表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

剣と魔法がモノをいう世界、ミストレック。

ミストレックは巨大な平面地形に存在する、異形の世界だ。

広大な大陸には様々な種族と、いくつかの王国が点在し、残された未開の地にはまだまだ無数の魔物達が徘徊する。知力の乏しい食欲だけの輩と、人語を理解し人と交わりを持つ輩の2種族だ。

平面地形であるミストレックでは、世界の地盤は一枚の皿のごとく真っ平らで、何層にも重なって上下にと広がっており、移動は大陸ごとに維持管理されている転送ゲートが使われる。

また、水は涌き出るものではなく、天界地盤という最上階の地盤から各大陸の中央へ降り注ぐ長大な滝が唯一の水源であると言われていた。遥か古より、絶えることなく流れ落ち続ける大滝は、各地盤で幾筋もの河となり大陸中を駆け抜け、豊かな恵みを分け与える。やがて、大陸の果てで無数の滝となり飛沫に変わり、再び天界地盤へと還元するのだ。

世界を囲む魔法の大気は大陸の果てに行くほど厚くなり、外界とミストレックを阻む境界線となっている。

故に、異形大陸に生きるもの達にとって、この閉ざされた空間が全て。分厚い大気に包まれた平面世界、物語はそんな不思議な異形大陸ミストレックを舞台に始まる……。



中央大陸、南西部グストロング。

かの大滝が落ちる地の一つ、四大国の内の一つに位置する辺境。

このグストロング一帯は何かと争い事が絶えず、支配階級者が短期間に何度も代わるため、治安の面でかなりの悪影響が及び、無法地帯となりつつある危険な地域だ。

そんなグストロングの中央に存在するギミックタウンなどは、流れ者や無法者が多く流れ込み、怪しげな商売や闇取引横行する、暗黒街になりつつある。故に、高額賞金を掛けられた首持ちも自然と出入りするようになり、その首を目当てに街中へ乗り込んでくる稼ぎ手との間で起こる攻防戦は、近隣の地域住民や村をも巻き込んで日に日にその激しさを増しているのだった。


「……あぁっ!」


キイイインッ!!

かなり耳障りな金属音を発して、男の手中から離れた剣が虚空を滑り、遥か彼方の地面へ突き立った。

人相の悪い痩せぎすの男が、バランスを大きく後ろへ崩す。

「うあ…ったっ!」

強かに尻を地面へ叩き突き、痺れるような痛みに顔をしかめた男の前に歩みでる、小柄な人影が一つ。質の良い皮のコートにフードを目深にかぶったその人物は、体に不釣り合いなほどの大剣を手にした、年若い少年騎士のようだ。フードの内から覗く顎の線、さらさらとした栗色の髪、剣を握る細い腕が物語っている。


「君だよね?この近くの街を根城に、ここいらの村を襲って回ってるって言う悪党は……」

「う……」


男の鼻先に、鈍い光を放つ大剣の切っ先が向く。

その酷く武骨な黒羽の巨剣は、目の前に立つ細っこい少年の腕に対して、絶対数、釣り合いが取れていないという巨大なお品もの。今にもカクンッ!と、落ちるのではないか?そんな不安に苛まれ、余計に男の顔が歪む。

しかしその剣先は、男の低く上向いた鼻の…穴と穴の間に正確に合わされたままピクリとも動かない。この少年、見た目によらず結構な力持ちなのかもしれない。


「く…くそっ!」


男が助けを求めるように、素早く周囲に視線を巡らせる。

しかし、いつまでたっても期待する助けが現れない。当惑し始めた男の表情に気付き、少年騎士が、ああ、と小さく声を漏らす。


「ごめん!言うの忘れて今更なんだけど」


にこりと微笑んで、少年騎士が続ける。


「助けを待っても無駄だと思うんだよね。村の中に散らばってた下っ端さん達には、一足先に監獄島行きの馬車に乗ってもらったから」

「な…」

「ちなみにやったのは僕の連れ、白い髪のカクさん。女顔と野次られたものでつい…と、私はれっきとした女だ…て、これ、本人談ね」


カクという人物の声真似をしたらしいが、初対面の人間には分からない。天然か?コイツ…男は危機的場面でありながら呆れた。


「つまり、君が使えた下っ端さんは僕のもう一人の連れ、ほら、あそこで村のお姉さん達にチョッカイ出してる、黒髪のお兄さん。あのスケさんに倒された十五人だけだと思うけど…違う?」


笑いながら首をカクン、と傾げた少年騎士は、おもむろに剣から片手を離した。


「……っ!?」


剣が落ちる!!

滝のような汗をかきながら、小さく呻いた男の股間に………剣は落ちなかった。と言うか、ピクリとも動かない。

どんだけ腕力あんだよ、お前?少年騎士が指差ししながら倒れ伏した下っ端の数を確認する様子を、どこか虚ろな視線で男は見つめ続ける。だが、細っこい少年騎士が見せる並外れた筋力に呆気にとられていた男も、時間の経過とともに幾らかの落ち着きを取り戻したようだ。

ようやく、ハッと我に返る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ