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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
23/29

021 イズン第二島大図書館にて

【前回のあらすじ】

・鴉頭の化け物と戦闘を続けるメルティ

・魔女狩りの針の力を逆に利用され、苦しむメルティ

・呪いの力に苦しみながらも何とか勝利したのだった

 イズン第二島、魔術学院高等部に併設された大図書館。

 学院校舎内から入れる学院関係者用の出入り口とは別に、校舎外から入れる一般用出入り口がある。

 入場無料。

 第二島に入れる者であれば自由に出入りできる。

 館内にいる者の半数近くは学院の制服に身を包んでおり、もう半数も身なりの整った者ばかり。

 そんな中、白のワンピースに青いジャケットを羽織り、カジュアルめな格好をした女性の姿があった。

 黒を基調とした制服を着た学生が多い中、上から下まで白い色が目立つ彼女の姿は皆の視線を集めていた。

 彼女は自身の真っ白い髪をかき揚げ、手に持っていた本をパタンと閉じる。

 そして手に持っていた本を本棚の元あった場所へと戻した。


「はぁ……」


 ため息をつき、タリアは肩をがっくりとさせる。


「収穫ありましたか…………って、なさそうですね」

「そーですわねぇ……」


 そんなタリアの横から給仕服の女性、シャロンが語りかける。

 タリアは周囲を見渡し、人が少ない位置へ移動してから小声で語り始める。


「先日見た謎の魔獣……ここでなら何か手がかりがあるんじゃないかと思ってましたが、今の所何にもそれらしい情報は見つかりませんでしたわ」

「私の方もちょこちょこ調べ物してましたが、そもそも魔術に関わる全ての文献が魔術とは人間だけが使えるもの、という前提で書かれていますね。まあ私もあるじの話を聞くまではそれが常識だと思っていたわけですし。むしろ直接この目で見たわけではないので未だに信じられません」


 森の中にある湖の近くで、謎の魔獣に襲われたあの日。

 シャロンはメルティの家で留守番をしていた。

 泥だらけになったタリアが、ボロボロになったメルティを背負って帰ってきたと時は、気が動転してその場に倒れそうになった。

 その後シャロンは二人の介抱をし、ことのあらましをタリアから聞いた。

 謎の魔獣と遭遇し、メルティがなんとか撃退してくれたものの彼女はそのまま気絶してしまい、タリアがおぶってメルティの家まで連れてきたそうだ。


 だが二人を介抱するシャロンは奇妙に思う部分があった。

 衣服の損壊は明らかにメルティの方が上のはずなのに、彼女には傷と呼べるものが一つもなかった。

 まるで人形のように傷一つない綺麗な肌。

 その後シャロンはタリアから、彼女にかけられた死を否認する呪いの仮説を聞いたのだった。


「にしても……いいんですか?」

「……何が? 主語をはっきり言ってくれないと伝わりませんわよ」

「だって昨日の今日ですよ。メルティさん、学院に登校させてしまっていいんですか?」

「それは私もどうかと思ったけど、けど彼女が行くって言って聞かないんだから、どうしようもありませんわ」


 そうして魔獣騒ぎがあった翌日の今日。

 目を覚ましたメルティはいつものように制服を着て、学院に行く準備を始めた。

 タリアは無理をするなと止めようとしたが、なぜか彼女はやる気に満ちていて止めることはできなかった。

 仕方なく許可はしたが、何かあった時の為に登校時にタリアを第二島へ同行することを条件とした。

 そうして第二島までは来れたタリアだったが、学院の関係者ではないタリアは学院内に入ることができず、折角なので学院の関係者でなくても入れる図書館で調べ物をすることにした。

 館内があまりにも広かった為人目のつかぬところでシャロンを呼び出し、二人で情報収集を始め、そして今に至る。


「縄に繋いででも止めるべきだったんじゃないですか? 今回はほんとにやばかったらしいじゃないですか」

「ええ確かに、今回はメルティに助けられましたわ。でも、私はメルティの保護者ではないの。最終的に自分がどうするかを決めるのは彼女自身ですわ」

「そうなんですか……」






「保護者じゃなくて恋人ですもんね」

「〜〜〜〜ッ!!? ●×◆△□○ッ!!?」


 何を言っているのかは分からないが、タリアは顔を真っ赤にして動揺していた。


「あれ、違ったんですか?」

「ち・が・い・ま・す・わッ!!」

「そうなんですか……てっきり私の見えないところで、もうそういう関係になっているのかと……」

「なってませんわ!!」

「えーでも、目が覚めた時のメルティさん、『タリアさん! タリアさん、生きてた! うわーん!』って、あるじの姿を見つけるなり子犬みたいにはしゃいじゃって」


 魔獣と遭遇した日、メルティは戦闘後ずっと眠っていたが、夜になって一度目を覚ました。

 その時ちょうどタリアがメルティの看病をしていて、メルティは起きるなりタリアに強く抱きついたのだった。

 そしてそれをシャロンは部屋の外から見つめていた。


「そ、それはもう……ほんと、無邪気な子犬ですわよね、あの子は……」

「それであるじも満更でもなさそうな顔してたので、てっきり二人はもうできているのかと」

「……だから、そんなんじゃないって言ってるでしょう……っ!」







「見てて、ちょっと恥ずかしかったです」

「……うぅ、うるさいですわ……っ」







「で、どうするんですか?」


「主語!」

「メルティさんですよ」

「述語!」

「あんなに好き好き光線出してるじゃないですか。好きなら好き、嫌いなら嫌いってちゃんと返事をしましたか?」


「それは……もう、何度も言いましたけど、彼女の心がどん底まで沈んだ時に私が手を伸ばしたからああなってしまっただけ、一過性の感情の高ぶりに違いありませんわ」






 目を逸らしながら言葉を口にしたタリアだったが、シャロンからの返事が来ず、ふと彼女の方へ視線を向ける。

 シャロンは怪訝そうな顔でタリアを見つめていた。


「えー」

「えー、って何ですの!?」

「私、あるじの事ちょっと嫌いになっちゃったかも」

「な・ん・で!?」

「いや、だって…………ねぇ」

「あ〜〜〜〜も〜〜〜〜! 私がメルティに何をしたって言うのッ!? 主語と述語を交えてきっちり言いなさーいッ!」

「あーうー、引っ張らない引っ張らない」


 タリアはシャロンの襟元を掴んでグイグイ引っ張る。

 シャロンは何と答えるべきか、体を揺さぶられながらただただめんどくさそうな顔をしていた。


「あ、あのッ!」


 そんな二人の前で、見知らぬ女性が声を上げる。

 二人は同時にそちらを振り向く。

 丸いレンズのメガネに、真っ直ぐに切り揃えられた前髪が特徴的な少女だった。

 小柄な体型に学生服を着ていることから、この学院の生徒で間違いなさそうだ。


「ほらー、あるじが大声出すから」

「ぐ、ぐぬぬ……こほん。すいません、ちょっと口論になっただけで——」

「今…………今、メルティって」


 見知らぬ女学生の口からその名前が出てきて、一瞬二人の頭が固まる。


「「……はぇ?」」


 そして、二人は同時に間抜けな声をあげた。


「あ、あの……ッ、お二人は、メルティちゃんの知り合いなんですか……?」


 目の前の少女は口をどもらせながら、そう聞いてくる。

 丸いレンズの奥に見える瞳はワナワナと震え、元々内気な子が勇気を振り絞って声をかけてくれたのだと分かる。


「そのメルティと言うのは、この学院に通うメルティ・アルメリアのことですか?」

「は、はい! そうです! そのメルティちゃんです!」

「ええ、彼女でしたら私の知り合いですわ」


 メガネの彼女の頬が緩む。

 求めていた答えが返ってきて、ホッとしているようだ。


「と、ところで…………あなたはメルティちゃんとはどういう関係なのですか?」

「それは——」

「こいび」

「友人ですわッ! 元々私は商人で、私の商品を彼女が気に入ってくれましてね。話してみたら気が合ったので、たまに一緒にご飯を食べに行くくらいの仲ですわ」


 タリアは振り向き、シャロンのことをキッと睨む。

 だがシャロンもシャロンで何だか不服そうな顔をしていた。


「あっ…………友人の方なんですね。そっか……どうしよう……」


 彼女の声はどんどんと小さくなっていく。

 そんな自信のなさそうな彼女の前に、タリアは軽く腰を曲げ、視線を合わせる。

 そして優しめの口調で語りかける。


「何か相談したいことがあるなら、何でも言っていいんですわよ」

「あ、あの……その…………すぅー、はぁー」


 口をどもらせる彼女だったが、一度大きく深呼吸をすると覚悟が決まったのかタリアに視線を合わせる。

 そして、こう言った。


「メルティちゃんが今大変なんですッ!」 


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