時間かかるな。腹肉は別にして、胴体は肥料用。腹肉はちゃんと納品するのを忘れないようにしないとな。


「今数えたけど50体くらいいたわよ」


「そんなにいたか。途中から数えるのやめてたわ」


 ネスからの報告に少しびっくりする。50体も倒していたのか俺達は、中々だな。


「以前ガントとシュンと来た時はこの半分以下を相手して撤退したんですけどね」


「リフレも以前より腕が上がっているという事ですわ、自信を持ちなさい」


 ちょっとびっくりしているリフレにフタバがそんな事を言う。そうだな、以前より腕が上がったから対応できたと思ったほうがいいぞ。


「さてそれじゃあそろそろ一旦休憩するか。この辺は血の海だから少し離れよう」


「そうね、景観が悪いわ」


 そうして皆で小休憩、水で手を洗って握り飯だ。やっぱり握り飯はうまい、みんな美味しそうに食べている。そうして再び探索。どうやらこのダンジョンのメインはトロールらしく、トロールの皮が結構な量手に入ってしまった。そうしてもうそろそろ戻る頃合いかなと思った所で今までと違う反応を確認する。


「うん、これが多分オーガだな、こっちだ」


「わかりました」


 さてオーガはどんな奴だろうか。少しワクワクしながら行くと、そこには確かに背の高い角の生えた筋骨隆々の鬼、確かにオーガだ。二体のそいつは俺達が目視できる範囲に来ると駆け寄ってくる。うん、こういう行動パターンはこのダンジョンでは共通なのかな。そうして鬼が棍棒を振りかぶるのでやはり振り下ろすより先に懐に潜り込んで腹に一撃。くの字に折れ曲がり顔が落ちてきたので横から顔面を殴りつける。ドンという音と共にオーガは吹き飛びそのまま動かなくなった。もう一方を見るとフタバが袈裟斬りに斬り裂いていた。うーん、こんなものか。


「やはり一番強いといってもこんなものか」


「今までで一番動きは良かった敵だと思いますよ」


 俺の感想にリフレがそんな注釈をつける。確かに動きは一番良かったかもしれんが、これじゃあな。俺達の敵ではないのは確かだ。


「やはりアダマンタイトゴーレムレベルは欲しいな」


「それはもうレア魔獣を狙うしかないわよね」


 そうなんだよな、ネスの言う通り普段遭遇しないようなレアな魔獣を狙うしかない。しかしレアはレアなので、そんな魔獣早々出会えないのだ。仕方ないか。


「オーガは角だっけ」


「はい、そうですね」


 やはりリフレに聞いてからオーガの角を切り取る。解体用ナイフがベルカスの作ってくれたヒュドラ粉末のナイフだからサクッと切れてしまう。死体はやはり肥料用として回収だ。


「さて、それじゃあ戻ろうか。時間としてはいい頃合いだろう」


「そうですわね、狩猟ギルドにも納品しなければいけませんし」


 50体のオーク肉か、どの程度で売れるんだろうか。そう考えながらもと来た道を戻る。途中でまたトロールに遭遇したので処分しながらダンジョンを出て街に戻った。狩猟ギルドでオーク肉を納品すると、ひどく驚かれる。


「こ、こんなに倒されたんですか」


「えぇ、まぁ」


 お姉さんが他の人にも手伝ってもらって数を数えて買取額通りの金額で買取をしてもらう。うん、結構な値段になったな。そのままドゥヴァリエに戻り『電脳遊戯倶楽部』へ。カウンターにはやはりマリッサがいた。


「いらっしゃい。買取ね」


「あぁ、早速ダンジョンいってきた」


 そう言って全部のトロール皮とオーガの角を出す、オーガの角は4本しかないけど。トロールの皮の量に顔を少し引きつらせたマリッサが数を数えながら聞いてくる。


「これ、ウチの店から他にも流していいかしら。トロール皮ってそんなに普及してないから他にも欲しい店あると思うのよね」


「あぁそれは構わんよ。革の質としてはどの程度なんだ?」


「そうね、ポイズントードと同レベルかしら。伸縮性が高いわ」


「ほう、なるほど」


 皮の質を確認してから個数を数え、値段を提示してくれる。


「この数だし質もいいし、600万ロンね」


「それでいいよ。頼むわ」


「それじゃこれ」


 手渡された袋をインベントリに格納、うん丁度増えてる。


「当分はトロール皮には困らなさそうね」


「そうだな、しばらくは潜るつもりだ」


「でもあんまり調子に乗って潜りすぎないようにね。今は供給不足で買い取れるけど、需要が満たされたら買い取れなくなるから」


「注意するよ」


 やっぱり狩りすぎ注意を受けて苦笑しながら店を出る。なんというか、ここらへんも加減しないといかんのだなぁ。そうして本拠地に戻って庭でいつも通り水やりをしている経営陣の方に声をかける。


「魔獣の死体を持ってきたけど、肥料にするにはどうすればいい?」


「かしこまりました、今ご用意しますので、こちらへ」


 庭から離れ、少し広い場所に辿り着くと経営陣の方がおもむろにインベントリからドン、とでかい機械のようなものを取り出す。突然の事にリフレ達もびっくりだ。


「え、なにこれ?」


「魔道具屋に発注いたしました、魔獣用の粉砕機です。毎回宗吾様が鍬で耕されるのも手間かと思うのでご用意しました」


 そこに使用人達が大きな麻の袋を持ってやってきて、出口と思われる所に袋を取り付ける。そうして経営陣の方が魔力を注いでスイッチオン、ゴウンゴウン言いながら魔道具が動き始めた。


「それではこちらから魔獣の死体を入れて下さい」


 入り口となる大きな穴にインベントリから次々魔獣の死体を取り出して中に入れる。ものすごい音を立てて粉砕機の中で死体が全てミンチになっているのがわかる。このサイズだと人間すら粉砕できるんじゃなかろうか、怖い。


「この量であれば、あと2回程あれば大丈夫かと思います。ありがとうございました」


「あ、あぁ分かった。あと2回は持って帰るよ」


「よろしくお願い致します」


 そう言って肥料を持って去っていく経営陣の方。あんなものいつの間に用意していたんだか。


「あれがあれば完全犯罪できそうね」


「死体も残らないからな」


 ネスの言葉に思わず同意してしまう。思っちゃうよねさすがに、うん。

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