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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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国立アージェスト・ユーユ学園⑥

 第四大隊師団長ハクレンはオーダーメイドの白の外套(マント)を靡かせながら、難しい顔をしている。


「どうかしたのですか? ハクレン師団長」


 サラは一礼したあと、ハクレンの顔を見上げた。


「参ったよ。少年の方も少女の方も指名した先が取るとは思っていなかったからな。中々良い新人を手に入れられると思ったのだが。ワシも年だし、良い人材を集めて引退したかったのだがな。あと五十年は頑張らないかんな」

「やめてください。その頃私七十じゃないですか! 嫌ですよ、そんな年寄りで師団長になるのは。さっさと引退してください。そして私を師団長にしてください」


 ハクレンは、まるで祖父が孫娘を見るように温かい目をしており、微笑むように目を細めた。


「そうだ、師団長。少し相談が……」


 サラがアルベールについてハクレンに話すと、ハクレンは太い腕を組み悩み始めた。


「魔法が使えないとな……。ワシも聞いた事は無いな。しかし、その子はここの生徒だろ? 奇妙な話だな」

「私もそこが気になっています。が、入学時の検査には問題ないと思うのです。何せ、学園の管轄は法霊院ですし」


 ハクレンは体格に比例する大きな(まなこ)をアルベールへと向けた。


「お前がアルベールだな?」

「は、はい! アルベール・レイです!」


 倍近く違うハクレンの大きさに圧倒されてアルベールは姿勢を正し、ほぼ90度腰を曲げて挨拶する。


「レイ? ……はて?」


 ハクレンは眉間に皺を寄せ、考え込むがすぐに首を横に振る。


「どうかしましたか? 師団長」

「あ、いや。どこかで聞いた気がしてな。……ふむ、サラよ。良いか?」

「はい」

「これをお前への宿題としよう。見事原因が判明すれば、ワシは引退してお前に師団長の座を譲ろうではないか。アルベール、サラには副団長としての役目もある。片手間となってしまうが、良いかな?」


 アルベールはすぐに返事が出来なかった。原因はアザゼルの話が本当だとすれば呪いである。それをサラに教えても良かったが、そうなるとアザゼルの事を話さねばならなくなる。

アルベールは間を置きながらも、首を縦に振った。


「そうか。ワシはサラを信じておる。お前もサラを信じてやってくれ。では、ワシは帰るとしよう。後片付けは任せたぞ」

「了解しました」


 サラは去っていくハクレンを見送ると、くるりと振り返りアルベールの手を握った。

白魚(しらうお)のように細く、柔らかな手の感触にアルベールは自分の体温が二度ほど上昇したように感じて顔に赤みがさす。


「私に任せて。きっとあなたが魔法を使えるようにしてあげるから!」


 サラの握る手に力が入ると、アルベールは力強く頷いた。



~・~・~・~



 選抜試験があったとはいえ、授業はある。


 アルベール達は、偶然とはいえ傍で選抜試験を見る機会を得たが、先生達からは叱られた。

先生の言い分は、他の生徒と不平等だという理由であったが、そこは選抜試験終了と合格者二人の卒業の手続きに来たサラによって助けられる。


 放課後まで、三人は同級生から選抜試験の様子の質問責めにあうが、それどころではなかった。


「アルベール、ごめん!! 俺、早速サラさんに言われた事試してみたいんだ!」

「わたしもごめんなさい!」


 タイラーとモーリスの二人はサラから受けたアドバイスをいち早く実践したくてウズウズしていた。


「いいよ、二人とも。僕は大丈夫だから」

「ホントにごめん! また落ち着いたら一緒に遊ぼうぜ!」

「うん! アルベール、またね!」


 二人は駆け足で真っ直ぐ家に向かって走り去り、あっという間に姿が見えなくなる。


「二人ともごめんよ。僕も本当は用事があるんだ」


 アルベールは一人で学校の裏手にある洞窟へと向かった。



~・~・~・~



 まだ日は高く、父親が帰る時間までまだまだ時間の余裕はある。結局昨日はアザゼルとの会話と魔法が使えるようになるかもとの高揚で帰宅するのが遅くなってしまい、多くの人達に迷惑をかけてしまった。


「今日は、あんまり時間かけられないや」


 アルベールが洞窟の入り口付近へと向かうと、入り口を塞ぐように一本の縄がくくりつけられていた。


「やっぱり、僕のせいだよね、これ」


 塞がれていると言ってもたかだか縄一本。乗り越る事は容易いとアルベールは縄に触れようと手を伸ばす。


「痛っ!」


 手に痺れが走り、アルベールの手は弾かれてしまう。


「結界!? どうしよう、これじゃあ通れない」


 結界に阻まれ洞窟の前を右往左往していたアルベールは、アザゼルの言葉を思い出す。


『入り口にこの鳥を置いておく、それを辿れ』


 アルベールが結界の外から鳥の泣き真似をしたり、声を掛けてみたりと色々と試してみると、岩影から金糸雀(カナリア)色に発光した例の小鳥が姿を現す。


「見つけたのはいいけど、彼処までどうやって行けば……」


 そうして呆けていると金糸雀(カナリア)色の小鳥は結界に引っかかることなくすり抜けてアルベールの足元までやって、肩へと飛び乗った。


「結界に引っかからないって、もしかして……」


 肩に小鳥を乗せたままアルベールは恐る恐る縄へ手を伸ばす。


「ほっ……」


 安堵のため息を吐くと、アルベールは縄を持ち上げて洞窟の中へと入って行った。

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