跡地/彼岸の乙女、流れる水と成ることver1
過去に書いた小説を元に大幅にブラッシュアップしたものでした。
新バージョンへの完全移行により、旧バージョンの存在は整理されました。
ここはそれが存在したという証の定点です。
-飛騨国風土記断片のこと-
遠い遠い昔のこと。
畿内の豪族が勢力を伸ばして戦を繰り返していたころ、
飛騨の山中に一本の巨木あり。
この地に住まう人々は、巨木に神が宿ると信じて、これを祀っていた。
人が巨木に憧れを抱くのは、樹上で暮らしていた遠い祖先たちにとっては樹木が世界の全てだったからなのかも知れない。
すなわち、巨木信仰とは遺伝子の記憶に基づいている。
木とは万物の恵みを生み出す存在であり、世界そのものだった。
神性を見出された巨木は数千年の長きに渡って、人の信仰を、願いを注ぎ込まれて、神という概念を形成した。
巨木は人々に恵みを与える神木と成ったのだ。
ある時、畿内の豪族が飛騨にやってきた。
彼らは降伏と臣従を勧めてきた。
頑なに抵抗していた宿儺の兄弟は既に亡く、飛騨の村々は降伏を選んだ。
畿内の豪族の使者は、かんながらの社を建てると言って、神木を切ってしまった。
それは村の自治を認める交換条件であり、神木は代償として差し出されたのだった。
数千年分の信仰を蓄積された、ひもろぎの神木は神宮の建立に供される――というのが建前だったが、
その実は異なる。
後に大和と称す豪族たちには……まったく別の、残酷な目的があったのだ。