013 だってそれが本心だから
【前回のあらすじ】
・次々に割られていく仮面の男たちの頭蓋!
・だが不覚を取って動けなくなったシャロンは、フードを被った仮面の者の手により消滅してしまう。
・メルティは斧を手に取り、殺意をむき出しにして立ち向かう。
「バァーン!」
振り下ろされる斧を、仮面の者は軽やかに回避する。
空を切った斧はそのまま石畳の地面を抉り、地面に大きな亀裂が入る。
「単純な強化魔法……か? にしても、一振りで人を真っ二つに切断し、石畳の地面を抉るとは……いくら防御魔法を重ねても、あれは死ぬな」
「……ッんのぉッ!! バァーン!!」
メルティは再び斧を振り下ろすが、結果は同じ。
仮面の者はメルティの動きを分析しながら、攻撃を回避する。
「そろそろ止めないと危ないね、——《ヒシン》!」
仮面の者は指先で銃の形を作り、それをメルティに向ける。
魔術の詠唱と同時に指先から魔力でできた針を放つ。
「《クウヘキ》」
だがその針はメルティの体に触れる直前でパリンと砕ける。
まるで見えない壁に阻まれたかのように。
「へぇ、そういうこともできるんだ。——ッ!?」
余裕を見せていた仮面の者の体が強張る。
メルティが斧を持っていない方の手をこちらに向け、呟くように口を動かしている。
その瞳から明確な殺意を感じ、仮面の者はすぐさま後方に飛び退く。
「《カゴメ》」
メルティがそう唱えると、ズンと大きな音が響く。
ちょうど仮面の者がさっきまで立っていた位置の床が、綺麗な四角形に切り取られていた。
そしてその中心に、ゴトンとサイコロのような石が落ちる。
「は、ははは。凄まじい圧縮魔法だね……」
眼前の光景に仮面の者は乾いた笑いを上げる。
もしも少しでも反応が遅れていたら、確実に自分もあのサイコロのようになっていただろう。
「そっかそっか、そうやって…………レオも殺したんだね」
「——ッ!?」
メルティの動きが止まる。
殺意一色だったメルティの意識に焦りが混じる。
「ち、ちがッ! あれはッ!」
「珍しい魔法だからね、あんな圧縮魔法を放てる人間はこの国でもかなり限られているよ」
「違う、違うっ! うあぁああああッ!!」
動揺を抱えたまま、メルティは斧を振り上げる。
だが仮面の者はその攻撃を避けようとしない。
そしてメルティが斧を振り下ろそうとしたその瞬間、ポケットからあるものを取り出し、メルティに見せつける。
「——なッ!?」
仮面の者が掲げたもの。
それは正直者のネックレスだった。
あたかもそれで、斧の一撃を受け止めるかのような態勢で構えていた。
メルティの手が止まる。
この状況で斧を振り下ろすことなどできるはずもない。
仮面の者はその一瞬の隙を見逃さない。
「今ッ、《ヒシン》!」
先ほどと同じ、麻痺効果のある針を飛ばす魔法。
「しまッ——ぐッ!?」
それがメルティの胸に直撃する。
全身から力が抜け、体が痙攣し始める。
そしてその場に膝から崩れ落ちる。
「ほんの一瞬の心の隙が、敗因になったね」
「そん……な……がうっ!?」
仮面の者はメルティの腹部に足をめり込ませ蹴り飛ばす。
痙攣した体では斧をまともに持つことさえできず、カランカランと音を立てて斧が転がっていく。
「がッ……はっ、あっ……」
魔針による痙攣と腹部を蹴られた衝撃でメルティは過呼吸状態になる。
(から、だ……動い、て……このまま、じゃ……)
このままではシャロンと同じように……
いくら強い意思を持って立ち向かったところで、結果が変わることはなかった。
呪いの力に頼れば自分だって強い魔法が使えるはず、強敵にだって勝てるはず。
そんなメルティの希望が崩れていく。
「うご……いて……こんなところ……で……」
「悪いけど、ここで終わりだよ。じゃあね」
倒れるメルティの首に、仮面の者の手が迫る。
(ああ、ここで終わりか……私にしては頑張ったと思うんだけどなぁ……)
首が締まる。
(……苦、しい…………やっぱ死ぬのかな……私……)
呼吸ができなくなる。
(……嫌、だなぁ…………こんな中途半端なところで……)
痙攣したままの体では、まともな抵抗すらできない。
(……何のための抵抗だったんだろう、何のために助けてもらったんだろう……ねぇ、私……まだ終わりたく……ないよッ!)
視界が霞む。
「た……しゃ……ッ!」
「ん? 何か言った?」
この視界が真っ黒になったら、もう二度とその瞳に光は映らないだろう。
「たり、あ……さんッ!!」
だから叫ぶ。
この世界でたった一人、メルティの味方になってくれた人の名前を。
「ガウッ!!」
(……え?)
消えかけていたメルティの意識に犬のような鳴き声が響いた。
「なっ、何だコイツッ!?」
焦る仮面の者の声が聞こえ、同時に首を締め付けていた手が離れる。
「かはッ、はひっ……何が?」
まだ状況を掴めていないメルティ。
目の前には灰色の短い毛並みの犬が、仮面の者の腕に噛み付いていた。
「霊犬グレイル。厳しく躾けられたその犬は、戦地で亡くなった主人の死を知らず、また認めようとしない。グレイルは死の間際までずっと、主人が次の命令をくれるのを待ち続けていた。その思いは首輪に呪いとして残り、今なお主人の命令を待ち続けている。ま、簡単に説明するとシャロンと同じタイプの呪物ですわ」
背後から聞こえる、少し鼻につくその口調。
だけど、その声が聞こえただけで、凍てつきそうだったメルティの心が溶かされていく。
「タリア……さぁん……」
タリアはメルティに視線を合わせ、軽く微笑む。
「あとは私にお任せですわ」
そう言ってタリアはメルティの前に立つ。
「グレイルッ!」
「ガウゥッ!」
タリアの声に呼応してグレイルがタリアの側に帰ってくる。
その口には二つの物が咥えられていた。
一つは正直者のネックレス。
そしてもう一つは、奴がつけていた仮面。
「あらあら、結構可愛い顔をしてますのね」
「あーあー、見られちゃいましたか……」
半ば諦めたような口調で仮面の者、もとい赤髪の少女は言う。
血のような色の髪と、それと同じ色の瞳がタリアは睨む。
その顔にメルティはどこか見覚えがあるような気がしたが、今はまだ思い出せない。
「見た目通りの年齢でしたら、魔術が使える以上学院の生徒で間違いなさそうですわね。何で生徒がこんなことを?」
「さー、なんででしょうね」
顔を見られてもなお、彼女は焦りを見せず威勢を崩さない。
「あら、まだ続けるんですの? 呪術の里、オシュタントの大呪術師である私に喧嘩を売るつもりですか?」
「呪術……なるほど、よく分からない術や道具を使うと思ったらそう言うわけね」
(大呪術師……やっぱりタリアさんってすごい人だったんだ)
もちろんタリアにそんな役職はなく、ただのハッタリだが少なくともメルティと赤髪の少女はそれを疑わない。
「ふっ……こーさんこーさん。今日はこの辺でおいとまさせていただくよ」
そう言って赤髪の少女と後ろで待機していた仮面の男たちはジリジリと後退していく。
きっとそのままメルティたちの視界から消えていく。
そう思った瞬間、彼女が顔をニヤつかせて言葉を紡ぐ。
「ああそうそう、メルティ。イルダさんからあんた宛に伝言貰ってたんだ」
「えっ?」
——イルダ。
急に出てきたその名前に、メルティは体がビクンと反応する。
「『また学校で会いましょうね』だってさ」
そう告げると、彼女たちの足元からたちまち煙が立ち込める。
おそらくは魔術による煙幕。
彼女たちの体が煙に包まれ見えなくなるが、メルティたちが彼女を追う理由はない。
煙幕が晴れ、あたりに静けさが戻るまでメルティとタリアはジッとその場を動かず周囲を警戒し続ける。
そして完全に静けさが戻ると、二人は視線を合わせ肩の力を抜いた。
「一人にしてしまってごめんなさいね、メルティ」
「タリアさん……タリアさぁん……ッ!!」
メルティは泣きながら、タリアに抱きつく。
「やっぱり、あなたの前から離れるのは間違いでしたわね。ただ、あなたの髪と血がこんな形で役に立つとは思いませんでしたわ」
「……え?」
まだその言葉の意味を理解できていないメルティの横で、先ほどメルティを助けた犬が静かに座って尻尾を振っていた。
「あ、わんこちゃん……」
「彼はグレイル。犬の嗅覚は人間の何倍も優れていると言うでしょう? 宿屋に戻ったらメルティがいなかったから、あなたの髪と血の匂いを辿ってここまで来たんですわ」
「そう、だったんですね。グレイルちゃん、助けてくれてありがとうございました」
メルティがグレイルの頭を撫でると、グレイルは気持ち良さそうに首を動かす。
「そう言えばシャロンの姿が見えませんが……」
「……あ、そうだッ! シャロンさんが、シャロンさんが私を守るためにッ!」
「どうどう、焦らない焦らない」
焦るメルティをタリアはなだめる。
そして地面に彼女の首輪が落ちていることに気づき、それに近づき拾い上げる。
「来なさいシャロン」
そう言ってタリアは首輪に魔力を込める。
すると淡い光を放ちながら、給仕服の彼女が姿を現す。
「あ、あるじ、おはようございます」
そして目の前に自分の主人がいることに気づくや否や、素っ気なくそう答える。
「しゃ、シャロンさぁんッ!」
なんともないかのようにそこに立つシャロンに、メルティは歓喜の声を上げながら抱きつく。
「お、おぉう……メルティちゃん。大丈夫? 怪我はなかった?」
「私、てっきりシャロンさん死んじゃったのかと……ッ!」
「いやもうとっくに死んで呪いになってるよ。もともと私は幽霊みたいなもんです。体を失ってもまた魔力を注いでもらえれば復活しちゃうんです」
胸元で泣きつくメルティの頭をシャロンは優しく撫でる。
「私こそごめんなさい。斧を持ったとき、メルティちゃんに怖い思いさせちゃったよね。本当にごめんなさい」
「なるほど、頭蓋割りの斧。持ち出したのはシャロンでしたのね」
タリアは地面に転がっていた斧を、直接触れぬよう布で挟んで掴み上げる。
「あるじ、ごめんな——いえ、申し訳ありませんでしたご主人様。緊急だったもので、手近にある戦えそうな武器がそれしかなく、自分の勝手な判断で持ち出しました。いかなる罰も処遇も受け止めます」
シャロンは口調を変え、地面に膝を置き頭を下げる。
普段は口の柔らかいシャロンも、今回ばかりは誠意を持って謝らなければならないと思ったのだろう。
姿勢も口調もまるで本物の従者のような、板に付いたものだった。
「そう言うの気持ち悪いからいいですわ。結果的に時間稼ぎにはなって私も追いつくことができたことですしね。やり方としては強引なところがありますが…………それでもメルティを守ってくれたこと、感謝しますわ。ありがとう、シャロン」
「わ、私もッ! シャロンさん、助けてくれてありがとうございました!」
タリアは口だけで感謝を伝え、対してメルティはペコペコと頭を何度も頭を下げる。
「うへー、人から感謝される経験無いから照れる〜」
シャロンは本当にそう思っているのかよく分からない、棒読み口調で言葉を返す。
それでも丁寧口調で返事をされるより、そっちの方がずっとシャロンらしいと感じて、メルティは頬を緩ませる。
「そうそう、メルティ。これはあなたのなんだから、無くしちゃダメですわよ。つけてあげますわね」
「あっ……」
そう言ってタリアはメルティの背後にまわり、彼女の首に正直者のネックレスをつける。
首回りを触れられる感覚がなんだか恥ずかしくて、メルティは何も言えずに黙り込む。
「あ、ありがとうございます。ほんと、何から何まで……」
「いいんですわ。こっちが好きでやってるんだから」
「好き、で……」
なぜかメルティはその言葉に反応して、俯いたままゆらゆらと体を揺らす。
「ん、メルティ?」
「触れとる触れとる」
「えっ……触れ? ……あっ」
メルティの様子がおかしいことに気づくタリア。
そしてシャロンがメルティの胸のあたりを指差す。
ネックレスに付いた宝石、それをメルティは指で掴んでいた。
呪いが発動する条件が揃う。
「あの……私……わた、し……好き……」
「……へ?」
メルティが、ぐいと前のめりになるような態勢でタリアに顔を近づける。
鼻と鼻とぶつかりそうな距離感。
メルティの顔は高熱でも出したかのように真っ赤に火照上がり、その赤みはタリアの顔にも伝染していく。
「タリアさん…………好き……」
「はぇッ!?」
「なんと」
「ガウッ」
驚愕するタリアと、その後ろにいるものたち。
そしてそのままメルティはさらに彼女に顔を近づけ——。
「んっ」
「んん——ッ!?」
唇が、重なる。
「……は、はえー。チューしとる」
「キャンキャンッ!」
口の中に広がる、甘い香り。
タリアはピンと体を硬直させ、メルティがその体を離してくれるまで動くことができなかった。
とりあえず物語の1章に当たる部分はここで終わりです。
途中で投げ出さないかちょっと心配でしたが、何とかここまで書けました。
少しでも面白いと思ってくれたら、感想、ブクマ、評価等入れてくれると嬉しいです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
あ、あとこの回は大人向けのifルートがあります。
例によって18才以上の人だけみてね(´・ω・`)
https://novel18.syosetu.com/n3228fm/




