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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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国立アージェスト・ユーユ学園⑤

 七人の師団長、師団長代理の副団長は円陣を組み、話し合っていた。


「サラさん、配属ってどうやって決まるんですか?」


 モーリスはサラの顔を見上げながら素朴な疑問をぶつけた。


「まず最優先されるのは、合格者からの指名ね。どこに所属したいかを聞くの。相思相愛ならそのまま配属されるわ。もし違っていれば、こちらから指名ね。この場合魔法師団に入る気があるなら、拒否は出来ないわね」

「好きに決められるわけじゃないんですね」

「そうよ、だからあなた達も魔法師団に入りたいなら、大隊の特色を前もって調べておく方がいいわよ」


 しかし、三人は急に押し黙ってしまう。


「何かおかしな事言った?」

「あ、俺達は、その……落ちこぼれだから……そもそも魔法師団なんて……」


 口をつぐむモーリスとアルベールの代わりにタイラーが重々しく口を開く。


「落ちこぼれ? 原因はわかる?」

「俺は魔法に大切な集中力が足りないって。モーリスは上手く魔法が発動しないし、アルベールはそもそも……」

「タイくん、もういいよ!! 先生達にだって何度も相談したんだ! もう無理だよ!!」


 珍しくアルベールは声を荒げる。アザゼルと出会い希望を見出だしたアルベールだが、それも正直いまだに半信半疑なところがあった。


「いきなりどうしたの、彼は?」

「そのアルベールは、魔法が使えないの。基礎的な魔法さえも……だから……」


 モーリスは優しくアルベールの手を握り、代わりにサラへと答えてあげた。しかし、サラは首を傾げ、まだ納得いっていないよう。


「魔法が? じゃあ、そもそもどうやって学校に入れたの? 一応形式上試験や検査は行われるわよ?」


 以前ならともかく、今のアルベールにはその質問に対する答えのようなものを持ち合わせていた。だが、それはみんなにアザゼルの話をしなくてはならない。

呪いを解いてくれるというアザゼルを裏切る訳にはいかず、アルベールは分からないと首を横に振った。


「そう……後で師団長にも聞いてみましょうか。原因が分かれば対策も取れるから。じゃあ、その前にタイラーくんだっけ? 君の場合は簡単よ。君、好きな人はいる?」

「えっ、俺? す、好きな人かぁ」

「えっ!? タイラー、好きな人いるの? ねぇ、誰? 誰!? わたしの知っている子?」


 女の子らしく目をキラキラさせながら食い気味にタイラーに迫るモーリスに赤らめ困った顔をしたタイラーの視線が左右に泳ぐ。


「(本人を前に言える訳ないか……)落ち着いて。それは後でいいから私の話の続きを。タイラーくんは、魔法を使う時に『自分が魔法を使わなければ、その好きな子が死んでしまう』と思いなさい。力の配分や魔力をどれだけ練るとか余計な事は考えなくていいわ。まずは、それ一つだけを考えなさい。そうすれば、他の事は自然と体が覚えてくれるから」

「そ、そうなのか? でも学校の先生は魔法によって魔力の練り方を変えろとか、配分を変えろとかって言うんだけど」


 魔法は様々な魔力の練り方と、火、水、風、土、光の五つ属性の配分により無限大の可能性を秘めている。タイラーは、当然学校でそう教えられているし、サラの言葉といえど半信半疑であった。


「確かに大事な事だけど、魔法は集中力が一番大事なの。試験を受けていた二人を見たら分かるだろうけど、二人とも恐らく自分の一番得意な魔法を使っていたはずだけど、目を瞑って集中していたでしょ? それが大切なのよ」

「ねぇ、わたしは? わたしはどうして上手くいかないんですか?」


 タイラーを押し退けモーリスはサラの顔を見上げる。彼女ももう落ちこぼれとは言われたくないと必死であった。


「あなたは兎に角走りなさい。さっきも言ったけど魔力と体力は直結しているの。あなたの魔法が上手く発動出来ないのは圧倒的に体力不足。多分、元々持つ魔力は高いのよ。けれどもそれを制する体力が不足しているの。兎に角、毎日走りなさい。あなた、持久走苦手でしょ?」


 ズバリ言い当てられ、モーリスはひきつった笑いで誤魔化した。


「最後にアルベール。あなただけど……」

「サラっ!!」


 光明を見出だせた二人を羨ましい目で見ていたアルベールに声をかけた時、サラはハクレンに呼ばれてしまう。


「決まったみたいね。ごめんなさい、ちょっと行ってくるわ!」


 サラは円陣を組んで話し合っていた師団長達の元へと駆けていく。喜びに湧くタイラーとモーリスだが落ち込むアルベールを見て気まずくなってしまう。何か励ましの言葉を探している二人に、アルベールは無理矢理笑顔を作って「おめでとう、良かったね」と逆に声をかけてきた。


「その……アルベールも原因が早く分かるといいな!」

「う、うん! それにわたし達三人はずっと友達よ!」


 ぎこちない笑顔を振り撒く二人の気持ちを察してかアルベールは二人の肩に腕を回して抱き寄せた。


「うん、うん! ありがとう!」


 目尻にうっすらと涙を浮かべるアルベールに、タイラーとモーリスも胸に来るものを感じ、涙を流して三人は抱き合っていた。


「ええっ!?」


 サラの声が聴こえて来て三人は互いの顔を見合せる。アルベールも堪えていたはずの涙を流しており、三人は袖で自分の顔を拭い、少し赤みがかった目をサラへと向けた。


「驚いたわね……」


 サラはそうぼそりと呟きながらアルベール達の元に戻ってくる。


「何かあったんですか、サラさん?」

「配属が決まったんだけどね。あの真面目そうな生徒会長の少年、彼は第五大隊に配属が決まったわ」


 第五大隊の師団長ガロウはアルベール達と先ほど一悶着があっただけでなく、第五大隊自体すこぶる評判は良くない。しかしサラが驚いたのは、アルベール達が思っているのと少し違っていた。


「なんと彼ね。自分で第五大隊を指名したのよ。勿論ガロウも取る気だったから、あっさりと決まったようよ。第五大隊のこと知らないとは思わないのだけれども……」


 生徒会長の少年が望んで第五大隊を指名したと聞いてアルベール達は唖然としてしまう。生徒会長として先生からの評判もよく、何より女生徒からは絶大な支持があることは、アルベール達の耳にも聞き及んでいる。

だからこそ、意外過ぎたのであった。


「イルミさんは? イルミさんは何処に?」

「十九年ぶりよ。第一大隊に新人(ルーキー)が入るのは……。いわば第一大隊はエリート集団。中々第一大隊から出たがらない人が多いけど、出た人達は必ず師団長になっているわ。因みに私の第四大隊の師団長ハクレンも元は第一大隊出身よ」


 サラの言葉に呆気に取られていたアルベールはじっとイルミの方を見ていると、イルミの方もアルベールに気づいたらしく笑顔で軽く手を振ってきた。


「その子はあの受験者と知り合いなのか? サラよ」

「ハクレン師団長」


 二メートルを越えるハクレンが大股歩きで、サラ達の方へと声をかけながらやってくる。しかし、その表情は決して穏やかなものではなかった。

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