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愚民たる私が成り上がるには呪いの装備に頼るしかない  作者: コロンド
第2章 呪いを持って呪いを制す
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014 一夜明けて

【前回のあらすじ】

・呪いの力に手を出したのに追い詰められるメルティ。

・颯爽と駆けつけたタリアが事態を収拾。

・そして二人は幸せなキスをして1章終了。2章始まるよ!


「さて、状況を整理しましょうか」


 襲撃から一夜過ぎ、時刻は窓から暖かい日差しが差すお昼前。

 宿屋の一室でタリアは語り始める。


「まずはシャロン、偵察の報告を」

「はい、朝方からグレイルと共に近辺の調査をして来ました」


 隣で返事をするシャロンはいつもの軽い口調ではなく、堅苦しい仕事モードの口調で語る。


「まずはアルメリア家の周辺調査から。アルメリア家にあったと言われる立方体の死体はやはり確認できませんでした。死臭や血痕なども一切確認できず、グレイルの鼻を持っても追跡は不可能でした」

「隠匿するのに相当な力を持つ魔術師が動いた可能性がありますわね」

「あるいはあるじとメルティさんが見たものが幻覚だっという可能性も」

「……むしろそうであった方が彼女的には報われるのですが…………まぁ、それも一つの可能性として考慮しておきましょう」


 パンと手を叩き、タリアは話を次に進めるよう促す。


「次にアルメリア家周辺情報について。周囲の住民からアルメリア家夫妻の連行に関わる情報は入手できませんでした。みな『そういえば昨日から姿を見ていない』くらいの認識でした」

「日中に連行されたのなら、目撃者が一人くらいはいても良さそうなのですが……」

「ただ……」

「ただ?」

「アルメリア夫妻の私物からグレイルに匂いを辿ってもらい、彼らが今どこにいるかのおおよその場所は検討できています」

「それ最初に話すべき最重要案件ですわ! で、場所は?」

「匂いは浮遊島への移送船停泊所まで続いていました。さらに言えば、イズン第一島へ向かう船に乗せられた可能性が一番高いです」

「イズン第一島……島全体の管轄を魔術協会本部が所持していて、島に入るのも許可証がいるんでしたよね。下手な牢獄よりも面倒な場所に連れて行かれましたわね……」


 ここ、浮遊国家イズンでは魔術の認知度こそ日常的に知れ渡ったものとなっているが、呪いの認知度に関しては乏しい。

 それどころか呪いの存在を認めず、インチキ扱いされることの方が多い。

 その状況を逆手に取って、タリアの持つ呪物を使い何とかメルティの両親を救い出せないかと頭を捻るが、なかなか良いアイデアは浮かばない。


「次に、昨夜の事件に対する周囲の認知について。基本的にレオさんの死はなかったこととして扱われています。ゆえにメルティさんに対する搜索、指名手配の準備なども行われていないようでした。昨夜の襲撃に関しても同じです。全てなかったことになっているようです」

「逆に気味が悪いですわね。主導している人間は……イルダと言いましたっけ? 家柄的にも相当社会に横槍を入れる力を持っているようですわね」

「偵察でわかった情報は以上となります」

「キャンキャン!」


 グレイルの頭と顎を撫でながら、シャロンは頭を下げる。


「……とりあえずは、メルティの学友のイルダ……さん、でしたっけ? 彼女が、あるいは彼女の家系が情報を操作している、と考えて間違いなさそうですわね。理由はまだよくわかりませんが、もしかしたら公になったら困る情報がいくつかあるのかもしれませんわ」


 シャロンが小さく頷く。

 彼女の想定もタリアの意見と大きく離れてはいないようだ。


「それに彼女は伝言で、学校でまた会いましょうと言っていましたわね。今ここでメルティをどうこうするつもりはない、と言っているようにも取れますわ」

「あまりその言葉を信用するのはどうかと」

「ええ、だから基本的にしばらくの間はメルティに私が付き添いますわ。それで問題ないでしょう?」


 タリアは自信に溢れた顔で微笑む。

 この部屋が襲撃されたとき、もしタリアが部屋に残っていたら……もっと穏便に事態を解決できたかもしれない。

 そんな思いが、悔しさとともにシャロンの心に渦巻く。


「ええ、まあ……私はそれで構いませんが……彼女はどう思うでしょう?」


 言ってシャロンは室内のクローゼットに目を向ける。

 クローゼットの中からゴソッと、何かが蠢く音が聞こえた。


「ちょっと様子見てきてくれます?」

「……はい」


 小声で頼めれたシャロンは立ち上がり、クローゼットをゆっくり開ける。

 中には小さく縮こまったメルティが入っていた。


「あ……あぁ……やってしまったぁ……出会ってすぐの人に……す、す、好きって言っちゃ……しかもキ、キスまで…………うあぁ……痴女だ、変態だ……絶対変なやつだって思われた……もう死にたい……」


 そっとクローゼットを閉めて、シャロンは元の位置に戻る。


「ダメです、出会う前よりネガティブになってます」


 タリアはおろおろと視線を泳がせた後、戻ってきたシャロンに小声で問いかける。


「ど、どうするのがベストでしょうか?」

「どうって?」

「いや、その……メルティが元の元気な姿に戻るには……」

「ちゃんと返事したら良いじゃないですか。好きとか嫌いとか……」

「なっ!? 相手は学生で女の子なんですわよっ」

「ゆーて、あるじだって彼氏もいなけりゃ彼女もいないんでしょ? あるじが誰かから好意を持たれるところなんて初めて見ましたよ。どうせこの先あるじのことを好きになってくれる人なんて一人もいないんだから、OKしちゃえば良いじゃないですか」

「言・い・過・ぎ・で・す・わッ!!」


 怒りのあまりタリアはシャロンの頬を指でグリグリする。


「い、いだい…………で、あるじの本心はどうなんです?」

「本心……?」

「結局一番重要なのそれでしょ。メルティちゃんに好きって言われて、チューされて、どう思ったんです?」

「そ、それは……そりゃあ嫌な気はしませんでしたけど……そんな、まだ出会ってすぐですし……そんな急には……」

「ははっ、あるじ顔真っ赤。乙女かよ」


 ペチン。

 シャロンは軽くタリアの肩を叩く。


「乙女ですわよッ!!」


 バチンッ!

 タリアはスナップを利かせてシャロンの肩を叩く。


「痛い……」

「と、とにかくいつまでもこのままじゃ埒があきませんわ!」


 タリアは大股でクローゼットの前まで歩き、勢いよくクローゼットを開ける。

 中には目元を真っ赤にして、こちらを見つめるメルティがいた。


「あ……っ」

「め、メルティ……あの、その……」


 強気で立ち上がったものの、彼女を前に言葉が出なくなったタリアは口をもごもごと動かす。


「お、お腹すいたでしょう? なにか食べに行きません?」


 結果、出てきた言葉がそれだった。


「……うん」


 目をこすりながらそう返事をする。

 メルティも、それ以上の言葉は出てこなかった。



 ***



「以上、メルティ・アルメリアとの接触時の報告です」


 学院の一室。

 一部の優秀な生徒しか入場を許されないその部屋で、赤髪の少女は膝をつき、これまでの経緯を目の前に立つ彼女に告げた。


「随分と危険な目にあったようね、ご苦労様キーラ」


 キーラ。

 それが彼女の名前。


 そしてそれを口にするのは、彼女にメルティを襲うよう命令を下した人物。

 イルダだった。


「呪いの力……にわかには信じられませんが、見てしまった以上は認めるしかありません。一度彼女から奪ったネックレス、魔具の類かと思いましたがそれ本体に一切の魔力は感じられず……魔力とは全く違う別の力で動いているとしか考えられない代物でした」

「なるほどね、それで彼女は呪いに支配されている時だけ本来の魔力を扱える……と」


 イルダはまるで全てを最初から知っていたかのように、彼女の報告を聞く。


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「イルダさんは彼女、メルティ・アルメリアをどうするつもりなのでしょう」


 しばしの静寂。

 イルダは自分の髪をくるくるといじり、返す言葉を考えているようだった。


「う〜ん、内緒です」


 そして出てきた言葉がそれだった。


「でも、家系も努力も関係なしに急に最強の魔力を持った子が急に出てきてしまったら、皆が努力して魔術を学ぼうとするのがバカらしくなってしまうではありませんか。その気持ちは私も同じですよ」

「そう……ですね」


 イルダの言葉はもっともらしく聞こえるが、どことなくその言葉が彼女の本心ではないことにキーラは気づく。


「まぁ、もっと踏み入ったことを言うと……好きなんです。彼女のことが」

「……ん、んんッ?」


 その返答の意味が分からずキーラは困惑する。


「ほら、メルティさんって顔も性格も、踏みにじりたくなるタイプじゃないですか。そういうところ大好きなんですよ」

「……は、はぁ……」


 にこりと笑いそう言うイルダに対し、キーラはただ愛想笑いを浮かべることしかできなかった。

 ただただこの人を敵に回してはいけないと、そう思う限りであった。


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