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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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古の魔法使い⑤

 焼けた魚を頬張りながらのアルベールと、アザゼルは会話を続けていた。二人の利害が一致した為、アルベールの気はすっかり緩む。アザゼルも少しでも現代の事を知ろうと、アルベールに問いかけ続けていた。


「魔法の学校ってのは何だ?」

「そのまんまだよ。魔法に関して詳しく教えてくれるの。歴史とか法とかも。僕が行っているのは“国立アージェスト・ユーユ学園”だよ」

「……」


(誰が作ったか聞くまでも無いな。相変わらず普段は一歩控えるくせに自己主張の激しい奴だ)


 アザゼルの考えは当たっておりアルベールの通う学校を作ったのは、わざわざ学校名に自分の名前を入れている“慈愛の魔女”ユーユだった。


 アザゼルがユーユを自己主張が激しいと思っている所も当たりで、学校だけではなく、病院、宿、孤児院などを始め、とにかく“ユーユ”の名前が付いたものが多い。


 しまいには“ユーユ”という名前の魚までいる。しかし、これは全く彼女と関係性の無いものだった。


 アザゼルはアルベールから話を聞いていく度に、随分と世界が変わったと実感する。


「魔法の学校に法霊院……ね。あいつらが目指したのはこの程度の世界か。ふっ……、全く無意味だったな」


 そう言うとアザゼルの表情に少し変化が現れる。目に帯びた熱が急激に冷めていくように、アルベールが話す学校や法霊院に関する事に興味を失い耳を傾けなくなった。


「そう言えば、お前はどうして此処に来たんだ?」


 アザゼルは話題を世界の情勢からアルベールへと変える。二人の魔女が積極的に世界に対して関わった事よりも、残った“時の魔女”ハガルと、その子孫と思われるアルベール自身へと興味を移ったようだった。


「僕のおばあちゃんが『洞窟の奥に昔の魔法使いが住んでいる』って教えてくれたんだ。だから友達と来たんだけど、僕だけ迷っちゃって」

「祖母がねぇ……」


 アルベールの母親はハガルの直系の子孫の可能性が高い。それは呪いにより魔法を使えなくして、アルベールがアザゼルの封印を解かせないように考えていたと、アザゼル自身は推測する。

アルベールがアザゼルの事を知らない事自体が証拠とも言えた。

知っていれば、守人の役目として他人である友達に教える事はなく、ここに来る事もない。


 逆に言えば自分の事を教えたアルベールの祖母はハガルの子孫ではないと踏んでいた。この洞窟に昔の魔法使いがいる程度をアルベールの母親かにでも又聞きしたのだろう。

もしハガル直系の子孫であれば洞窟自体に近づくなと警告しただろう。


「僕はどうしても守護者(ガーディアン)になって魔法師団に入りたい。だから、ちょっとでも魔法が上手くなれるならって……そう思って此処に来たんだ」

「魔法師団?」

「魔法師団は法霊院にある部署だよ。ここアージェスト共国にある法霊院には全部で七つの師団があるの。でも、その団員になるにはやっぱり学校で優秀な成績が必要で……」


 アルベールはすっかり肩を落としてしまう。落ちこぼれと他の生徒や教員に言われた事を思い出したのかもしれない。この洞窟に来たのも藁にもすがる想いだったのだろう。


「安心しろ。呪いは俺が解いてやる。だから、俺と交わした交換条件を忘れるなよ」

「うん……うんっ!!」


 パーっと表情は明るく変わる。先ほどまで感じていた疲れなど吹き飛んだようであった。


「そろそろ、帰れ。案内はこの鳥にさせる。それと、明日から入り口にこの鳥を置いておくから、それを辿れ。わかったな?」

「うん」


 アザゼルの肩に乗る小鳥にアルベールは指を近づけると、その小さな(くちばし)でつついて来る。アザゼルの傍に寄ることさえ恐れていたアルベールは、すっかり気を赦してしまっている様子で、アザゼルが伸ばせる腕の範囲内まで容易に入り込んでいた。


「じゃあ、また明日ね。アザゼル」

「ああ。分かっているとは思うが俺の事は内緒だぞ?」


 アルベールはコクりと頷くと先を行く小鳥の後を追いかけ走り出した。



~・~・~・~



「居たか?」

「ダメだ、何処にも居ない。もしかしたら洞窟を出たのか?」


 朝から洞窟内には複数の大人達が入っていた。アルベールが行方不明となって、一夜明けていた。

一緒に入った友達二人が翌日アルベールが学校に来ていない事に気づいた事から事件は発覚する。


 捜索を始めて二時間が経過し、洞窟内はあらかた捜索を終えていた。それにも関わらず、アルベールは見つからない。

洞窟の外で心配そうに少年と少女が見つめていた。

アルベールの友達であるタイラーとモーリスの二人だ。


「どうしよう、わたし達のせいだ」


 肩まであるウェーブがかかったピンク色の髪に、おっとりした雰囲気漂うモーリスという少女はアルベールの無事を祈り手を組む。


「ごめんよぉ、俺が入ろうなんて言わなきゃ……」


 膝を折り地面を強く叩く体格のがっしりした少年タイラーは、涙を溢しながら後悔の念を口にする。


 後悔し深く反省していた二人の元に入ってくる知らせは「見つからない」の一言ばかりで、心配を募らせていた。


「もう一度くまなく探せ! 岩と岩の隙間とか、崩れている床の底とかもだ」

「もう探しましたよ! もしかしたら、もう既に洞窟は出ていて、他で迷子になっているのかも?」

「そんなわけあるか! ここは学校の裏山だが一本道だ! たとえ夜中と言えども此処から街の明かりはハッキリ見える! 迷うか、馬鹿たれ!」


 若い男性と、その男性より少し年上っぽい男性が二人を前にして言い争う。それが二人を余計に不安にさせていた。


 洞窟内では、何度も同じ場所を捜索し続けており、最終的には床にポッカリと空いた空間に落ちたのではないかと、降りる準備が始まろうとしていた。


「おい、そっちはさっき他のやつが探していただろう?」

「まだ、探してない所もあるかもしれないでしょ!」


 そんな中、若い女性が一人奥へと入って行く。一緒に探していた青年も、溜め息を吐きながらも後を追いかけた。


「えっ……」


 女性は目を見開き驚きのあまり声が出せずにいた。洞窟の最奥、それも行き止まりの壁の前にアルベールがポツリと一人で立っていたのだ。


 無事に見つかった報告はタイラーとモーリスの元にも届く。何度となく探した場所からの発見にアルベールは質問責めに遭うが、体調を心配されてすぐに解放された。


「父さん……心配かけてごめんなさい」


 アルベールは捜索に同行していた父親の元へと引き渡される。自分を心配して来てくれたのかと謝るが、彼の父親は背を向けたまま「帰るぞ」とだけ言い、先を行く。

アルベールに謝ろうとしていたタイラーとモーリスだったが、その暇もなくアルベールは父親の後を追いかけていってしまった。

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