76 元悪役令嬢、シスコン兄に報告する
「なるほど、ね」
目の前の兄は、じっと値踏みするような視線をメリアローズの傍らのウィレムに向けている。
少なくとも歓迎するような雰囲気ではない。
気圧されないように、ぎゅっと拳を握り締め、メリアローズは口を開いた。
「兄さま、以前おっしゃいましたよね。学園を卒業するころまでには、ある程度相手を選んで来いと」
「あぁ、言ったね」
「……私は、彼――ウィレムを、その相手に選びたいの」
マクスウェル邸の、執務室にて。
メリアローズとウィレムは、二人でメリアローズの兄であるアーネストに対峙している。
もちろん、ウィレムと思いが通じ合ったことについての報告だ。
いつもメリアローズに優しい兄ならば歓迎してくれるかと思ったが、彼はどこか冷ややかな視線をウィレムに注いでいる。
メリアローズはらしくもなく緊張してしまい、ごくりとつばを飲み込んだ。
「……今一度、君のことを教えてくれないか」
「失礼しました。ハーシェル伯爵家のウィレムと申します。メリアローズさんとは同じ学園に通っています」
「ハーシェル家……あぁ、君の兄君の評判は僕もよく聞くよ」
アーネストはくすりと笑うと、優雅に長い脚を組みなおした。
「それで……君はメリアローズのことをどう思ってる?」
率直な問いにメリアローズはどきりとしたが、ウィレムは動揺することもなく真摯に答えた。
「二人といない、素晴らしい女性です。心より慕い……愛しています。許されるのなら、一生傍でお護りしていくつもりです」
そのストレートな言葉に、メリアローズの顔は一瞬で真っ赤になった。
――あ、愛しているですって……? 一生傍で護るって……!!?
恋愛小説さながらの恥ずかしすぎる想いの吐露に、メリアローズは思わずその場でじたばたと暴れたくなってしまう。
だが、兄とウィレムの手前なんとか衝動を押さえ、アーネストに向き直った。
「兄さま、私はウィレムのことはよく知ってるわ。……彼は、他の人とは違うの。ちゃんと、私を見てくれる」
「…………そうか」
アーネストはふぅ、と大きく息を吐くと、にやりと口角を上げた。
「メリアローズ、それはお前がそう思ってるだけじゃないのかな?」
「えっ!?」
思わぬ言葉にメリアローズは面食らったが、ウィレムはアーネストの反応を予期していたかのように微動だにしていない。
「な、何を言っているのお兄様……ウィレムは――」
「メリアローズ、隣の彼がお前を誠実に愛しているとお前は信じきっているようだけど、正直僕は疑っている。他の者と同じように、お前を騙そうと近づくハイエナなのではないのかとね」
「お兄様!」
「……大丈夫です、メリアローズさん」
侮辱するような言葉に思わず頭がかっとなってしまったが、いきり立つメリアローズは当のウィレムに抑えられた。
「ひどいわ、お兄様!」
「いえ、アーネスト様のおっしゃることも当然です。でも……」
ウィレムは反論しようとするメリアローズを軽く制し、まっすぐにアーネストに向かい合った。
「信じてもらえないかもしれませんが、自分はメリアローズさんの家柄や地位に惹かれたわけではありません」
「ふぅん……じゃあ、どこに?」
「……すべて。彼女の全てを、愛しています」
その言葉を聞いた途端、メリアローズは思わず泣きそうになってしまった。
――ウィレムはいつも、私の欲しい言葉をくれる……。
彼は「マクスウェル公爵家の娘」ではなく、「メリアローズ自身」を見てくれる。
そんな相手を、メリアローズはずっと待っていたのかもしれない。
幼い頃から抱え続けていた孤独が、心の中の凍てついた部分が、少しずつ溶かされていくようだった。
だが真っ直ぐに言い切ったウィレムに返ってきたのは、アーネストの嘲るような冷笑だった。
「言葉だけならなんとでも言える。正直、メリアローズの相手として今の君じゃあ力不足だ」
その言葉に、ウィレムは唇を噛み、メリアローズはぎゅっと拳を握り締めた。
兄の言うことは正論だ。メリアローズの中の冷静な部分は、きちんとそう理解していた。
貴族の元に生まれた女性は、政略結婚の駒として重要な意味を持っている。
兄は自由に相手を選んでいいとは言っていたが、それはあくまでも「ある程度の基準を満たした」相手の中で、という意味だったのだろう。
ウィレムはハーシェル伯爵家の三男。財力や権力といった面では、ほぼ何もないに等しい。
メリアローズとて、王子の恋を成就させる計画の中で彼に近づかなければ、伯爵家の三男を結婚相手に……などとは考えもしなかった。
マクスウェル家の者からすれば、彼がメリアローズを誑かし、公爵家に取り入ろうとするヒモ男のように見えても仕方ないのかもしれない。
ぐっと押し黙った二人に、アーネストはやれやれと肩をすくめた。
「だからといって……頑なに反対して駆け落ちでもされたらそれこそ大問題だ。どうしたものかな」
もしもの時は……と兄の言う通りのことを考えていたメリアローズは慌てたが、ウィレムはしっかりと兄を見据えたまま口を開く。
「確かに、今の俺には何もありません。ですが……必ず、妹君にふさわしい男になってみせます」
「ほぉ……?」
アーネストは興味深そうに笑うと、再び優雅に足を組みなおした。
「……なら、証明してもらおうか」
「証明……?」
ドキドキと成り行きを見守るメリアローズの前で、アーネストはゆっくりと口を開いた。
「ハーシェル家は代々騎士の家系だそうだね。……次の王国祭での剣術大会での優勝。それが最低条件だ。もし優勝できなければ……悪いがメリアローズのことは諦めてくれ」
驚く二人を前に、アーネストはにこりと笑った。
「メリアローズにふさわしい相手になるのならば……このくらいは余裕だろう?」
書籍版「悪役令嬢に選ばれたなら、優雅に演じてみせましょう!」はMノベルス様より9月発売になります!
活動報告に詳細を載せましたので、見ていただけると嬉しいです。
素晴らしいイラストを描いてくださるのは、まち様になります!
キャラクターデザインの掲載許可もいただけましたので、順番に公開していきたいと思います。
今日は主人公のメリアローズです!
美人! すごい美人さんです!!
これは服従したくなること間違いなしですね!!
こちらは制服Verになりますが、他にもドレスVer、デートVer、釣りVerなどお着替え盛りだくさんです!
髪型も変わります。どれもめちゃかわいいです!!
ドヤったり照れたりビビったり表情豊かなメリアローズ様がとっても素敵なので、ぜひ皆様にもご覧いただけると嬉しいです!




