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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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解呪の刻⑥

「まず、空間移動(スイッチテレポート)には、幾つか出来ない事がある」


 “時の魔法”をアルベールに教え始めたアザゼルの真剣な目。それを正座で話を聞くアルベールは、まるで本当の師弟のようであった。


「一つ、生き物は飛ばせない。ただ、これはお前が『生き物』だと認識したものはという意味だ。お前が人間を『生き物』と認識しなければ、人間も飛ばす事は可能だ」

「あはは、アザゼル面白いね。人間を『生き物』として思わない人なんて誰もいないよ」


 アルベールはアザゼルが冗談のように言っているように聞こえていたが、アザゼルが「可能」だと言い切っている事の意味を分かっていない。


(まぁ、飛ばせた所でそいつは死ぬんだがな。それは既にハガルに人体実験を手伝わせた時に実証済み。

一、死体は術者がどう思っていようが、物体として扱い飛ばせる。

二、生き物を飛ばした場合、飛ぶのは肉体()だけ、つまりは死ぬ。

三、相手が『生きている』と自覚が強い場合、例えば『心臓が動いているから生きている』と思っていた場合、心臓はその場に残り飛ばせない。

四、赤ん坊に近いほど、また年寄りになるほど『生きている』という自覚は薄くなる。

五、術者を操れば、人間を『生き物』と自覚しない。

これは、俺の研究成果だ。教えてやるつもりはないがな……)


 三連五芒星(タイマーズアイ)を持たないはずのアザゼルが、“時の魔法”に関して詳しい事にアルベールは気づかなければいけなかった。


「アザゼル?」

「あ、ああ、すまん。考え事に夢中になるのは俺の悪い癖だ。話の続きだな。二つ目として、飛ばせる距離、物の大きさ、全てはお前の魔力の量に比例する。力をつけるにはどうすればいいか分かるか?」

「あ、知ってる! 持久力でしょ!」


 挙手をしながらアルベールは、元気良く答える。初めて出会った時こそ、怯えた目をしていたアルベールだったが、一年間毎日という歳月は真っ直ぐに無垢な目をアザゼルに向けるまでになっていた。


 アザゼルは、僅かに抱いた苛立ちを隠す為に彼を見ないように目を閉じる。


「正解だ。よく知っていたな。三つ目は魔法は飛ばせるが、相手が身に纏うような魔法は飛ばせない。それは最初に言った『生き物』の認識の話を考えれば分かるよな?」

「魔法と生き物が接触しているから?」

「そうだ。そしてそれは相手の着ている服も同じだ。服だけを飛ばす事は出来ない。残念だったな、女の子の服を脱がせる事が出来なくて」

「え? そんなこと考えてないけど? というかなんで女の子なの?」


 アルベールは本当に分かっていないらしく、小首を傾げるばかり。


「まだまだ子供か……。何故だ、俺の方が恥ずかしくなってくる」


 アザゼルは話題を変えるべく、わざとらしい咳払いを一つしてみた。


「それじゃ、実践だ。俺が魔力の流れを説明してやる。その順番に魔力を練り込み、最後は両手へ集めろ。いいか、飛ばせるのは魔力を纏う両手だけ。つまり最大で二つまでだ」


 魔法を使うには、体内に流れる魔力を練りながら、同じく体内に数ある“心穴(しんけつ)”と呼ばれる場所を通して行く必要がある。

心穴(しんけつ)には、様々な種類と人によって数に個体差があり、それによって使える属性の数や、より高レベルの魔法が使えるかが変わる。


定穴(ていけつ)から右眼穴(うがんけつ)頸穴(けいけつ)を通して、左眼穴(さがんけつ)……」


 アザゼルの言葉通りに魔力を練りながら、アルベールは心穴(しんけつ)を通して行く。その動きは複雑で定穴(ていけつ)と呼ばれる心臓部分から右目を通して首の背後を通り左目へと向かう。

心臓から右目へ通す時には、首にある心穴(しんけつ)を通してはならず、繊細な魔力の流れを必要とさせた。


 左目からは体内へと移り、最終的には二本に流れを分け、両手へと移し魔力を放出させた。


「魔法を使うのは一瞬で行わなければならない。今の流れを一秒で流す練習をするんだな」


 アザゼルはアルベールの動きを見て溜め息を吐く。


(まだまだ時間はかかりそうだな……)


 一刻も早く覚えて自分の封印を解いてもらいたいと思うが、アルベールの一連の動きに、一ヶ月と期限を決めたのは失敗だったかと後悔し始めていた。


「とりあえず、そこらに落ちている石でも飛ばしてみせろ」


 淡い期待しかしなくなったアザゼルは、ぶっきらぼうにアルベールに指示をする。アルベールは従い地面に転がっている石を掴んだ。


「あ、出来た」

「何っ?」


 アルベールの手元からは石が消え、ポチャンと水音がすると泉の水面が揺れていた。


 これは予想外だと、アザゼルもガリガリに干からびた(まなこ)を剥いて驚いていた。

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