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ディザスター・ウィザード~厄災と呼ばれた男と翠眼の弟子~  作者: 怪ジーン
一章 目覚める厄災と『時の魔女』の子孫
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国立アージェスト・ユーユ学園③

 アルベール達三人はサラに連れられ、師団長達が座る椅子の後ろへと待機する。


 並んでいる椅子は全部で七つ。そこにはガロウと、その隣に座るハクレンの姿もあった。


「凄いな、七人の師団長が揃うのをこんなに間近で見られるなんて」


 タイラーはごくりと生唾を飲み込む。モーリスもなんとか全員の顔を見ようと必死に背伸びをする。

アルベールも、なるべくガロウの視界には入らないようにしながらも、興味津々で顔をキョロキョロさせ、落ち着かない様子。


「残念だけど第一大隊、第三大隊、第七大隊は師団長じゃなくて副団長よ」

「そうなんですか? サラさん」

「ええ。第一大隊の師団長は法霊院のトップでもあるから、忙しいのよ。今は、ほら、そこにいるグレン副団長が師団長代理も兼ねているわ」


 ツンと立った黒髪に太い眉、鼻下に黒い髭が生えている眼光鋭い中年の男性が第一大隊の証でもある真紅の外套(マント)を身に付け、一番左に座っている。


「噂では実力は師団長と同等。けど、一生涯、第一大隊の副団長を公言しているわ。凄い人よ」

「けど、凄く怖そう」


 ガロウとはまた違う迫力がグレンにはあった。ガロウやハクレンと遭遇したアルベールだからか、敏感に肌で感じ取っていた。


「その隣が第二大隊の師団長、ゼロね。彼は一言で言えば奇抜かしら?」

「奇抜……。なんか納得」


 第二大隊師団長ゼロは見た目から派手だった。赤、黒、金の三色の髪色、顔は白塗りされており、目の回りと口の回りには赤の隈取が取られている。

何より第二大隊を示す外套(マント)の色が黄金色に輝いている。

その背後に控える副団長達も、ゼロと同じメイクをしているが、何処か落ち着かない様子。


(もしかして第二大隊の人達は、やらされてるのかな?)


 第二大隊に入った自分を想像し、思わず身震いしてしまうアルベールであった。


「第三大隊は……パスね。どうせ、サボってそこらの飲み屋で飲んでると思うわ」

「自由が隊の風潮?」

「あら、面白い表現するわね。今度見かけたら皮肉を込めて言ってやろうかしら?」


 笑顔を見せるサラだが、こめかみ辺りがピクリと動くのをアルベールは見ていた。今回の選抜試験の主宰はサラのいる第四大隊。サボったという事がサラの顔に泥を塗ったようで許せないのだろう。


「第四大隊は別にいいわね。さっき会ったし。第五はクズばかりだからパス。じゃあ次は第六大隊か。彼処に座っている師団長は、ビードル。特徴は……至って普通ね」

「普通って……一応、師団長だよね?」


 この世界にありふれた赤茶けた髪に、鼻が高い訳でもなく、目付きも鋭いとか切れ長とかとは決して言えない微妙さ。体格も中肉中背、唯一他の師団長と違うのは、椅子に座る背筋が誰よりも真っ直ぐというだけ。

ビードルをじっと眺め、何か一言付け加えたかったアルベールだが、特徴らしき特徴を見出だせず沈黙する。聞き耳を立てていたのかビードルは椅子に座りながらさめざめと泣いていた。


「最後の第七大隊だけど、今は師団長が空席なのよ。そして今、第七大隊の椅子に座っているのが、ルークという男ね。通称“博識者(プロフェッサー)”。魔法に関する知識では法霊院一よ」


 オールバックにした黒髪に右目には丸い片眼鏡を掛けた中年の男は隣に座るビードルと親しげに会話を交わす。会話の内容まではアルベールにまで聞こえて来ないが、どうもビードルを慰めているように見えた。


「恐らく第七大隊の次の師団長は、ルークがそのまま繰り上がると思うわ。それだけ彼は法霊院に欠かせない男だから」


 サラが師団長について一通りの説明をちょうど終えたタイミングで、ピーッと笛の音が辺りに響く。駆けて来る足音と共に師団長達の前には百人ほどの生徒が並んだ。


「いよいよ選抜試験かぁ。何やるんだろうな? アルベール」

「毎年一人か二人くらいしか通らないって誰か言ってた気がする。それほど厳しい試験なんだろうな」

「わたし達には縁が無い話だよね」


 アルベール達には最上級生の緊張でひきつった顔が良く見えた。彼らにも魔法師団に入団出来る最後のチャンスだということは分かっているようであった。


「それでは試験を開始する。今から笛を鳴らす。お前達は校庭を走り続けろ。再び笛が鳴るまでな」


 試験官とおぼしき白い外套(マント)を羽織った男は、生徒達に短めの説明を終えると質問すら受付ずに笛を鳴らした。

最上級生達は、困惑の表情を浮かべながらも校庭を走り出す。


「魔法師団の選抜試験に持久走? どういうことだろう?」


 モーリスは首を傾げながらアルベールの顔を見る。アルベールも分からないと首を横に振り、三人は一斉にサラの方へと顔を向けた。


「あら? あなた達知らないの? 魔力と体力は直結するのよ。これは魔力を、体力をなるべく温存しながら、いつ終わるかも分からない地獄の持久走。ここで力を使い果たすと後の試験が大変よ」


 サラから説明を受けアルベール達は最上級生達に視線を移す。先頭を走るのは少年と少女の二人。少年の方にはアルベール達は見覚えがあった。


「あれって生徒会長だよな? 女の人の方は……アルベールは知っているか?」

「知ってるよ。イルミさんだ。僕のアパートの大家さんのお孫さんのはずだよ。昨日、僕を見つけてくれたのも彼女だから。タイラーとモーリスも昨日会っただろ?」

「あ、それで何となく顔を知ってたんだ。どっかで見たとは思ってだけど……」


 先頭を走る精悍な顔をした少年に負けじとすぐ後ろにつくライトブルーの髪をした少女。二人に負けないと他の生徒達も顔を歪めてついて行くが二人との距離は離されて行くばかりであった。

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