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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
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016 そういう呪い

【前回のあらすじ】

・イチャイチャするメルティとタリア。

・メルティは家に帰ることを決意する。


 空の色は紫。

 昼と夜の間が夕刻なのならば、今は夕刻と夜の間の時間。

 買い物帰りの主婦や、仕事帰りに家路に帰る労働者達と同じ方向にメルティも進む。

 隣にはタリアがいるが、二人の間に特に会話はない。

 ただ伸ばしたメルティの手を、彼女は何も言わずに強く握ってくれていた。

 それだけで心強かった。


 いつも通る自宅前の路地が見える。

 1日ぶりの光景。

 たった1日しか経っていないのに、まるで長い長い旅から帰ってきたような、そんな気がした。

 当然のようにそこにある我が家が視界に入るだけで、目頭が熱くなって涙がこぼれそうになる。


「あっ、メルティお姉ちゃん!」


 声をかけられ後ろを振り向くと、よく知った顔の少女が見えた。

 

「み、ミキちゃん!?」


 そこにいたのは孤児院に住む双子の姉のミキ。

 パンや果物が入ったバスケットを両手に持ち、小走りで駆け寄ってくる。


「お姉ちゃ——んむっ? お、お姉ちゃ……ん?」


 笑顔で寄ってきたミキをメルティは強く抱きしめる。

 メルティの表情も見えず、どうして抱きしめられているのかも分からず、ミキは困惑してその場で動けなる。

 直後、ハッと冷静になったメルティはミキを解放する。


「あっ……ごめんね急に」


 メルティは顔を拭いながらそう言い、その目元は少し潤んで赤くなっていた。

 知っている人が当たり前のようにそこにいる。

 ただそれだけのことに、感極まっての行動だった。


「そ、そうだミキちゃん。昨日とか今日とか大丈夫だった? 何にもなかった?」

「え、えぇ……? なんのこと?」


 ミキはメルティの質問の意味が分からず首をかしげる。


「ううん、何もなかったならいいの。急に変なこと言ってごめんね」


 前かがみになって視線を合わせ、メルティはミキの頭を撫でる。

 頬を赤らめて心地よさそうな表情をするミキだったが、何かを思い出したかのようにハッと目を見開く。


「そういえば、メルティお姉ちゃんの方こそ何かあったの? 毎朝ウチに来てくれるのに今朝は来なかったから何かあったのかなって…………それにお姉ちゃんの家、今朝からずっと誰もいないってみんな心配してたよ?」

「あーうん、そうだよね…………ちょっと急にお父さんとお母さんが……そう、しばらく仕事で遠くに行くことになってね…………えーっと、それで見送りに行ってたの。心配かけてごめんね」

「大丈夫だよ! お姉ちゃんに手伝って貰わなくても、私たちだけで何とかできるからね! ほら、今日だって私一人で買い物できたし!」


 ミキは持っていたバスケットをメルティに見せつける。

 褒めて褒めてと、まるで犬のような表情でメルティの反応を待つ。

 期待に応じてよしよしとメルティが頭を撫でると、それこそ子犬のようにじゃれてくる。


「あらあら、随分と懐かれているんですわね」


 そんな二人を見て、今までずっと後ろで見ていたタリアが声をかける。

 するとミキの表情が曇る。


「お姉ちゃん、この人は……?」


 ミキは小声でメルティに語りかける。


「タリアさんって言うの。大丈夫、いい人だよ」

「も、もしかしだけど、商人の人?」


 言われて、やや忘れかけていたがそういえばタリアは呪物を売る商人だったことを思い出す。


「え、そうだけど。何で知ってるの?」

「——ッ!?」


 ミキの表情がサッと青ざめる。

 だがすぐさま、その表情は怒りに近いものへと変わる。

 ミキはメルティとタリアの間に立つと、手を広げてタリアを睨みつけた。


「そ、それ以上、メルティお姉ちゃんに近づかないでください!」

「「……え?」」


 二人はわけが分からずキョトンとする。

 だがミキの表情は本気だ。

 広げた腕は少し震えていて、その行動に緊張していることが分かる。

 自分よりも一回り体の大きな相手を前に立ちはだかるのは、勇気のいる行動だったはずだ。

 だがその行動の意味を二人は理解できずにいる。


「ちょ、ちょっとミキちゃん!?」

「あなたのことは知っています。最近白い髪の商人が怪しい商売をしているって」

「……怪しくはないですわ。私はただの呪いの品を売る呪物商で——」

「ほら怪しいじゃん!」

「ゔ……」


 タリアは何も言い返せなくなる。

 呪いを知らない一般人からすれば、それを売り物にしているだけで立派な怪しい人物だ。


「め、メルティお姉さんをどうするつもりですか!?」

「……どうするって……そうするつもりもありませんわ。ちなみにその噂は誰から聞いたんですの?」

「……占い師のおばさんから」

「あ・い・つ・かッ!」


 タリアはその瞬間、事のあらましを全て理解した。

 そういえば、あの占い師はこの辺りに住んでいたと言っていたことをタリアは思い出す。

 彼女の良心か、あるいはちょっとした世間話としてか、とにかくあの占い師が子供たちにタリアの噂をあることないこと吹き込んだのだろう。


「……っ!? そうだ、さっき二人……手、繋いでた……ッ! も、もしかして……め、めめッ、メルティお姉さんを我が物にしようとッ!!?」

「な、なななッ!? ミキちゃん何を言ってるのッ!?」


 顔を赤らめ、あらぬ方向へ勘違いを進めていくミキ。

 だかその後ろにいるメルティは彼女以上にパニックを起こし、顔が真っ赤になっていた。


「たっ、タリアさんは女の人だよッ! 手を繋いでいたのは……その…………」

「無理やり繋がされてたんでしょ? 世の中には女の人を好きになるおかしな女の人がいるんだって、ミークおばさん言ってたもん!」

「お、おかしな…………」


 メルティが固まる。


「お姉ちゃん美人だからきっと…………はッ!? そうか! さては、その……っ、なんかそういう呪いの力を使ってお姉ちゃんの心を操っているんでしょ!」

「あ、あう……あうあうぅ……違う…………違うのぉ……」


 ミキが言葉を発するたびに、その言葉は背後にいるメルティへグサグサと刺さっていく。

 メルティは崩れ落ち、首筋まで真っ赤になった顔を両手で抑えていた。


「ミキちゃん、でしたっけ? あなたはメルティお姉ちゃんのことが随分好きなんですわね」


 メルティが自分の世界に閉じこもっている中、タリアはミキに近づき彼女だけに届く小さな声で語りかける。


「そ、そう……だけど……?」


 声を震わせながら、ミキは身じろぎ一歩後ろに後退する。

 やはり素性の知れない年上の女性というのは恐ろしく見えるのだろう。

 それでもミキはタリアから目を離さず、決して逃げようとはしなかった。


「そう……じゃあこれからもずっと好きでいてあげなさい。あの子はちょっと心の弱い子だけど、あなたみたいに自分のことを心配してくれて大事に思ってくれる人がいるなら、きっとそれだけで頑張れる。そんな子なんですわ」


 タリアはミキに視線を合わせ、メルティがやったように彼女の頭を撫でる。


「あ……っ」


 一瞬、緊張の糸が途切れ心を許してしまいそうになる。

 だがすぐさまミキは目つきを鋭くし、その手を払いのける。


「な、何を知ったような……」

「あなたにも、あなたを心配している人がいるんでなくて……?」


 言われて、ミキは空を見上げる。


「……あっ、もうこんな時間……っ!?」


 日は完全に落ち、空は暗闇の色に染まっていた。


「ど、どうしよっ!? ミークおばさんに叱られ……くぅ〜〜っ! 今日のところは見逃してあげるんだから!!」


 ミキはタリアに向けてビシッと勢いよく指をさし、自分を待つ者がいる孤児院の方へ駆けて行った。


「はいはい、覚えておきますわ」


 悔しそうにこちらをチラチラ振り向くミキに、タリアは笑顔で手を振る。


(……良い子ですわね)


 決して全ての環境がメルティの敵ではないのだと知り、タリアは安心する。


「……タリアさん」

「ん?」


 ミキの姿が消えたところで、顔を手で隠し指の間からこちらを覗くメルティが語りかける。


「……私に…………そのっ……そういう呪いかけました……?」

「……そういう、とは?」


 何となく話の流れで理解はしていたが、タリアは聞き返す。


「……うぅ、ごめんなさい、何でもないです……っ!。あ〜〜も〜〜全部忘れてくださいぃ……ッ!!」


 地面にうずくまってどんどん小さくなっていくメルティ。

 そしてそのまま動かなくなった。


「め、メルティ?」

「……私は石になります」

「こ、これは重症ですわね…………ほら、行きますわよメルティ。ほら、立って! ああもう、大衆の視線が……っ! こん……のおおッ!! くうぅ、これ全然動きませんわッ!」


 タリアはそれを引き剥がそうと試みるが、まるでカタツムリのように地面にくっついてなかなか剥がれなかった。


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