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大きなポプラの木の下で  作者: もこもこっち
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最悪のペア

窓から見える景色は何とも味気ないものでした。山の向こう側まで続く分厚い灰色の雲がべったりと太陽を遮っています。校庭には誰もおらずひっそりしていて、向こうの街中まで空っぽになってしまったかのようです。重い頭をもたげて私はただただメガネのレンズを通して退屈な世界を見下ろしていました。電線に止まったカラスに何となく視線を映します。鳥は自由の表象ですが、こんな暗い空ではあの地平線の果てまで飛んでいける彼の力も、魔法にかかってしまったかのように動かなくなってしまうでしょう。たとえどこえでも行けるからと言っても、それが自由であるとは限らないのです。どこに行っても感触の無い世界……無気力が満ち溢れるこの世界。自然と気分を暗くなって、憂鬱になってきます。

「ほら、早くくじを開けて確認して。ペアを作って隣の席に移動して」

先生の声で私は正気を取り戻しました。そうです。授業中でした。学校新聞を作るという課題で、ペアをくじで決めたところでした。それにしても、どうしてたかがこんなイベントで騒ぐことができるのでしょう?同性のペアなら問題ありませんが、男女ペアとなったら阿鼻叫喚です。男子は嫌がり女子は絶叫します。馬鹿らしい……ほんの数日の話じゃないの。ほら、見てみれば明らかです。既に男女ペアが三つほど出来ています。気まずい雰囲気でなんとも可哀想でした。私は全然気にしません。どうせ、私が全部書くんですから。男子も女子もどうせ私に投げ出すに決まっているんです。真面目になんかやらないんですから。

「あっ。ふーちゃん。13番?」

「え?藤間さんが私のペアなの?」

私の目の前にはペア相手が立っていました。紅葉色の髪をアップテールでまとめて、快活な雰囲気を与えるクラスメイト……私が一番苦手なタイプでした。

「あはっ!ふーちゃんなら大丈夫だね。頭いいし」

ほら、すぐ私に投げ出すつもりです。こんな問題児ならそうなるに決まっています。

「隣座るね。ふふ。話すの久しぶりだね」

「ええ。そうね」

屈託のない笑顔を見せる彼女。藤間比奈ふじまひな。私のクラスメイトです。お馬鹿で運動神経抜群の典型的な野生児。授業中は良く寝ているし、偶に冗談を言ったりして授業を中断します。先生には気に入れられていますが、こんな子のどこが良いのでしょうか。この前だって、体育の授業中に先生の言うことを無視して、ずっと遊んでて怒られたばっかりでした。秩序を乱す悪ガキです……本当に苦手です。

「みんないい?それじゃあ、話し合って。この時間中にテーマを提出しなさい」

「はーい……」

気の抜けたみんな声に交じって、私もなんとも覇気のない声で答えました。テーマと言っても、どうせこういうのにはパターンが決まっているんです。家族の事、学校の事、地元の事、友人の事……まあ、ありふれた話ですね。私もこのレパートリーからどれか選ぶことにしました。当たり障りのないところでは、うーん、地元の……隠れスポットを紹介とか?それとも、何か別の……。

「ふーちゃん?ねえ?どうしよっか。何にする?」

藤間さんの声に私の思考が中断されます。もう私の隣の人のことなんて忘れていました。

「いいよ。私が考えるから。藤間さんは中身の一部をお願いするわ」

中身の一部……たぶん、二三行くらいを想定していました。これでいいんです。藤間さんは絶対にこういうことに興味があるはずが無く、今だってきっと外で飛んで撥ねて遊ぶことで頭がいっぱいなはずです。私にとっても好都合です。だって、一人でやったほうが早いんですから。

「えーっ!私、とっておきのネタがあるのにー!ねえ、聞いてよ」

「はぁ?」

……予想外でした。あの勉強よりもドッジボールが好きな藤間さんが、新聞のテーマを持っている?話がややこしくなってきました。もしかして、この課題に参加するつもりなんでしょうか。

「青い鳥!そう、私ね、偶然見かけたんだー。ほら、あのおっきなポプラのある公園!そこでね!きっと良い記事になるよー。青い鳥は幸せを運ぶってねー」

「青い鳥?」

「そっ。ふーちゃんの髪みたいな、海みたいな青色の鳥だよ。ちっちゃいんだ。ほら、これくらい?」

藤間さんは親指と人差し指を広げて、その幅で鳥の長さを説明しました。ちょっと待ってください。このままだと青い鳥がなんとなくあったという、どうまとめたらいいのかわからないテーマになってしまいます!どうやってそれで一面書けっていうんでしょうか?見間違いの可能性だってあります。

「藤間さん。悪いけど、それは」

「はい!時間切れ。プリント持ってきて」

え!?嘘!時間切れですって!

「ふーちゃん、テーマはこれで決まりだね!いいよ、プリントは私が書いておくから。……よっと、はい、じゃあ提出してくるね」

「あ、ちょっと!藤間さん……ああ、もってっちゃった」

私は頭を抱えました。計画では、ありきたりなテーマを設定して退屈だけどすぐに仕上がる簡単なものにする予定でした。それが……青い鳥?藤間さんが偶然見たよくわかんない小動物で一面をかき上げろって?冗談じゃない!

「ふーちゃんっ。一緒に頑張ろうねー」

「藤間さんっ。私、それでいいなんて言ってない」

「いいよいいよ。私に任せて。ね?」

藤間さんのウィンク……腹が立ちます。

「うぅ。藤間さん。そういうね、よくわかんないのはまとめるのが大変なのよ?一体何を主軸にするのか……」

「だから、青い鳥じゃん?それに、私のこと<さん>付けはよしてよね。痒くなっちゃうから。比奈でいいよ」

「……比奈。ねえ、本当にこれでいいの?書きあげられる?」

「大丈夫だって!ふーちゃん、信じれば救われるってね~。まあ、明日から作戦会議しよ?明日ね!」

「比奈!待って!」

……あの野生児は留まることを知りません。強引に押し切り私の計画をご破算させてしまったのです。締め切りは今から一週間後。しかも、みんなの前で発表しなければならないのです。私が頭がグラグラしました。別に眼鏡をはずしたわけではありません。授業が終わればすぐさま駆け出していく、あの訳の分からないクラスメイトに頭が痛くなるのです。私は外を見ました。せっかく外の景色でも見て気分を改めようと思ったのですが、先ほどから変わらないようです。どんよりと雲が青い空を閉ざしていました。鳥一匹も見えません。

キャラクターについて。

椚風香くぬぎふうか――まともな子を自負する女の子。文系。眼鏡をかけている。

藤間比奈ふじまひな――元気で明るい子。勉強は苦手。いつも袖をまくっている。

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