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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
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015 イズン観光

【前回のあらすじ】

・状況を整理するタリアとシャロン。

・呪いの力とは言え前回やらかしたことにガチ凹みするメルティ。

・とりあえず飯行こ、飯!


「メルティ、この国は何か食べ物で特産物とかあるんですの?」

「……」

「メルティ?」

「えっ、あっ、はい!? なんでしょ!?」


 白い大きなつばのついた帽子を深く被ったメルティは、少し帽子を傾かせタリアに視線を向ける。

 帽子の合間から見える顔はどこか赤らんでいて、わなわなと震えている。


「少し外にでるだけですわ。それに今は真っ昼間昼間。そんなに怯えなくても大丈夫ですわ」

「そ、そうなんですけどぉ……わっ……」


 タリアはメルティの手を取り、人通りの多い商店が並ぶ道を進んでいく。


(そうなんだけど……そうじゃなくてぇ……)


 どちらかと言えばメルティの緊張の原因は他の部分にあった。

 メルティが今身についている衣服は下着以外全てタリアのものだ。

 昨日は荷物も持たずに家を出たメルティ。

 そのままタリアが泊まっている宿で一晩を過ごしたため、着替えの服などもちろん持ってはいなかった。

 そこでタリアの衣服を借りることになったわけだが、呪いの力の影響とはいえ好きと言ってしまった人の衣服を自分で着る。

 これには相当な勇気が必要だった。

 自分は着替えなくても大丈夫と、何度か主張したが結局シャロンに捕まり無理やり着替えさせられてしまった。


(うぅ……この服着て外歩くの緊張する……)


 着せられたのは薄いオレンジ色を基調としたドレスのようなワンピース。

 決して露出度が高いわけではないが、普段あまり着ることのないタイプの衣服。

 普段の服装であれば露出することのない胸元や肩周りが外気に触れて、なんだか恥ずかしさを感じてしまう。


(なんか……体スースーする。服から……不思議な匂いもするし……これタリアさんの匂い、かな……? って、もー何考えてるの私! なんか変態みたいになってる!!)


 考えれば考えるほど泥沼に浸かり、顔がどんどん熱くなっていく。


(しかもタリアさん全然手離してくれないし! さっきからなんか手汗すごいし……もうやだぁ……)


 緊張を通り越して、もうメルティは泣き出してしまいそうだった。


「このお店にしましょうか。ね、いいでしょうメルティ?」

「え、あ、はい!」


 店を見ないままメルティは焦って返事をする。

 タリアが指差したのは一軒のパン屋。

 お昼時だからか、店舗前で店員が作ったサンドイッチ直接客に手渡す姿が見えた。


「この、えーっと、イズンスペシャルサンド? 何がスペシャルか分かりませんが2つお願いしますわ」

「あいよー、少々お待ちくださいなー」


 愛想の良い店員がパンを切り、手際よくレタスやタマゴなどの具材を詰め込んでいく。


「はい、出来上がり! お嬢ちゃんたち姉妹かい?」

「ひぇあッ!? いや、その違います! 全然違います!」


 なぜかメルティは焦って否定する。


「へぇ、二人とも随分整った顔立ちだし、ずっと手繋いでるからそうなのかと思ったよ。でも姉妹でないとなるとそれはそれで……」

「あー! あー! 違うんです! 違うんですぅ……ッ!」


 隣を見ると口を隠して笑うタリアの顔が見えて、メルティは綺麗だなと思うのと同時に無性に腹が立った。



 ***



「ふふっ、焦った顔のメルティ。すごく可愛かったですわ」

「……ひどい」


 二人分のサンドイッチを購入し、近場のベンチが置かれた公園に来たところでタリアはようやく手を離してくれた。


「流石に食べるときまで手を繋いでいては食べにくいですものね。それとも私が食べさせてあげ——」

「いいですからそういうのッ!」


 クスクスと笑うタリアの姿は品があって素敵に見えたが、メルティはまるで子供扱いされているようでムスッとする。


「ごめんなさい、ちょっとでも元気を与えられたらって思ったんですわ。迷惑……でした?」

「あ…………っ。いえ、その……ほんと、タリアさんには感謝してて……何から何までありがとうございます」


 謝ってしまわれたら、もう返す言葉はなくなってしまう。


(……タリアさんはずるい)


 タリアの気遣いに頬を膨らましていた自分が、余計に子供らしく見えてきて嫌になる。


「あの言葉は気にする必要ありませんわ」

「……え?」


 周りの騒音や風の音が全て聞こえなくなって、タリアのその言葉だけが頭の中に響く。


「正直者のネックレス。そのネックレスの効果が出ているときに言った言葉は、全て嘘偽りない心の内側から出た言葉。そうは思っていませんか?」

「え、違うんですか……?」

「それについては本当ですが、人の心とはコロコロ変わるものですわ。あのときはメルティのピンチに私が颯爽と現れて助けてあげましたからね。きっと私がヒーローに見えたんでしょう。命の危険を助けられたら誰だって、その瞬間はその人のことを好きになっちゃうものですわ」

「誰……だって……?」

「ええ、キ、キス…………の一つや二つしたくだってなる…………ん、じゃないかしら?」


 『キス』という言葉で何かを思い出したのか、タリアは口元を手で覆い、頬が少し赤く染まる。


「そっか…………誰でも……そうなんだ…………なんか、それ……」


(……やだな)


 口にはできない思いを、心の中で呟く。

 それが何に対しての言葉なのか、メルティもよく分かっていない。

 ただ彼女の口からそう言われてしまったことで、自分とタリアの距離が一気に遠くなってしまったような、そんな気がしてメルティは表情を曇らせる。


「それにしても、このサンドイッチ美味しいですわね。ソースに絡んだチキンとたまごの組み合わせが絶妙ですわ!」

「あ、それ多分イズンチキンですね。この国の鶏は卵も肉も美味しいって有名なんです」

「へぇ、良い餌を貰って育てられているのかしら」

「はい、イズン第四島に大きな農業研究区があってですね。そこでどんな餌を使って、どんな環境で育てたら美味しくなるのか、日々研究されているんですよ!」

「そんな研究が……やはり魔術の総本山。農業に対しても研究熱心なのですわね」


 メルティは自慢するように語る。

 別にその研究にメルティが関わっているわけではないのだが、自国の料理が美味しいと言われると、なんだか誇らしくなって自慢の一つもしたくなる。

 曇っていた顔色がまた明るくなっていく。


「それとイズン第四島には大きな農場があって、可愛い動物と触れ合うこともできるんです。懐かしいなぁ、初等部の頃は毎日行ってた気がします」

「気になりますけど、私はこの国の者じゃないのでイズンの地平区域までしか入場許可が出ませんの。残念ですわ」

「そっか…………あっ、でも私第二島までの入場許可証持ってます! 確か一人までなら同伴者が認められるはずです!」


 そう言ってメルティは顔を寄せ、瞳を輝かせる。

 「一緒に行きましょう!」と声にはしてないが瞳で語ってくる。


(お、おぉう………ここにきて急にグイグイ来ますわね……)


 タリアは無意識にメルティからほんの少し距離を取る。


(……でも折角元気になってきたんですものね。付き合ってあげましょうか)


「分かりましたわ。連れてってくれるかしら?」

「やった! 飛行魔法で行くのもありですが、同伴者を連れてる場合は飛行船できちんと許可証を見せなくちゃですね。ああー、ふれあいコーナーのおじさんまだ元気してるかなぁ」


 そういえばこんなに目を輝かせた彼女は初めて見たかもしれない、とタリアは思う。


(やはり、彼女には笑顔が似合いますわね)


 そんな彼女の笑顔を見て、タリアもつい口元が緩む。

 今は、今だけは、彼女の辛い思いを見えないところに仕舞って置けたらと、そうタリアは思った。



 ***



 イズン第四島へと向かったメルティとタリアは、農業区域やメルティの母校を見学し、気づけば景色が茜色に染まる夕刻の時間になっていた。

 帰りの飛行船の中で、二人は外の景色を眺める。


「はぁ〜、疲れましたわ」

「今日はありがとうございました。色々と、私に付き合っていただいて」

「構いませんわ。それと今日は土の曜、明日も学院は休み……でしたっけ?」

「はい、そうですね」

「じゃあ今日はもう宿に帰ってゆっくりしましょう」

「……」


 窓際の席に座るメルティはずっと外の景色を眺めていて、返事がない。

 疲れてうとうとしているのだろうか。

 そうタリアが思った瞬間、ぼそりと呟くような声でメルティが言う。


「……最後に一つだけ行きたい場所があるんです」


 よく耳を澄ましていなければ聞こえない程の小さな声。

 聞こえていないのならばそれでもいい。

 そう思って呟いた小さな声。


「……ん? どこです?」


 タリアはその声をしっかりと聞き届けた。

 振り向き、メルティはタリアの瞳をまっすぐに見つめる。


「私の……家に帰りたいんです……っ! 一緒に……来てくれませんか?」


 少しだけ、声が震えていた。

 あの惨事が起きた場所にもう一度戻る。

 それは簡単には言い出せない言葉だっただろう。


「ええ、行きましょう」


 タリアはその言葉に笑顔で返す。

 そしてメルティの手を包み込むように優しく握った。


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