彼岸の乙女、流れる水と成ることver.1.2-1(跡地)
ある案件用に少し加筆修正したバージョン。
既載分と細かい修正点の差異を把握していない&もう別件に使うこともないと思われるので、一括掲載という形にしました。
ver.1.3への移行につき存在は整理されました。
これは、ここにそれが存在したという痕跡を記すものである。
その戦争は、女の顔をしていた。
最初にそれを見たのは、元服した歳の頃。12歳の時だった。
我が東の家は、神代の頃より主上に仕えて1000と余年。
飛鳥京の東西南北、そして中央を魔性より守護する御役目と姓を他の四家と共に授かること300年。
当代の私、東千草もまた平の京を守護する御役目を継いだ。
東家の役目は、戦の道具の管理、修繕、開発である。
古より連綿と受け継いだ、妖魔討滅のための大道具――空繰。
それは、鬼や魔神、瑞獣、神霊を象った、遠隔操縦の呪い人形だ。
見るも恐ろしい異形異類の空繰の数々は魔性すら慄かせるであろう。
その中に、ただ一体。
いや、ただ一人――美しい少女がいた。
長い黒髪と整った顔立ち。近くに寄るだけで、桃源のような香りが漂う。身なりも綺麗で、なんとも上等な着物に袖を通している。
そんな輝くような少女が一人、薄暗い空繰蔵の中、ぽつんと座っていた。
「東の世継の――方ですか?」
少女の声。小鳥の囀りかと思った。
呆然と固まる私の眼下で、少女は人とは思えぬ顔をして、笑っていた。
「うふふふ……何処の国をば滅ぼすのなら、わたくしに――お任せくださいませ」
人の顔ではなかった。
万の人の生命を、人生を、人格を、蹂躙し、圧倒し、食らい尽くし、破壊し尽くす――そういう権利を持ったもの。人間以上の災厄が、形成すもの。
そうだ。これはいくさだ。
戦争が、女の顔をしていた。
私は確信した。
彼女には、蟻を踏み潰す愉悦を味わう権利がある。
私は笑っていた。
壮絶なまでに美しい、人間以上の存在に出会えたのだ。
私は決意した。
この美しい戦争を、永遠のものにするのだと。