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五年後……⑤

 現在アルベールとビスティ、その直線上にミユウがいる。アルベールはジリジリと横へ摺り足で移動する。

直接無防備なミユウを狙う算段のようだった。


「“空間移動(スイッチテレポート)”」


 魔法発動と同時にアルベールは駆け出した。ミユウの頭上に向かって光が反射したナイフが落下してくる。

なるべく怪我をさせないように、避けれるだけの距離はあった。


「お嬢様!」


 ビスティはすぐに(きびす)を返し、ミユウの元へと戻ろうとする。

アルベールはビスティとミユウの動きを見ながら、自分が落とした大岩に触れた。


「次はどうする? “空間移動(スイッチテレポート)”」


 アルベールの右手が大岩に触れると、フッとその大岩は消えてしまう。楽々とナイフの刃を二本の指で防いでみせたビスティとミユウの頭上に大岩が現れる。


 アルベールは二人から目を離さない。避けた所へ追撃をかけるつもりであった。


「ビスティ」

「はい、お嬢様」


 ビスティは受け止めたナイフを無造作に地面に投げ捨てると、その細い両腕を天に向かって伸ばす。


「ふんっ!」


 ビスティはその細身の体で大岩を支える。それを外野で見ていたタイラーやモーリスは驚きを隠せずにいたが、誰よりも驚いたのはアルベールである。


「そんな馬鹿な!」


 細腕の何処にそれだけの力があるのかと驚いていたアルベールに、ビスティは反撃開始とばかりに、その大岩をアルベールへと投げ返して来た。


 目の前に迫る大岩を今度はアルベールが空間移動(スイッチテレポート)で消して見せると、岩影に隠れていたビスティ本体が現れた。


「覚悟してください、アルベール様」


 ビスティの伸ばした右の手のひらから白い手袋を突き破って刃渡り30センチほどの刃物が飛び出す。しかも右肘が風車のように回転し始める。

普通の人間じゃない、そうアルベールは気づく間もなく、避けるだけで精一杯でビスティの刃物がアルベールの(すみれ)色の前髪を数ミリ斬る。


「しまった!」


 そう叫んだのは、避けた筈のアルベールであった。咄嗟に消した大岩がビスティのすぐ真上に出現してしまう。

慌てたアルベールのミスであった。


 避ける暇もなく、ビスティは大岩の下敷きとなってしまう。その際にビスティの右腕は肘から先が、地面を転がる。


「それまで!」


 模擬戦を止めたのはサラであった。慌てて試験官もアルベールの間に割って入る。


「いけない!」


 アルベールは急ぎビスティの上の大岩を誰も居ない場所へと飛ばす。大怪我を負ったのでは……そう考えていたアルベールは予想外の光景に絶句する、そして何故彼の参加が認められていたのか、合点がいった。


 ビスティの右腕からは血などは一切出ておらず、代わりに幾つもの細い紐や、小さな歯車のような部品が飛び出ている。


「……人形?」

「正確には生き人形ですよ、アルベール様」


 ダメージを負い、ぎこちない動きで立ち上がるビスティは笑いながら答えた。


「生き人形……」


 言葉だけ捉えたのかアルベールは苦々しい表情へと変わる。そしてその目を此方へやって来るミユウへと向けた。


「ビスティが望んだことなの」


 目線を下に向けながら話す姿のミユウはどこか少し淋しげで、アルベールはこれ以上自分から追及するのを止めたのだった。


 一方、外野は未だざわついていた。勝敗が発表されていない。終始、アルベールの魔法を凌ぎ、押しつつあったミユウ&ビスティ。結果ビスティは動けない状態にしたアルベール。


「ミユウ達の負けなの」


 勝敗が宣言される前にミユウが負けを認める。傍にいたサラも「当然」と納得して頷いていた。

そして正式に試験官の方から勝敗は宣言され、アルベールの勝ちとなる。

理由は、ビスティが動けない状態になった後のミユウではアルベールに勝てないとの判断が下された。


「生き人形の魔法は、その人形に自分の魔力を与え続けるから操者は、無防備なのよ」


 サラが少し納得いってなさそうなアルベールに説明を付け加えてやった。


「アルベール様が気になっているのは、何故、私が生き人形か、なのですよね。先ほども言いましたが私が望んだことなのです。五年前──私は本来死んでいたのですから」


 ビスティは折れた右腕を左手で支えながら遠い日を思い出すように空を見上げる。


「お嬢様の実家はアージェスト共国ではありません。此処より北方にある小さな島国です。閉鎖的な国で笑い飛ばしたくなるような習慣などが根付く憐れな国。お嬢様の一家は代々受け継がれる人形士(ミスティア)と呼ばれる一族。そして人形士(ミスティア)は本来死人を人形にするのです」


 その対象となったのが当時お付きの一人であったビスティなのだと、ミユウはポツリと付け加えた。


「死人だと生前の記憶や意思はありません。ですが生き人形だと、こうして話も出来るしお嬢様の世話も出来ます。少しでも己の意思でお仕えしているのだと。嫌ならお嬢様から離れて人形に戻れる選択肢があるのですから」


 他人に理解しろというのは難しい事なのだとはアルベールにも理解出来た。閉鎖的な環境の中、ビスティの意思を守りたいという気持ちを察し、ミユウの頭を優しく撫でてやるのが精一杯であった。



~・~・~・~



 発表された選抜試験の合格者の中にミユウは含まれていなかった。しかし、生き人形の魔法は本来なら門外不出で国を出る事はそうそう無いものだということで、特例的に今回の主宰である第七大隊預かりという形でミユウも合格する。


 正式に発表された合格者はアルベール、タイラー、モーリスの三人であり、彼らはまず自分の方から入りたい大隊を指名することが出来た。

三人が指名したのは、サラが師団長を務める第四大隊。

タイラーやモーリスはサラ(彼女)のお陰で此処まで成長出来た恩義があり、心からサラの下で働ける事を希望していた。


 ただ、アルベールは少し違う。


 アルベールが守護者(ガーディアン)になりたい目的は、母親の死の真相を調べる為である。そして、その都合が良いのが第四大隊だった。

各大隊には元々の秩序を取り締まるという役目の他に、それぞれ特徴があった。


 第一大隊は魔法師団の監察、第二大隊は他国への潜入業務など。そして第四大隊にはその特徴として資料の管理という顔もあった。

その資料の中には、過去の事件なども含まれている。

まず調べるなら、そこだとアルベールは考えていた。


 しかし、この選抜試験は有能な新人を青田買いするのが目的であり、その戦力は各大隊に分散するのが好ましい。そして指名が被った時の為に、今度は師団長側から指名され、相思相愛なら希望の大隊に入れるという仕組みであった。


 サラが指名したのは、アルベール。タイラーは自由な風潮と揶揄される第三大隊に指名され、モーリスは、以前サラに普通と揶揄されたビードルが率いる第六大隊であった。

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