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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
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022 階段の下で

【前回のあらすじ】

・大図書館で調べ物をするタリアとシャロン

・話題はメルティの方へ

・そんな二人の前にメルティを知る学生が現れる


「はぁ〜〜」


 メルティは深いため息をつく。

 一限目の授業が終わり、教室を飛び出したメルティは校舎の隅にある人気のない階段下でうずくまる。


「タリアさんの前では意気揚々とできたけど……だめだ気持ち悪い……吐きそう……」


 極度の緊張からか、メルティの顔は青ざめている。

 タリアの顔を見れば嫌なことも全て忘れられるのに、自分自身がこんなに弱っていたことにメルティ自身も今になって気づく。


 思えば両親が消え、レオに襲われたあの日からまだ数日しか経っていない。

 クラスの人気者であるはずのレオは死んだ。

 不本意だった——というと少し異なるのだが、レオはメルティの手で殺してしまった。

 だからきっとクラスでもきっと騒ぎになるだろう。

 場合によって自分は名指しで責られることになるだろう。

 そういう覚悟の元、メルティは学園へとやって来たのだ。


 だがそんな覚悟を持って登校してはみたものの、実際には特に何も起きなかった。

 そこにあったのはいつもの光景。

 朝から談笑するクラスメイト達。

 レオは体調不良のため欠席となっていた。

 ——そんな訳が無い。

 そしてそれに関わっているだろうイルダに至っても、特にメルティに突っかかってくる様子はない。

 ただ、友人と語り合っているだけだった。


 さも平然とそこにあるいつもの日常。

 それが逆に気持ち悪いと感じてしまう。

 授業の内容など全く頭に入らず、一限目が終わるのと同時にメルティはその場から逃げ出したのだった。


「大丈夫?」


 背後から声が聞こえた。

 メルティを心配する女性の声。


「あ、すいません……」


 声をかけられるまで足音や気配を全く感じなかったことに違和感を覚えながらも、メルティは返事をする。


「私はもう、大丈夫で————ひィンッ!?」


 スッと不意打ちで背筋を撫でられたのはそんな時だった。

 うなだれていたメルティはピンと背筋を伸ばして立ち上がり、後ろを振り向く。

 そこには一人の女子生徒がいた。


「きゅ、急に何を……ッ! ……って、あれ……どこかで……?」


 その女子生徒の姿はどこか見覚えがあった。

 特徴的な赤い髪に、赤い瞳。

 知っているという感覚はあるのに、メルティはあと一歩のところで彼女のことを思い出せずにいた。


「こないだ会ったね。ほら、前は給仕服のおねーさんと一緒にいたじゃん」

「ぇ……あ、あぁああああああッ!!?」


 そこでようやく彼女のことを思い出す。

 全てが崩れたあの日、仮面を被って襲撃してきた彼女だ。


「しっ、声大きい」

「あ……スィマセン…………はっ!」


 ふと条件反射で頭を下げた後、メルティはハッとして警戒する体勢をとる。


「別に取って食ったりしないよ。改めてこんにちは、メルティちゃん。私の名前はキーラ、よろしくね」

「えっ、えと…………メルティです……」


 普通に自己紹介をしてくる彼女に、メルティはペースを狂わされる。


「でさ、イルダさんどうだった?」

「どうって……何が……? 普通でしたけど」

「あっそ……ねぇ、君ってもしかしてイルダさんより強い?」

「え?」


 自分で聞いた質問のはずなのに、キーラは興味なさそうに次の話題へと移る。

 彼女の目的や立ち場が未だに不明瞭で、言動の一つ一つがつかみどころがない。

 まさか学院内で物騒なことはしてこないと思うが、メルティは終始警戒だけは怠らないようにした。


「私は別に……強くなんか……」

「シラを切っても私には通用しないよ? だって私たち、ヤりあった仲じゃない。それも全部忘れちゃった?」


 忘れてはいない。

 正直者のネックレスに意識の主導権を奪われているときも、記憶だけは残っている。

 シラを切るかどうか悩んだメルティだったが、そんなメルティの顔を見てキーラはニヤリと笑った。

 それを見て、彼女に自分の嘘は通用しないとメルティは直感的に気づく。


「……そんなこと言われても、私だって本気のイルダさんの実力を知りません。なのでなんとも言えません」

「へぇ、あんだけ強い魔力を持っていればもっとイキるもんかと思ってたけど、違うんだね」


 キーラは挑発的に微笑む。

 やはり彼女の真意はつかめない。


「大体、そんなことを聞いてどうするつもりですか?」

「うーん、もしメルティちゃんが自信を持って『イルダなんかより自分の方が強いよ』と言ってくれるなら、私はへりくだってメルティちゃんの味方になろうかなー、と思ってさ」

「……え?」


 もはや彼女の言動は滅茶苦茶で、理解が追いつかない。

 頭の中で思いついた言葉を整理する前に口に出しているのではないかと思えるほどだ。

 それでもメルティは彼女の言葉に耳を傾け続けた。


「格式を持たない家の子って辛いんだよ。成り上がるには汚れ仕事を任される。今回だってそうだったんだよ」

「……それは、この間の件は人から頼まれてやったことだから許してほしいと、そういうことですか?」

「まあ本心はそうなんだけど、そんなこと言ったって普通は命狙った人間を許したりしないよ……ね?」

「当然です!」


 メルティが強気言い放つと、キーラは手をパンパンと叩いて笑い出す。


「ふっ、あははっ、………はぁ、いいよいいよ。私も人の許しなんて求めてないしね。そんなことより取引しようよ」

「……取引?」

「うん、私は弱い立場のハイエナで強い者の味方。だから格式高い魔術の血脈を持ったイルダさんにペコペコしているワケ。でもね、今の環境じゃ偉い人の腰巾着にはなれても、それ以上にはいつまで経ってもなれない。だからさっきも言ったけど、もしもあんたがイルダさんより強くて、イルダさんをボッコボコにしてくれるなら、私はあんたに頭を下げて味方になるよ。靴だって舐めるよ」

「……そんなこと、信じられるわけがありません……っ!」


 メルティの意見は真っ当で、命を奪われそうになった相手にそんな話を持ちかけられても信用できるはずなどない。

 これ以上話してもただ頭を掻き回されるだけ。

 そう判断したメルティはその場から離れようとした。


「——ああ、そうそう。情報も売るよ。あんたのパパとママのことについても、ね?」

「……ッ!?」


 メルティの心が大きく揺れる。

 命を狙われた人間の言葉など信用できないが、母親と父親の情報を引き合いに出されれば話は別。

 それは喉から手が出るほど欲しい情報だった。


 そんなとき、2限目の始まりを告げる鐘の音が鳴った。


「…………次の授業が始まるので……私は、これで」


 強く歯を噛み締め、メルティがそう告げる。

 頭がパンクしてしまいそうで、これ以上の情報を頭に入れると冷静な判断ができなくなる。

 そう感じたメルティはその場から逃げ出すように振り向き、早足で駆け出す。


「うん、じゃあね。さっき言ったこと、考えておいてねメルティちゃん」


 不穏な空気を残したまま、二人は別れを告げる。

 怪訝そうな顔をしたままメルティが廊下の角を曲がる、その時だった。


「……えっ」


 メルティの襟元に指が差し込まれる。

 足音なく背後から近寄ったキーラは、そのままメルティの胸元に手を忍ばせる。


「何を——っ!?」

「確かここを……こうするんだよねッ」

「——ッ!? く、うあぁ……ッ!」


 一瞬、頭の中が真っ白になり、メルティは目を大きく見開く。

 抵抗するより先に、キーラの指はメルティが胸元にしまっていたネックレスに触れた。

 淡く光る紫色にメルティの意識は支配されていく。


「ごめんね、私返事は早く聞きたいタイプでさ。じゃ、イルダさんによろしく」


 周囲に反芻する彼女の声。

 意識が正直者のネックレスに支配されたその時、もうそこにはキーラの姿はなかった。


「う、く……ッ!」


 その場に一人残されうずくまっていたメルティだったが、ゆっくりと立ち上がると迷いなき視線で遠くを見つめる。


「行かなきゃ」


 そして一言そう呟き、一歩前へ前進する。

 頭の中に渦巻くモヤモヤを振り払いたい、彼女を突き動かすのはそんな思い。


 メルティは自分の教室へ————正確にはイルダの元へと歩き始めた。


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