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012 頭蓋割り祭り

【前回のあらすじ】

・謎の仮面たちから襲撃されるメルティとシャロン。

・シャロンの身体能力で逃走するが追い込まれる。

・追い詰められたシャロンは呪いの斧を持って彼らに立ち向かう!


 ——呪いだ。

 メルティはすぐさま理解した。

 あのシャロンが持つ斧にはなんらかの呪いが込められている。

 彼女の狂気に満ちた瞳を見つめられ、メルティはその場から動けなくなる。


「メルティちゃんって、こう……小顔で、髪の毛が綺麗で……なーんかなでなでしたくなるような……ついでにかち割って見たくなるような、そんな頭蓋骨してるよねぇ」

「ひっ……!?」


 メルティは尻餅をつき、後ずさる。

 怯えて足が震えるメルティに、シャロンは少しづつ距離を詰めていく。

 斧を両手に持ち、微笑む彼女はもはや恐怖の対象でしかない。


「や、こ、来ないで……っ!」


 言ってもシャロンは止まらない。

 呪いに支配された者に声は届かない。

 それはメルティもよく知っていた。


「うおぉおおおおッ!!」


 そんな時、敵に背を向けるシャロンを好機と見たのか、背後から仮面の男の一人が襲いかかる。


「シャロンさん後ろッ!」

「チッ」


 ガキィン、と鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。


「な……ッ!?」


 仮面の男が絶句する。

 シャロンは敵の方を見ずに、腕の動きだけでその攻撃を受け止めていた。


「お・ま・え・もッ!」


 シャロンは振り返り、まるで怒り狂う獣のような瞳で斬りかかってきた男を睨む。

 そして相手の剣を振り払うと、天高く斧を振り上げる。


「バァーン!!」

「ア……ギャ……」


 そしてまた、頭蓋を割れ、脳が飛び散る。


「んんんんッ!! 気持ちーーーーィ!!」


 ぬちゃり、という音を上げながら斧を引く抜くと同時に、シャロンは歓喜に飛び上がる。


「やっぱ人の頭って斧で破られるためにこういう形をしているんだなって、私思うんだ。みんなもそう思うよね!」


 シャロンは無邪気に仮面の男たちに語りかけるが、返事をする者は誰もいない。

 顔は仮面で隠れていても、みな動揺しているのが見て取れた。


「ふふっ、返事してくれない子には〜〜、お仕置きだー!!」


 シャロンが仮面の男たち向けて、一気に距離を詰める。

 男たちは慌てて臨戦体勢を取る。

 そんな中、一人恐怖からか構えるのが遅れた男をシャロンは見逃さない。

 その男に向かって斧を振り下ろす。


「バァーン!!」


 割れる。

 飛び散る。

 

 男の断末魔が響く中、シャロンのすぐ右横にいた男がシャロンの腹部をナイフで狙う。

 斧はまだ頭を砕かれた男の頭部突き刺さったまま。

 タイミングとしては完璧だった。


「——なにッ!?」


 だがシャロンは空いている手で、ナイフを突き刺そうとする男の腕を掴む。

 男が困惑し、気づいた時には斧が自分の目前にまで迫っていた。


「もーいっちょ、バァーン!!」


 一瞬にして、二人の男の頭部が割れる。

 残った男たちはこれ以上の追撃はせず、一度シャロンから距離を取った。

 作戦的な行動と言うよりは、本能に従った行動だった。


「——《ヒシン》」


 そんな時、どこかから少年のような声が聞こえた。

 小さく呟くような、魔術を唱える声。


「んぐっ!?」


 背筋に強い痛みを感じ、シャロンの体がびくんと跳ねる。


「く、そが……」


 同時に彼女の体が痙攣しだす。


(あれは……魔針……?)


 魔術でできた、麻痺毒などの効果を持つ針。

 遠目からその光景を見ていたメルティは、何者かがシャロンにその針を吹き矢のように突き刺したのだと理解する。


(一体、誰が……?)


 そう思った直後、足を崩したシャロンの前に一つの影が降り立つ。


(……ッ!? あいつはッ!)


 フードのついた黒いコートに、仮面をつけたその姿。

 一番最初にメルティの部屋に入り込んできた仮面の者で間違いない。

 周りの男たちと比べると、背は低く華奢な体で男か女かの判別もつかない。

 そしてどうやら他の男たちと違い魔術が使えるようだった。


 シャロンは体を痙攣させながらも斧を振り上げようとする。

 だが、斧を持った右手を仮面の者に踏みつけられる。


「ぐあ……ッ!」


 斧が手から離れ、それを仮面の者が蹴り飛ばす。

 その瞬間、狂気に満ちていたシャロンの表情が元に戻る。


「面倒なことをしてくれた」


 シャロンは我に帰ると同時、目の前にナイフが迫っていることに気づく。


「——んぐッ!? あぁあああああッ!!」

「シャロンさんッ!!」


 胸に突き刺さるナイフ。

 シャロンは痛みに悲鳴を上げ、それを見ていたメルティは叫ぶ。


「ん? 魔力の残滓? 不思議な体だな」


 その胸にナイフを突き刺した仮面の者は首をかしげる。

 シャロンの体からは血が出ず、代わりに白い煙のようなものが漏れ出していた。

 それは魔力の残滓と呼ばれるもので、魔力で作られた物体が消滅する時に出るものと同じものだった。


「でも、痛みは感じるみたいだ、なッ!」

「いああァアアアアーーーーッ!!」


 再び突き刺されるナイフ。

 仮面の者は何度も何度もシャロンの体にナイフを突き刺す。

 腕、首、腹部、頬。

 刺されるたびにシャロンは悲痛な叫び声を上げ、体中から魔力の残滓が漏れ出す。


 そんな凄惨な光景を前に、メルティはその場を動けずにいた。

 目も耳も塞いで、早くこの場から逃げ出したい。

 しかし金縛りにあったように、体が震えて動かなかった。


 そんな時、シャロンの視線とメルティの視線が重なる。

 苦痛の表情を見せる中、シャロンは口を動かし、メルティに言葉を伝える。

 

 に、げ、て。


 声こそ聞こえなかったが、メルティにはそう言っているように聞こえた。


「しぶといなぁ、いい加減————死ねよ」


 仮面の者がシャロンの胸に刺したナイフを腹部に向けて搔っ捌く。

 その瞬間、メルティを見つめていたシャロンの瞳から光が消えた。

 同時にシャロンの体が光に包まれ、そして——


 カラン。

 それは軽い金属が地面に落ちて転がる音。

 シャロンの体は消滅し、そこには奴隷の首輪だけが残っていた。


「あっ、ああ……ッ! うわぁああああああッ!!」


 気づけばメルティは涙を流しながら叫んでいた。

 それが怒りの感情なのか、悲しみの感情なのかはよく分からない。

 ただ、今まで動かなかったはずの足が勝手に動き始めていた。

 仮面の者に駆け寄りながら、途中に落ちていた斧を拾う。


 ——割りたい……人の頭を割りたい!


       ——割れる頭の音を聞きたい!

   ——ぐちゅりと崩れる脳の音を聞きたい!  ——恐怖に歪んだ弱者の顔が見たい!

          ——丸くて綺麗な頭を真っ二つに



「うるさぁああああああいッ!!」


 メルティは頭の中に入ってくる声を、その一声でかき消す。

 今お前に構ってる暇はない、とでも言わんばかりに。

 そして殺意の視線でフードを被った仮面の者を見つめ、一気に近づく。


 仮面の者は後ろに下がりメルティから距離を取ると、近くにいた男の一人の背を押しメルティの方へと押し付ける。


「えっ?」


 男は、何で自分がという焦りを抱えながら、正面を見るとそこにはすでに斧を振り上げている少女の姿が映った。


「ッッ!! バァーーーンッ!!」


 斧が振られる。

 頭が割れる。

 腹部が裂かれる。

 体が引き裂かれ、地面が抉れる。


 べちゃりと音を立てて、二つになった男の体が地面に崩れた。


「殺す」


 仮面の者を睨み、メルティは静かに呟く。

 この感情が呪いによるものなのか、あるいは自分の心の底から湧いたものなのか。

 もはやメルティ自身にも判別はつかない。


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