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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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古の魔法使い③

 アルベールは目を細める。広くぼんやり光る空間の奥に誰かがいるのは見えた。しばらく見ていたが向こうから此方へ近づいてくる気配が無い。

アルベールは最後の力を振り絞り立ち上がると、フラフラした足取りで空間の奥へと進んだ。


「よぉ」


 金糸雀(カナリア)色に光る小鳥が、アルベールからその人影に飛び移った事で人影の顔が明らかになる。


「み、ミイラ?」

「失礼だな。俺は生きているぞ」


 体内の全ての液体が抜かれたようにガリガリに痩せ細った男の顔と体。そのせいで此方を見つめる目玉はギョロりと大きく感じさせた。

男の両腕、両足を縛る太い鎖の先は、地面に突き刺さった四本の剣のようなものにより外れないように施されていた。


 その様相は明らかに普通ではなく、アルベールは警戒して少しずつ男から離れようとする。


「まあ、待て」


 男は弱った体とは思えないほど、ハッキリとした声で呼び止めてきた。


「別に取って食う訳じゃない。少し話がしたいだけだ」


 男はそう言うと自分の肩に乗った小鳥を愛おしそうに見つめる。小鳥も男に抵抗なく、自分の体を刷り寄せていた。


「随分と疲れているようだな。迷子か?」


 アルベールは小さく頷いてみせた。


「帰り道が知りたいなら、少し話に付き合え。その後教えてやる。それと、喉が渇いているならば、向こうに泉がある。綺麗な水だから直接飲める。食べ物は無いが、泉に魚が住み着いているはずだ。それを釣って焼けばいい」

「魚、釣ったことない」


 アルベールは食べ物にありつけそうでありつけないジレンマに大きく肩を落とす。


「? 魚なんて魔法で釣ればいいだろう? 焼くのも容易いだろうが」


 普通の人ならば、魔法の初歩の初歩だった。男もそのつもりで放った言葉だったが、アルベールは益々肩を落とす。


「僕、魔法使えない」


 アルベールは学生である。その学校は只の学校ではなく、魔法を中心に教える学校の生徒である。

それもこれも守護者(ガーディアン)になるために。


 しかし、魚を釣ったり軽い火を起こすのは誰でも出来る事だと男はアルベールが最初、何を言っているのか理解出来なかった。


「魔法が使えないだと? ……ちょっと近くに来い」


 男に呼ばれ、アルベールは体を縮ませる。見ず知らず、その上ミイラのような得体のしれない男に、今居る場所から近づくには迷いがあるようだった。


「だから食わないと言っている。この部屋は明かりはあるが明るいとまでは言えない。だからせめてお前の姿がハッキリ見える距離まででいい」


 天井、壁、床と不思議とぼんやり明かりを灯すが、男の言うようにアルベールからも金糸雀色の発光する小鳥が男の顔の傍にいなければ、ハッキリとは見えず、言われたように男から自分の姿が見える所まで歩きだす。


「そこでいい。一度魔法を使ってみてくれ。手元に火種を作る程度のやつでいい」

「う、うん」


 アルベールは両手の手のひらを上に向け、水を(すく)うように合わせ、目を瞑り集中する。


「……んっ!」


 一瞬顔を歪める。しかし、いつまで経ってもアルベールの手のひらの上に本来浮かんで現れるはずの火種は出現しない。

男はギョロりとした目でアルベールの体を凝視し続けた。


(体内に流れる魔力の流れがおかしい……。淀みなく流れる魔力が外に放出されようとせず、逆に胸の辺りへ集まるように意図的に変えられている? これでは魔法を使おうとすると、胸に痛みが走るはず。それでは集中を欠いて魔法は発動しない。一体、何のために……)


 男の特殊な目には体内に流れる魔力の動きがハッキリと映っていた。しかし、その原因まではわからないようで男はアルベールに質問を始める。


「一つ聞くが、胸に痛みはあるか?」


 男の質問にアルベールは少し驚きながら小さく頷いた。


「先生にも話したことあるけど、そんなはず無いって言われた。おじさんは、どうして分かるの?」

「おじ……! ま、まぁその話は一旦置いておいて。腹が減っているのだろう?」


 男は自分の肩に乗る小鳥に視線をやると、小鳥はパタパタと飛び立ち、男の左手側にある壁に備え付けられているタンスの上に降り立つ。


「そのタンスの上から二段目を開けてみろ。そこに丸い玉があるはずだ。それを泉に放り込んだあと、すぐに離れろ。少々粗っぽいやり方だがな」


 アルベールは男の指示に従い、タンスの棚を開けた。そこには朽ちた品が多々しまわれていたが、男の言うように、埃だらけの玉が一つあった。

玉を手に泉に向かう。顔を泉に映すと、鏡のようにくっきりと映っておりかなり透明なのだとわかるやいなや、アルベールは、そのまま泉に口をつけてガブガブと水を飲み始めた。


「ぷはっ、美味しい」


 体に潤いが戻ってくるのがアルベール自身でもわかった。再び飲み始め、空腹を水で誤魔化すが、それでも疲れは随分とマシになった。


「よし」


 アルベールは男に言われたように泉に玉を放り込み、回復した足で泉から急いで離れた。


 爆音と共に大きな水柱が天井まで届くと、落ちてきた大量の水は床の上を流れていく。その水と一緒に細長い魚が数匹流されて来た。


「お魚!」


 アルベールは手づかみで一匹の魚を捕まえた。


「魚を捕まえたようだな。それを持ってこっちに来い」

「はい、おじさん!」

「おじ……っ!! ふぅ、俺は、アザゼル・サブウェイだ。アザゼルと呼べ」


 アザゼルには、どうもアルベールから『おじさん』呼ばわりされるのに抵抗があるようであった。

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