国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと-炎上編-41
これが最後の破壊工作ゾ☆
わたくしは、東瀬織。
とてもとても久しぶりに、神様らしいことをいたしました。
万の人の心に、生き甲斐という救済を与えてさしあげたのです♪
古今東西、人間とは戦うこと、怒ることが大好きな生き物なのです。
大勢の仲間と怒りという感情を共有し、悪しき敵と戦い一方的に打ちのめすことで一体感に酔い痴れる……木の上で群れていたお猿の頃から何も変わらない性質でございます。
ゆえに、わたくしは万民から知性や理性といった虚飾を剥ぎ取り、叩いても良い悪しき偶像を与えてあげたのです。
あのウカとかいう小娘と、それを使って情報操作や思想誘導を試みていた政府の俗物どもが、利用しようとしていた愚民どもにボコ☆ボコにされて炎上して、70年以上かけてきた企みが崩壊していくのは実に美しいでございますね~?
今こうしている間にも聖も賢もなき愚民どもは、目の前の小さな板切れ、もしくは箱に向かって憎悪と悪意を注ぎ込んでいるのです。
暇なんですね~? 他にやることないんでしょうね~?
怒りとは貧者の娯楽とは良くいったもの。
しかし、そういう怒りを商売にしている人もおります。
その一人が、クァラルン・サルサヴァ―ンさん。
名前は字名みたいなものです。
独逸国籍の、相撲力士みたいな体形のオバサンです。
動物愛護で菜食主義者を自称しておりますが嘘ですね。確実に毎日肉食ってますわね。
この方、わたくしの偽装あかうんと〈Theory〉の熱狂的シンパであり、欧州で活動する過激派環境保護集団の頭目でございます。
日本にいるとあまり馴染みがありませんが、クァラルンさんの団体は欧州では政治的に強い影響力を持っております。
かの団体の環境保護方針は多数の市民に支持され、政治家もそれを利用しています。
ですので、活動資金を稼ぐことも難しくありません。
たとえば企業の工場に
「オメーらの工場は環境に優しくねェーーーんだヨッッッッ!」
と苦情を入れます。
日本や米国なら、こんなものは適当な対応をしてサヨナラなのですが欧州ではそうはいきません。
苦情が無視された場合、保護団体の抗議活動は過激化します。
連日、工場の前で騒動を繰り返したり、日に何百回も電話をかけたり、ますこみに働きかけて「あの工場は環境破壊をしている! 極悪企業でレイシスト! デェーー―――ス!」だのと吹聴するのです。
耐えかねた企業側は折れて、協力金と称した寄付を行います。
そうすることで
「ココはトテモトテモ、エコな工場デ――――ス!」
と、お墨付きを頂くのですね。
ほほほほ……まるで昭和のヤクザ屋さんみたいですわね♪
これが真っ当な商売、社会正義としてまかり通るのが欧州なのです。
ちょっろ♪
味を占めたクァラルンさん達は工場だけに留まらず、その辺の公園、電車の駅、官公庁の庁舎、挙句の果てには発電所――それも風力や水力発電所にまでイチャモンをつけて
大成功を収めたのでした☆
最初は大多数の市民も白い目で見ていた活動も、声の大きいキ〇ガイめいた支持者たちのおかげで社会的に認められました。
それに対する疑問や不満を口にすると環境破壊の極悪人で差別主義者で社会的の敵認定をされてしまうので、もう誰も表だってクァラルンさん達の批判はできません。
遂には欧州連合の議会にまで殴り込んで環境保護ぱふぉーまんすをして万雷の拍手で迎えいれられ
「もうキミらバカのお遊戯会には付き合ってられんよ」
と、それを目にした議長は呆れて退席。
翌日には辞表を出してしまったそうです。
以後、欧州各国議会では議長のような賢き人は絶望して議場を去り、愚者と狂者が勝利を宣言する地獄絵図と化しましたとさ♪
欧州はクァラルンさん達と、それを利用する奸臣たちが専横し、発電所を停止させたり、電線や水道を破棄したり、それが原因で暴動が起きたりもしていますが、まあそんなことはどうでも良いですわね。
要するに、クァラルンさんは絶大な富と権力を持った狂信者なのです。
そんな人達を、わたくしは日本に召喚いたしました。
〈Theory〉のあかうんとを使って、ちょっとした呟きを書き込んだのです。
「穢れた人の作った間違った道具が大地を侵しています」
とかなんとか意味深な呟きと一緒に、とある風力発電と太陽光発電施設の画像を添えて投稿いたしました。
それだけで、わたくしの何十万という信者さん達が勝手に考察をするのです。
「この発言は破滅の予言だ!」
とか
「古代ムー大陸の沈没も天変地異によるもの! それは環境破壊の~」
とか、どんどん頓珍漢な設定を追加して勝手な解釈を進めていきます。
ま、〈Theory〉の信者はすぴりちゅあるな人が多いので……。
わたくしは、カチナさん達に依頼して少し都合良く信者さんたちを誘導してさしあげました。
発電施設とそれに纏わる談合の内部資料を断片的に流出させて、義憤を煽って――
まあ要約すると
「この発電施設は汚職議員が国民の税金を使って外国企業に作らせた代物なので」
「ぶっ壊してもかまわない」
と、過激派を扇動したのです。
日本の方々はイマイチ行動力に欠けていますが、欧米の方は中々熱狂的なのですね。
クァラルンさん達の団体が100人以上も飛行機でやってきてくださいました♪
殺気だったクァラルンさん達は既に日本政府=環境を破壊して世界を破滅に導く悪の組織という妄想に染まっていますので、入国審査で審査官をブッ飛ばすという暴力沙汰を起こしましたが――
「なにっ? 逮捕取りやめ……? なんでよッ!」
通報で駆け付けた警官は、上司からの電話に困惑したそうです。
『外務省からクレームくるんだよ……面倒起こすなって……』
「面倒も何も傷害の現行犯ですよ!」
『上から怒られるの私なんだよ……。分かるだろ、それくらい!』
官僚機構特有の事なかれ主義、政治的圧力……ま、そんな具合でクァラルンさん達は無罪放免、治外法権、外交特権のお墨付きを貰ったのです。
なにせクァラルンさん達は欧州政府の重要関係者ですから、下手に手を出すと外交問題。
誰だって責任は取りたくないので、見て見ぬフリの放置というワケです。
「ダ――――ッ! Ich bin Gerechtigkeit!(ワシが正義じゃーーーーッッッ!)」
ぷろれすらー並の勝利宣言を叫んで、クァラルンさん達の進軍が始まりました。
道中、日本観光を満喫。
国技館で相撲を見ながら焼き鳥弁当と麦酒。
銀座でお寿司と日本酒。
新幹線で駅弁と酒、酒、酒! それが百人分!
ご丁寧に全てSNSで逐一報告してくださりました。
そして目的地の発電施設に到着――。
古来より行軍は補給も重要。
今世で現地調達するとしたら、それは膨大なる経済活動と言って良いでしょう。
太陽光発電施設を前に、ちょっとした軍勢が陣地を構築しておりました。
そこには大量の物資――糧食も運び込まれています。
「リーダー! 日本ノビーフ! クロゲワギュー! 買ってきたーーヨ!」
「リーダー! ジャパニーズケーキ! マンジュー! シュークリーム! バームクーヘン!」
「リーダー! サケ! ジャパニーズアルコール!」
構成員の皆さんが現地のスーパーで買い集めた大量の食糧を前に――
「出陣式じゃーーーッッ! PROSIT!(乾杯~~!)」
盛大な酒宴開始!
路上で肉を焼き、酒を飲む! 明らかな条例違反!
金網の前で警備員たちが警察に電話していますが、もちろん来ません。
クァラルンさんは、かなり特殊な飲食をするらしく……
「ワーオ! リーダーは肉を食って――」
「その脂っこさをケーキで中和して――」
「サケで胃袋に流し込んでマ――――ス!」
バケモノじみた豪快な食いっぷり、飲みっぷりも写真と共にSNSに投稿!
菜食主義者とか大嘘じゃねーか! というツッコミ多数でしたが
「今日はチートデイデ―――――ス! 肉ゥ! ウメ―! ウメ――――!」
だそうです。
中世の蛮族めいた酒宴を終えて、これまた蛮族の首領めいたクァラルンさんが思いっきりゲップ。
「ぶふぅ~~……そーろソロ、戦争ハジメッカーーーーー!」
「ウォー――――!(War――――!)」
第一次十字軍さながらの狂信者の軍勢がじりじりと警備員さん達に迫る!
警備会社から派遣されただけの一般警備員は完全に腰が引けておりましたが――
ただ一人、骨のある方がおりました。
「ここは私有地です! ただちに退去しなさい!」
ドン、と立ち塞がる巨漢。
戦車の前面装甲のごとき胸板、城壁のごとき肩幅、殺気に満ちた眼光の警備員。
恐らくは元機動隊か自衛隊員。本来なら第四号警備と称した要人警護に回される剛の者が、こういう事態のために特別に派遣されていたのでしょう。
しかし、クァラルンさんは歩みを止めずに肉薄。
警備員と接吻でもしかねない至近距離!
「ワッターシ達ワ! 無知蒙昧で未開のニホンジンにカンキョーホゴを教育しに来てヤッテンダヨ! ワッかンネーノカ! コノ、アホォ!」
「退去しろと言ってるんだ! とっとと帰れ! 日本語分からんのか貴様らァ!」
「強制ソーカン? ヤッテミローーーヤボッッゲェッ!」
パスポート振り回すクァラルンさんの張り手が警備員のみぞおちに炸裂!
相撲力士並の張り手に吹き飛ばされ、なんということでしょう警備員さんは電流の流れる金網に激☆突♪
「あばばばばばばばばばば!」
電流ですまっちの開☆幕ですわ♪
後は大体、80年代~90年代初頭のぷろれすみたいな流れですね。
最後はクァラルンさんが警備員さんをじゃーまんすーぷれっくすで撃沈!
「しゃーーーーーッ!」
汗だくで勝利の雄叫びを上げたわけです。
ほほほほ……この人達、マジで何しに日本に来たんですかね~?
後は暴徒のごとく発電施設を徹底的に破壊して頂きました。
特に変電設備を燃やしてくれたのは最高でしたね~?
「フォイヤ――――!」
焼酎を口に含んでの火炎放射! おまけに灯油もぶっかけで完全焼却♪
そこには変電設備に偽装した、ウカとかいう小娘の電子的な分霊……いわゆるさーばーが設置されていたのです。
外部からの電力供給が断たれても発電施設内に設置することで常に電力が供給され、尚且つ国会議員様の関連企業が運営しているから安全も保障されているという最高の立地ですからね。
まさか、こんな馬鹿げた方法で破壊されるとは夢にも思わなかったでしょう。
こんな具合で日本各地にある同様の施設をクァラルンさん達が襲撃して、全てのウカの分霊装置を破壊してくださいました。
もはや地上にウカの存在を具現化させる大型電子装置は存在しません。
残すは、はるか天上にある最後の一片。
それを破壊するための作戦は、わたくしにとっても瀬戸際でございます。
今の今まで安全な所から各種工作を指揮して参りましたが、いよいよわたくしも戦場に立つ時。
互いに総戦力を投入する決戦となりましょう。
北海道の原野のど真ん中――そこにある、ろけっとの打ち上げ場。
わたくし共はそこに防衛陣地を築き、敵勢を迎え撃つことになるでしょう。
南郷さん、園衛様、左大さん、そして来るのか来ないのかアズハさんと碓氷燐さんと、その他数名。
こちらの総戦力の皆々様には、わたくし――東瀬織という一本の矢が、天に放たれるまでの時間稼ぎをして頂きます。
次回、最終決戦の参加メンバーと作戦目標、戦力配置をイラストつきでパパッと解説!




