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竜宮年代記 Ryuguu Chronicle  作者: 扶桑かつみ
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フェイズ01「前史」

 始新世から漸進世の約4000万年前から3500万年前にかけて竜宮の島々が誕生した当初は、何もない溶岩だけの地形だった。

 太平洋上に突如出現した巨大火山が竜宮そのものだった。

 

 世界中の神話では天地が作られる話があるが、竜宮は極めて近い時間にそれが実際に行われたという、極めて珍しい事例だったのだ。

 

 しかし何もなかった島にも、少しずつ生命がやって来る。

 

 波浪と風と雨によって少しずつ島が削れていくほどの長い時間をかけて、徐々に他からやって来る形で自然が増えていった。

 

 多くのものは海流に乗ってやって来たもので、植生が貧しい状態が長い間続いた。

 すぐに豊かになったのは島の周囲に僅かに存在する海の浅瀬で、南部ではすぐにも珊瑚礁が形成されるようになり、多くの魚も住み着くようになった。

 北太平洋という浅瀬の少ない場所にあって、早々と海の楽園となった。

 

 しかし竜宮には相応の時間があったため、孤立した状態と温暖な気候によって独自の生態系が見られるまでに至った。

 ガラパゴス諸島やニュージーランドと比較されることもあるが、やはり近在のハワイ諸島との比較が一番多い。

 しかしハワイと違って、竜宮島には多くの時間があった。

 

 ただし、長い間太平洋上の孤立した生態系のため、大型陸上生物は存在しなかった。

 とは言え、数千万年の時間の中で多数の動植物は存在し、陸地が誕生してから数千万年の間に海流で流れ着いた種子が最初に繁殖していった。

 中には、数千キロの空を飛んできた種子もあったと考えられている。

 最初は火山特有の荒れ地でも、竜宮の位置が繁殖しやすい気候だったため、徐々に繁殖した植物が土壌を肥沃なものに作り替えていった。

 最初に陸地で繁殖したのは、海草が上陸したものではないかと考えられている。

 これらの植物は海や河川の浅瀬から、少しずつ湿地状態になった場所に広がり上陸を果たしたと考えられている。

 時間軸にして、約3800万年前の出来事だった。

 これらの原始植物と言える独自の植物が、竜宮の大地を最初に改良していった。

 彼らこそが海から有機分を竜宮の火山土の上にもたらしたのだった。

 

 しかし繁殖力が弱かったため、大陸から何らかの方法で行き着いた植物が繁殖し始めると、瞬く間に駆逐されていった。

 

 次に繁殖したのは苔やシダで、彼らが本格的に土壌を整えていった。

 この時期で約3500万年から3000万年前と測定されている。

 

 その後徐々に大型の植物も繁殖するようになった。

 最初の大森林が形成されたのも、約3000万年前と考えられている。

 閉鎖された環境のため全てが大陸地域に比べてスローテンポだったが、着実に前進を続けていた。

 

 陸地が賑やかになってくると、魚介類も海ばかりでなく河川にもある程度見られるようになった。

 土壌の肥沃化に伴い、魚の種類も数も増えていった。

 我々から比較的近い時間に至ると、サケやウナギ(の先祖)も遡上するようになった(※温暖期や寒冷期によって変わる)。

 

 そうしていると、遠路はるばる渡り鳥たちが飛来するようになった。

 島が大陸移動に従って、少しずつ大陸に近づいていた結果だと考えられている。

 

 そして鳥たちが半ば偶然に持ち込んだ種子によって、さらに植生が豊かになった。

 昆虫が増えたのも、鳥が頻繁に飛来するようになってからだった。

 鳥たちは、天性で備わった地磁気の力を利用して、竜宮の存在を知ったのだ。

 

 最初にたどり着いたのは、魚の動きを追いかけていた海鳥たちだった。

 そのうち越冬のための渡り鳥も多数飛来するようになった。

 住環境が快適なため、居着く鳥も増え始めた。

 何しろ外敵がいないのは、繁殖のためには最高の条件だった。

 

 島が大陸移動の結果黒潮(北太平洋海流)に近づくに連れて、流れてくるものも増えた。

 

 約1000万年前に最初の陸上ほ乳類のマウス(鼠=ソウ)の先祖も住み着き、天敵がいないため大いに繁殖した。

 日本海流及び北太平洋海流は暖流(海流)の中でも流れが速いため、最も近い陸地から3000キロメートル以上(当時は4000キロメートル以上)もある長い旅路でも生き延びる事ができたと推測されている。

 一番の仮説が、日本列島での大水害で流れ出た流木群と共にマウスなど大量の小動物が海に流され、その流木群の中で食べられるもので凌いでいるうちに海流に乗って流れ着いたというものである。

 これならば、繁殖できるまとまった数が一度に渡った可能性も確かに存在する。

 

 しかし反対に何らかの別の要因が、マウスをこの島々にもたらしたという説も一部で根強く残されている。

 

 なお島のほ乳類が長らくマウスだけだったので、動物学者の間では竜宮をマウスの楽園と呼ぶ事もある。

 恐らくさらに数千万年の時間があれば、マウス以外の独自の生物も多く誕生していただろう。

 


 約3000万年前に最初の大森林が形成されるが、既に恐竜やシダ植物の時代は過ぎ去っていたので、次の世代の植物群(裸子植物)が生い茂った。

 またこの時期の温暖な時期に形成された島々を覆い尽くす森林群が、後の石炭層(主に瀝青炭)となっている。

 

 その後も主に流れ着く種子と既に現地に根付いた植物により豊かな植物層が形成されたが、他の地域から離れているため動物はあまり寄りつかなかった。

 長距離移動(飛行又は回遊)可能な動物類と、流木と一緒に運良くそして大量に流れ着いた小型動物(昆虫)以外では、マウスぐらいしか動物はいなかった。

 マウス以外のほ乳類は、島に至る前に死に絶えると考えられており、マウスを追ってきた種は確認されていない。

 

 シースネークの一種が陸にあがって陸蛇ロングウヘビなどとして住み着いた例もあるが、蜥蜴など他のは虫類は、陸亀以外には見られない。

 ガラパゴスのイグアナのような種もいない。

 シースネークも、陸にマウスがいるから陸に上がってきたと考えられている。

 陸蟹も順次出現した。

 

 しかしマウスは島の豊かさの中で繁殖し、少しずつ変化(進化)もして、幾つかの独自の派生種も生まれている。

 樹上で暮らすジョウソウ、草原を駆ける兎に似た種(飛鼠ヒソウ)、肉食化が進んだロングウソウ、そして外敵がいないので徐々に草食化と大型化したカピバラに似た種(大鼠ダソウ)が主な派生種として確認されている(※一部は既に絶滅)。

 

 そしてマウスの存在が、陸では無警戒な海鳥と飛ばなくなった鳥の大量繁殖を阻み続けた。

 この点が、ニュージーランドとの大きな違いだとされている。

 竜宮にも飛べない鳥は数種類いるが、どれも陸上の動物に対しては強い警戒を行うし、生息地域は南西部の小さな島に多い。

 人の生活範囲の増加に伴い、古代のうちに絶滅した種も存在する。

 また海鳥の多くも、陸上の動物に警戒感を示す種類が多く、海鳥が繁殖できる小さな島が少ない竜宮独自に発達した海鳥も多数存在する。

 こうした海鳥の多くは、自らの繁殖地を海沿いの断崖絶壁などに求める場合もあった。

 

 一方では、海鳥以外の多数の鳥も繁殖した。

 また肉食の猛禽類の中には、獲物を魚から島で豊富な各種マウスに変える種類も出てきた。

 長距離移動を止めて現地に根付いたタカとオオワシが繁殖し、中でも大鷲(ダイシュウ=リュウグウオオワシ)が島の頂点に立った。

 この時期にはシースネークも上陸しており、マウスが島の主だった時代は300万年程度で終わり、竜宮諸島独特の食物連鎖が形成されるようになる。

 マウスの大型化が止まったのも、この頃である。

 

 氷河期に北太平洋のアザラシが沿岸部にやって来た事もあったが、それも温かくなると北の海に去っていった。

 

 

 そして人間が世界各地に広がる過程にこの島に至ることで、従来の動物層、植物層も大きな変化を強いられることになる。


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