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ヒト・カタ・ヒト・ヒラ  作者: さんかいきょー
国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと
201/234

国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと-決戦編-47-

2025-0630イラスト更新

挿絵(By みてみん)

-復活、闘いの歓喜に軋むは、呪いの巨重甲。

呪いの超重装甲パワードスーツ〈R.N.A.ヘビーアーマー〉-



 防衛用の塹壕は、ロケット発射場と管制棟を囲うように三重に掘られていた。

 敵がまともな航空戦力も砲兵戦力も用意できないという情報から、こういったアナクロな防御陣地が有効であるとの判断だった。

 昨今の現代戦では、テロリストやゲリラ掃討を目的とした非対象戦や小規模市街戦が重んじられ、旧来の正規戦ノウハウは先進国軍隊からは失われつつある。

 100年前と変わらない古臭く、泥臭い戦争なぞ現代では起こらない──という、誤った認識、先入観。

 事実、この北海道の雪原地帯で、かつての冷戦中に想定された通りの陸上正規戦が展開されようとしていた。

 敵の第一陣が輸送機から降下したのは、管制棟から国道を挟んで西に約2km地点。

 雪の降り積もった原生林だった。

 投下されたのは12体の戦闘ドロイド〈アルティ〉を格納した、フラットタイプのコンテナだ。

 それは色も形も大きさも、黒い棺だった。

 棺の中からは、命なき機兵たちが無言で這い出てきた。

 22式汎用自律機兵〈アルティ〉。

 本来ならギリシャ彫刻めいたフェイスカバーが装着される顔面は、のっぺらぼうの無貌の状態。パーツの製造が間に合っていないのだ。

 純白の雪上迷彩に塗られた機体が半分、もう半分は未塗装の銀色の装甲だった。

 仕様のバラつきは、これらが各所からかき集められた根こそぎ動員の機体であることを意味していた。

 サーボモーターの駆動音が、深い雪中に響く。

 その時、一瞬〈アルティ〉達の動きが止まった。

『データリンク切断 敵広域ジャミング 再接続 不能』

 〈ケンザン改〉によるゴーストジャミングの影響を受けたのだ。

『部隊ネットワーク 再構築 以後 自己判断で 作戦を 進行する』

 〈アルティ〉たちは、部隊単位での独立した戦術データリンクで行動を再開した。

 彼らの目的は、威力偵察である。

 先行して配置していた斥候用の機体は既に撃破されているため、情報が不足していた。

 分かっているのは望遠映像で確認できた不鮮明な光学観測情報のみ。

 まず、攻撃目標である敵ロケットが既に発射準備にあること。

 そして電子戦用の〈ケンザン改〉が、これみよがしに格納庫から出されていたことだ。

 〈ケンザン改〉は長距離砲撃や、対空ミサイルの正確なレーダー誘導が可能な機体だ。

 これらを警戒しつつ進軍しなければならない。

 完全に頭を抑えつけられている状況だった。

 少し遅れて、別に降下していた支援ドロイドが合流した。

 〈20式支援戦闘装輪車〉。

 四輪バギー形態から、車輪のついた半人型ロボット形態に変型可能な機体だ。

 それが四両、部隊に合流して〈アルティ〉を搭乗させた。

 本来なら人間の歩兵が搭乗して移動手段として運用するのだが、それを〈アルティ〉が代行している。

 〈20式支援戦闘装輪車〉は火力、機動力、パワー、センサー能力の全てにおいて〈アルティ〉を上回る高級機材だ。

 それでも、この少数の部隊で戦線の突破は期待できない。

 敵戦力が脆弱という前提は、希望的観測が過ぎる。

 あくまで敵戦力の内情や配置を確かめ、そのデータを後続の本隊に伝えることが主な目的だった。

 ジャミング下では偵察用ドローンも使えない。直に撮影して記録するしかない。

 電子戦での敗北と航空戦力の欠落は、ハイテクノロジーのドロイド達に前時代的戦争をやらせるという、あべこべの状態を生み出していた。

 部隊が原生林を抜け、県道を西に少し移動した時──〈20式支援戦闘装輪車〉の光学カメラが最初の塹壕を発見した。

 小川を挟んだ原野に長大な塹壕が掘られ、県道にはバリケードが構築してある。

 県道を塞がれると、大きく迂回ルートを通るか、道なき山中を強行突破するしか進軍方法がない。そんなことをしている内にロケットは発射される。

 部隊ネットワークが県道の突破を決定した矢先──雪中で何かがキラリと光った。

 僅かに遅れてバックブラストの閃光が走り、ロケットモーターの噴射音が鬨の声となって雪原に響いた。

 〈アルティ〉たちは、それがロケットランチャーによる攻撃だと察知して回避行動に移った。

 だが、一発や二発のロケット弾ではなかった。

 合計二十発のカールグスタフ無反動砲が、多連装ロケットランチャーのごとく斉射されたのだ。

 発射には、僅かな時間差があった。

 まず、十発の榴弾弾頭が発射された。

 それらは時限信管で、〈アルティ〉たちの至近距離で炸裂。弾頭一発につき800発、合計8000発の対人鋼球を戦場にバラ撒いた。

 回避し切れなかった〈アルティ〉六体が全身の装甲に鋼球を撃ち込まれた。人間ならば蜂の巣と化して即死。しかし装甲化された機兵は、キツツキに大量の種を打ち込まれた樹木のごとき無惨な姿となっていた。

 撃破には至らずも、大きく運動能力が低下する形になった。

『警告 機動性低下 歩行不──』

 直後、ヒュンッ……という空裂音と共に〈アルティ〉達の装甲が黒い嵐に飲み込まれた。

 僅かに遅れて発射された十発のフレシェット弾頭が炸裂。

 弾頭一発につき1100発、合計11000発のタングステンの矢が円錐状に放出され、〈アルティ〉六機を戦場ごと飲み込んだ。

 嵐が去った後には、雪上に黒い点々と、粉砕された機兵たちの残骸が散乱していた。

 辛うじて回避に成功した内、四機の〈アルティ〉は〈20式支援戦闘装輪車〉に搭乗して、スラスターによるジャンプで上空10メートルに退避していた。

 上空からの索敵で、彼らは攻撃の射点を特定した。

『熱源サーチ 塹壕内に偽装した大型機 確認』

 約300メートル先の塹壕に被さった白いカバーの下に、大きな熱源反応を感知した。

 エンジンほどの発熱はない。バッテリー動力と思しき、3メートル程度の未確認機動兵器が隠れている。

 塹壕内にハルダウンして、ロケットランチャーの砲身のみを突き出して射撃をしてきたのだ。

 ハルダウンは、待ち伏せの定石である。

『ATM トップアタック』

 上空の〈アルティ〉四機は、〈20式支援戦闘装輪車〉の肩部ハードポイントに装備された対戦車誘導弾を準備した。

 敵はバッテリー動力の大型車両と予測していた。現行の大半の戦闘車両は、上面からの攻撃に脆い。

 スラスター噴射で滞空時間を稼ぎながら、敵大型機に向けて誘導弾を撃ち下ろした。

 ポシュッ、という発射音と共に高速で飛来するミサイルは戦闘車両には回避不能だ。

 必殺の間合いだった。

 白いカバーに着弾したミサイルは、確かに直撃だった。

 赤い爆炎と轟音が塹壕を吹き飛ばし、カバーは千切れ飛び……

 巨大な翡翠色のメタマテリアルシールドが無傷でせり上がってきた。

 塹壕の中から現れた異形は、戦場の道理を覆した。

 それは、巨人だった。

 黒い重電磁装甲で全身を覆い、背中には数十発のロケットランチャーを懸架した長大なウェポンバインダー、そしてメタマテリアルシールドを展開するフレキシブルアーム。

 竜のような長い尾を生やし、ゴリラのような巨大な腕で大地を掴んで、3メートルの重装巨人が胴体に埋まっていた頭部カメラを展開。

 上空の〈アルティ〉四機をロックオンした。

「ウェポンセレクト……ネイルアタック!」

『イエッサー』

 装着者である南郷十字のボイスコマンド入力。

 それに応答するは、火器管制を担当する支援ドロイド〈タケハヤ〉のAI。

 重装巨人が両腕を空に向けるや、緑色メタマテリアルで形成された指が一斉に発射された。

『回避マニューバ』

 〈アルティ〉らを乗せる〈20式支援戦闘装輪車〉がスラスターの点火で回避しようとしたが、陸戦車両に過ぎない機体は空中戦闘機動など不可能。

 飛来する十本のワイヤーネイルは縦横無尽に天空を駆け、四機の〈アルティ〉を破砕、あるいはワイヤーで切断解体していた。

 蒼空に弾け飛ぶは、機兵の亡骸。

 主を失って自己判断の遅れた〈20式支援戦闘装輪車〉を、即座に機関砲弾が貫通、撃破した。

 地上を疾走する〈タケハヤ〉からの攻撃だった。

 肩部ハードポイントに懸架した20mm機関砲の精密射撃で、自らの正式採用型を狙撃している。

 敵残存戦力は〈アルティ〉二機と〈20式支援戦闘装輪車〉三両。

 内、一機の〈アルティ〉が重装巨人に肉薄された。

 3メートルの巨体が、覆いかぶさるように迫る。

『敵機動兵器への 近接攻撃』

 データ取得を目的に、〈アルティ〉は接近戦をしかけた。

 人工筋肉の駆動音から判断して、重装巨人はパワードスーツの類だと分かった。

 ここまでの巨体を現行の技術で敏捷に動かすのは不可能。

 つまり、横に回り込んでしまえば、そこが死角となる。

 その判断は、ある意味で正しかった。

 重装巨人の左腕が、翡翠色のブラストを吐いて急加速するなど……誰も予想できなかったからだ。

 つまり、鈍重な機体の四肢を姿勢制御用のロケット噴射で強引に加速させての格闘戦!

 腕の一降振りで、〈アルティ〉はバラバラになって宙を舞った。

「ぬぅっ……ぐぅっ!」

 巨人の中の南郷が苦痛に喘いだ。

 この重き鎧はR.N.A.ヘビーアーマー。

 まとう者すらも蝕む、呪いの鎧だった。

 重装巨人は敵残存機からの銃撃を、全て装甲で受け止めていた。

 重電磁装甲は機関砲弾をも完全に阻み、二基のメタマテリアルシールドは戦車砲の直撃すら逸らす。

 あらゆる攻撃は表面で火花を発するのみで、全く効いていなかった。

 随伴機として死角をカバーする〈タケハヤ〉が、自らの正式採用型である〈20式支援戦闘装輪車〉との近接格闘戦に突入した時……ヘビーアーマーの頭部が上空を見上げた。

「きやがったか……!」

 バイザーの奥の赤い左目を細めて、南郷は忌々しく呟いた。

 高空から、蒼いプラズマの航跡が落ちてくるのが見えた。

 ジャミングされた通信ノイズの向こうから聞こえてくる──

『ソウ……キタンダ……我々ノ! 最後ノ! 時、ガ!』

 あの、狂ったサイボーグの声。

「お前らみたいなバケモノと付き合うのはよ……。ゴホッ……! いい加減に、ウンザリなんだよ!」

 南郷は辟易、苛立ち、咳混じりに呻きながら……

 ヘビーアーマーのウェポンバインダーが二十発の対空ミサイルランチャーを展開した。


超重装甲陸戦パワードスーツvs超高機動飛行サイボーグ!

死斗! 砕け散るまで!

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