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ヒト・カタ・ヒト・ヒラ  作者: さんかいきょー
国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと
208/234

ゴッドストライカー澪・寄り道の巻

ボウリング! それは命懸けのゲーム……!

2025-0630イラスト更新

挿絵(By みてみん)

-世界ボウラー日本代表・神喰澪かみじきれい

別名ゴッドストライカー澪-


 南郷がコキュートスとの決着をつけ、園衛が敵歩兵ドロイド部隊を斬滅させていた頃──

 ロケット発射場から20キロメートルほど南の海岸に、三艘の黒いゴムボートが乗り上げていた。

 海上で〈ズライグ・ブルー〉に迎撃された輸送船から脱出したボートだった。

 といっても、救命ボートではない。

 自衛隊では戦闘強襲偵察用舟艇の名称で配備されている、ガソリンエンジンつき軍用ボートだった。

 輸送船に積まれていた〈アルティ〉たちは、船が航行不能と判断してボートを使って脱出。

 最も近い揚陸可能地点である、この浜辺に到達したのだった。

 戦闘強襲偵察用舟艇の最大積載量は約1.2トン。

 〈アルティ〉の機体重量を加味すれば一艘につき十体の搭載が限界であり、重装備の持ち出しは断念せざるを得なかった。

 ほぼ素手の〈アルティ〉が二十体、国道を北に進んでいた。

 ボートに乗ってきた数より少ないのは、断続的に落伍しているからだ。

 膝関節の不調で砂浜で擱座する機体もいれば、バッテリーの不具合で道路上に倒れる機体もいる。

『警告 コンディションレッド』

『警告 データリンク不能 光学カメラ 各種センサー 不調 警告 警告』

 またある機体は目の潰れた状態で、ガードレールのない岸壁から転落していった。

 これらは、納品時に意図的に仕込まれた初期不良による損失だった。

 そんな死の行軍の中──幸運にも破壊工作を受けてない製造ロットの〈アルティ〉が、行く手に立ち塞がる人影を捉えた。

 前方100メートル、道路のど真ん中に、女性らしきシルエットが立っていた。

『前方の人物の 画像認識 要注意人物に 該当あり』

 〈アルティ〉たちの歩みが止まった。

 機能に異常のある〈アルティ〉が止まった機体にぶつかって転倒したり、方向を見失って国道を外れて海に直進していく。

 北へ向かう国道は、一本道だ。

 他に迂回路はない。

 一直線の道の先に、群がる機兵たちはさながら──

「ボウリングのピンね」

 国道のど真ん中に陣取る、その女が呟いた。

 車の通りのない真冬の国道に、人の迷惑など顧みず、人ならざる者たちを阻む女がいた。

 真冬の北海道に似つかわしくない動き易さ重視の薄手の服、引き締まった体躯、手には指貫グロープ、鋭い目つきのその女は──

『要注意人物 神喰澪 職業 プロボウラー』

 〈アルティ〉が、女の素性を確認した。

 神喰澪は、かつて宮元園衛の配下として戦った経歴のある女だ。監視対象ではあるが、今は一般人なので警戒レベルは低い。

 なにより、神喰澪は今では戦闘とは無縁のボウリング選手であるから、さほど警戒する必要はない──そのはずだった。

 神喰澪は、おもむろにボールを取り出した。

 金色の──ボウリング用マイボール。

 どこから見ても、ボウリング。

 よって、〈アルティ〉達の警戒レベルは未だ低い。

 神喰澪が持っているのは武器ではなくボールなのだ。

「私の前の一直線のレーン上に、ピンが自動で並んでいる。誰がどう見ても、これはボウリング。ピンを倒すのが私の仕事。そして生き様……ッ!」

 神喰澪は、プロボウラーとして当たり前のことを言っている。

 そして当たり前のように投球のフォームを取った。

 全身運動で円を描くような動きで、神喰澪の残像が虚空に映る。

 その時、初めて〈アルティ〉のセンサーが異常を察知した。

『警戒対象の 魔力反応 増大』

『警戒レベル引き上げ マニドライブ 展開』

 数機の〈アルティ〉が胸部マニドライブを展開中に、機能異常を起こした。

 初期不良のため、装甲が展開し切らなかった。

 100メートル前方にて──神喰澪がボウリングの投球を放った。

「ゴォォォォォッド! ストラァァァァァァィクッッッ!」

 黄金の輝きが、レーンと化した国道を貫いた。

 それは、ボウリングという特定環境、特定概念下でのみ発動される破魔の力だった。

 光速に到達した投球は重金属粒子の黄金の熱線となって国道のレーンを撃ち抜いて、立ち並ぶ魔のピンと定義された〈アルティ〉たちを消滅させ、そのまま海上へと抜けていった。

 ピンが全て消えたのだから完璧なストライクであり、もはやゲームは続けられない。

 これにて、超光速のゲームセット。

 投球の跡──アスファルトは溶解し、熱線によって抉れた傷痕は地層にまで達していた。

 必殺の投球技ゴッドストライクを投射し終えた、神喰澪の全身から放熱の湯気が迸った。

「フゥッ! ああも当てやすい配置にいるなんて、ボウリングのルールを知らなかったようね」

 膨大な熱量の強制冷却。薄着はそのためでもある。

 神喰澪は、白煙を上げる指貫グローブをフッ……と虚空に振った。

「しかと務めは果たしましたよ、園衛様」

 彼女もまた、園衛に呼ばれ馳せ参じた戦力の一人だった。

 神喰澪、またの名をゴッドストライカー澪。

 今日の一投は、彼女の旅のちょっとした寄り道に過ぎない。

 ゴッドストライカー澪の行く先には、まだ見ぬ世界ボウラーとのボウリング勝負が待ち構えているのだ。


ボウリングに生きる彼女にとっては、ほんの寄り道

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