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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
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023 魔術学院侵入大作戦

【前回のあらすじ】

・学院に登校したメルティ

・学院にてメルティはキーラと再会を果たす

・キーラに唆された挙句、メルティは正直者のネックレスの力が発動させてしまう


 授業開始の鐘は鳴ったが、まだ室内に教師の姿はなかった。

 皆自分の席に座り教師が来るのを待ちつつも、席の近い者同士で小声で談笑している姿がちらほら見える。


「ねぇリム、メルティのやつ遅くない」


 教室の後ろ側に座る、ポニーテールの女子生徒が独り言のようにそう呟いた。

 隣に座っていた女子生徒は周囲から視線を感じ、背筋をゾワリとさせる。


「……ッ!? エイラちゃん、ちょっと声大きいよ……っ」


 リムと呼ばれた少女は、隣に座る彼女だけに聞こえるような小さな声で返事をする。

 整った前髪を揺らし、メガネのレンズの奥から隣に座る彼女のことを上目遣いでジッと見つめる。


「でもメルティちゃんが授業に遅れるの、確かに珍しいね。先生が来るの遅いのはいつものことだけど……」

「私が規則破ると怒るくせに、自分が破るとはなぁ……」


 リムの隣に座る長い髪を後ろで纏めた彼女、エイラはどこか遠くを見るような視線で呟く。

 一人呟く彼女の顔を、リムはただ見つめる。

 エイラはリムと比べると背が高く、クラスの中でも特に整った顔立ちをしている。

 そんな彼女は今、すごくつまらなそうな表情でただ前を見つめていた。


 背筋を伸ばし、机には勉強道具一式を揃えて待機しているリムと、机に膝を置いてうなだれ、ペンの一つも用意していないエイラ。

 一見気が合わなさそうな二人だが、二人にはある繋がりがあった。

 それは二人とも、メルティの友達だったということ。


 中等部までは三人で特に当たり障りのない会話をして、毎日を過ごしていた。

 それが今では、会話することもほとんどなくなってしまった。

 仲違いしたわけではない。

 何が原因なのかは分からないが、クラスの中心人物イルダにメルティは目をつけられてしまったのだ。

 それからは二人に限らず、メルティに少しでも話しかけようとする者は、イルダの取り巻きに嫌がらせをされるようになってしまった。


 最初のうちはエイラはそれに憤慨し、抗おうと努力した。

 だがエイラがメルティに関われば関わるほど、嫌がらせの対象はエイラではなく、メルティの方へと向かった。

 何よりイルダは高い格式を持った魔術師の家系として有名で、手を出そうものなら学院外からの当てつけをも受けることとなる。

 そうしていつしかエイラも心が折れてしまい、互いに関わらないようにするのが一番不幸にならずに済む、という結論に至ってしまった。

 納得など出来るはずもないが、自分の力ではこれが精一杯の対応だった。


「そういえば、なんかメルティちゃん、今日は朝からちょっと様子おかしかった」

「ん? そうだった?」


 エイラはリムがメルティの話を続けたことに少し驚く。

 今ではクラスの中でメルティの名前が出るだけで、そわそわした空気が流れるようになっていた。

 普段周囲の空気を読んで行動するリムがメルティの話をするのは珍しい。


「うん、なんか、すごくそわそわしてた」

「でもあの子、普段からそそっかしいところあるしなぁ」

「ううん、今日のメルティちゃん、何かに怯えてた。間違いないよ。だって私いっつもメルティちゃんのこと、気にかけているんだから…………何にも、出来ないけど……」


 リムだって元はメルティと親友と言っても過言ではないほどの仲だった。

 友達を守れない自分の弱さに辟易としているのは自分だけじゃない。

 リムだって同じなのだとエイラは気づいた。




 ——メルティが教室に帰って来たのはそんなタイミングだった。


 ガタンと扉を開く音が響き、室内にいる全員がそちらに視線を向ける。

 メルティの様子がいつもと違う。

 リムだけでなくエイラにも、それが理解できた。

 大きく見開いた目はまる瞳孔が開いているかのようで、普段は目立たないように視線が下を向いているメルティが、堂々と室内を歩いていく。

 もはやクラスにいる全員が、言葉にできない異常に気づいていた。

 メルティが自分の席を通り越したところで、クラス全体に緊張が走る。

 ようやくそこでメルティは立ち止まったと思ったら、そこはイルダの席の真ん前だった。


「ちょっと話があるのですが、いいですか」


 そして一言、メルティはイルダに向かってそう言った。

 クラスがざわつく。


「ちょ、ちょっとあんた!」


 いつもイルダの隣にいる取り巻きの一人が立ち上がり、メルティの胸ぐらを掴もうとする。

 ——だが。


「ひっ!?」


 メルティは彼女を強く睨む。

 ただそれだけで、メルティに近づこうとしていた彼女は尻餅をつき後ずさる。

 彼女に限らず、クラスメイトの多くが恐怖を感じていた。

 何も彼女はメルティの眼力に恐れおののいたわけではない。

 その背後から感じる、尋常ではない魔力を恐れたのだ。


「な、なんだ、メルティのやつ……なんであんな魔力持ってんだ」

「あ、あ……っ!? あれ、昔のメルティちゃん……」

「は、昔の?」

「うん、中等部から仲良くなったエイラちゃんは知らないかもしれないけど、初等部の頃、メルティちゃんはすごい魔力の持ち主だったんだよ」

「だったって、じゃあ今はなんで」

「分かんない、メルティちゃんはただの早熟だったんだよ、って言ってたけど。私ずっとあれはそういうのじゃないって思ってた! なんで今、昔みたいになってるのかは分からないけど!」


 二人は焦りながらも状況を整理していく。

 それでもこの異様な空気の中、メルティとイルダの間に入っていくのは難しかった。

 そんな時、イルダはパタンと読んでいた本を閉じ、立ち上がる。


「分かりました。場所を移しましょうか」


 そう言うなり、彼女の取り巻きが一緒に立ち上がろうとするが、イルダはそれを手で静止する。


「お話しするなら二人っきりの方がいい。そうですよね?」


 こくり、とメルティが頷く。

 そうしている間にイルダとメルティは共に教室の外へと歩いてゆき、二人が室内から消えた後もしばらく部屋の中は静寂が続いた。






「ねぇリム」

「……なんですか?」

「私は二人を追う」

「は……?」

「何かやばいことが起きそうになったら私が止める! あんたは…………誰か頼りになりそうな人見つけてきて!」

「は、はぁッ!?」


 言って、エイラは返事を待たずに教室から飛び出していったのだった。



 ***



「……ということがありまして」

「なるほど……ああ見えて結構荒っぽいんですわよね、あの子」

「純情なんですよ。あるじよりずっと」

「え、えぇ……」


 あまり驚く様子を見せない二人に逆にリムは困惑する。


「それで……えっと、リムさん、でしたっけ? あなたはどうして図書館に?」


「それは…………なんやかんやで学院の関係者は能力のある人や家系に甘いんです。だから学院の先生に頼ったところで、きっとイルダさんの力でうやむやにされてしまう。でも図書館には学院の関係者以外の人もいるので、もしかしたらと思って……」

「なかなか利口な考えですわね。そして私を見つけ出すなんて、豪運の持ち主ですわ」

「は、え……?」

「メルティのことは、この私がなんとかしてあげますわっ!」


 自信満々に胸を張るタリア。

 あまり頼りになりそうには見えないが、それでも今この状況でメルティの味方をする人物が現れたことにリムは感謝の気持ちでいっぱいになる。


「ありが………ありがとう、ございます……ッ!」


 リムは深々と頭を下げる。


「本当は私が……メルティちゃんの隣にいなきゃいけないって思って、たのに……何にもできなくて……ッ!」


 声にしゃっくりが混ざり始め、リムはそこで自分自身が泣いているのだとようやく気づいた。


「あら、メルティの友人の方でしたか。だったらなおさら頑張らなくてはなりませんね。私が笑顔の彼女を連れてきてあげますわ。……それで今、メルティはどこに?」

「えっと、上の階に登っていったみたいなので、多分屋上あたりが怪しいかと」

「分かりましたわ。行きますわよ、シャロ——ぐぇえッ!」


 シャロンは自信満々に歩き出したタリアの襟元を掴む。

 自分の服に首を絞められたタリアはその場に崩れ落ちた。


「あるじは学院に入る許可証か何か持ってるんですか? 一般人が入れるのはこの図書館までですよ?」

「そ、そうでしたわ……リムさん、何か私が学院内に入れる方法を知りませんか?」

「え、あそっか、外部の人は校舎側の入り口で止められてしまうんですね。制服を着ていれば特に止められることもなく出入りできるので、あまり気にしたことがありませんでした。となると——」

「なるほど、それですわ!」

「え?」


 なるほどと言われても、リムは何がなるほどなのかまだ理解できていない。

 タリアはリムの肩に両手を置き、そのまま指を胸の方へ滑らせ、さらには制服のボタンに手をかけようとする。


「……え、ええっ!?」


 身の危険を感じつつも、その場を動くことができないリム。

 年上の女性に体をこんな風に触られるのは初めてで、体は硬直して動かなくなり、頬は暑くなる。


「それでは早速グェッ!」


 また襟を引っ張られ、タリアの顔が天を向く。


「あるじ、はしたないですよ。う〜ん、ここではちょっと都合が悪いので、トイレに行きましょうか」

「え、トイレ? え、なんで……?」

「公衆の面前で服を脱ぐわけには行かないでしょう」

「え、ええっ!? な、なんで、誰が脱ぐんですかっ!??」

「「誰って……」」


 タリアとシャロンは同時にリムを指差す。


「あるじが校舎の中に入るには学院の制服が必要、そしてこの三人の中で制服を持っているのはリムさん、あなたしかいません」

「そういうことですわ」


 そこでようやく、リムは彼女たちの考えを理解し、開いた口が塞がらなくなる。


「え……ええッ——むぐッ!?」

「図書館で大声はダメですリムさん、それでは行きますよ」

「んんッ!? ンン————ッ!!?」

「リムさんの制服着れるかしら……ま、私スレンダー体型なのでいけますわよねっ」


 そうして半ば拉致されるような形で、リムは図書館内のトイレに押し込められるのであった。











「入りますか、あるじ?」

「この子背が低めだから、ちょっと丈が……」


(そっか、私のせいだ……)


 トイレの個室で服を脱がされながら、死んだ魚のような瞳でリムは思う。


「これ…………大の大人が学院の制服着て、無理してるって思われませんかね?」

「なっ! 私見た目よりずっと若く見えるってしょっちゅう言われるんですわよ!」

「あるじ、それ社交辞令」


(私がメルティちゃんの味方になれなかったから、メルティちゃん…………悪い友達作っちゃったんだ……)


 上から下まで制服を奪われたリムは、トイレの個室の中で再び涙を零した。


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