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大きなポプラの木の下で  作者: もこもこっち
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まんまる公園

まんまる公園は私たちが通っている学校から徒歩10分ほどのところにあります。正式名称はココノエ公園と言って、形が丸い形状をしているのでみんなはまんまる公園とか卵公園とか自分の好き勝手な名前を付けていると言うわけです。私はまんまるとなんとなく呼んでいます。今日、私はこの滅多に行かない公園のベンチに座ってじっと彼女のことを待っていました。晴れた午後の休日に憂鬱な気分で私はうなだれていました。風が吹くと、ベンチの後ろのポプラの梢が揺らいで、枝の隙間から洩れる光の塵がきらきらと流れます。ああ、こん日は嫌なことなんて全部忘れて、この自然の穏やかさに癒されたいのに……。でも、そうはいきません。だって、今日はあの子と待ち合わせしているんですから。私が苦手な……藤間比奈さんと。


「青い鳥ねぇ……」

私はぽつりとつぶやきます。いるかもいないかもしれない訳の分からない生物を探すために、私はここに呼びだされたわけです、強制的に。そう、こんな風に。

『ふーちゃん!決定!』

『は?』

私に指をさす藤間さん。憎たらしいほど自信に満ちた笑顔でした。

『今週の土曜、まんまる公園で集合!午後1時!そこで青い鳥探そうよ!じゃあっ!』

『え?あ、ちょ、なによ……行っちゃった』

相変わらず落ち着くと言うことを知らない藤間さんが、瞬間的に現れてあっという間に消えていきました。まるて天気雨みたい。

「ふーちゃーん!」

ほら、例のあの子がやってきました。全速力でこちらに走ってきます。正直、この約束をすっかり忘れてしまって、今日はしょうがないから家に帰るっというストーリーを心の奥底では期待していました。私は心の中で舌打ちをしました。

「はぁ、はぁっ。ごめんごめん。遅れちゃって。全然そんなつもりじゃなかったんだよ?ほんとのほんと!」

「わかった!わかったわよ。だから、落ち着いて」

止めどなく話す彼女は喘いでいました。どうやら走って来たみたい。

「じゃあ、青い鳥探そうっか」

「でもどうやって?藤間さんはどこで見たの?」

ふふーんと得意そうな感じで笑う藤間さんは、また私にとっては考えられないことをしました。恥ずかしげもなく木登りを始めたのです。後ろのポプラの木にですよ。まあズボンを履いてましたから別にいいんですけど、でも私たちは高校生なんですよ?決して、飛んで撥ね回れるような小学生ではないのです。この野生児は小学生のままこの年まで成長したんじゃないでしょうか。

「ほい、ほい、ほいっ」

枝を掴み一気に体を持ち上げると、こんどはそれを足場にして更に高い枝へと軽々登って行きました。まるでサーカスの軽業師みたいです。でも……高すぎませんか。だって、もう3メートルぐらいは地上から離れています。危ないですっ!

「藤間さぁん!危ないわよ!落ちたらどうするのー!」

「だいじょーぶー!私、得意だからーーー!」

「そういう問題じゃないでしょー!こらっ!やめなさーい!」

藤間さんったら、絶対に私の言うことを聞いてくれません。さっさと登っていき、もう5メートルも駆け上ったのでしょうか。もう!本当に危険です!

「……知らないわよ。どうなっても」

彼女は枝にまとわりつきながら、高いところでその青い鳥とかいうものを探しています。その姿はまるでナマケモノみたいでした。

「……!……、……」

何かしゃべっているようですが、聞こえません。どうやらあのお猿さんは諦めたようでするすると木の幹に捕まりながら降りてきました。そして、パンパンッと砂を払いました。私は思わずせき込んでしまいます。

「げほっ!もう!藤間さん、どうしてあんなに危ないことをするの!もし落ちたらどうするのよ!私、救急車呼ばなくちゃならなくなったのかもよ!」

「でも、私大丈夫だったよ?」

あー!もう!この馬鹿は!

「そういう問題じゃない!あのね、藤間さん!私はああいう後先考えない行動っていうのが大嫌いなの!不測の事態っていうのが一番怖いんだから!心配させないで!」

「うーん。だから、私得意だから大丈夫だって言ってるのに。ふーちゃんったらさ、心配性だよ。えへへ」

ニコって笑って見せる藤間さん。もう頭に来た!私は彼女に迫りました。そして、肩を掴んで……て、あれ?藤間さん、どうして私を抱きしめて……。

「でも、ごめんね。うん、二度としないよ。ふーちゃんがそういうんだからさ」

意外でした。あの藤間さんが謝るなんて。でも、どうして急に……この子はこんな人だった?素直で、それで……えっと……。

「さ、次行こう?次は、公園を一周してみようよ!こんどは高いところからじゃなくて、広く探してみよう?青い鳥をー、絶対に見つけるぞー!ね?ふーちゃん!」

「あ、ちょっと、待ってったら!」

彼女はまた私の言うことを無視して突っ走り始めました。私はスカートなんですよ。早く走れるわけがありません。袖をまくって太陽の光を浴びながら公園を駆けていく彼女の背中を、私は数歩後ろに離れながらなんとか追いついていくのがやっとでした。本当に私はあの日を恨んでいます。もし藤間比奈以外の人がペアだったら、こんなに苦労することなんてなかったのに。それなのに、私はこのねずみ花火みたいに暴れまわる子に引っ張られてもう滅茶苦茶です。

「藤間さん!早い!早いって!」

「ふーちゃん、こっちこっちー!」

あーもう!どうしてこんなことになったのよ!

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