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56 元悪役令嬢、隣国の王子と親交を深める

 ロベルト王子は、隣国ユウェル王国の第二王子である。

 ここクロディール王国と、同盟国であるユウェル王国は古くから親交があり、頻繁に双方の王族が行き来し親交を深めていた。

 メリアローズも何度か王宮で開かれた歓迎会に出席したことがあり、そこでこのユウェル王国のロベルト王子にも挨拶をしたことがあったはずだ。

 しかし、何故彼がここに……。


 混乱するメリアローズを見て、ロベルトはくすりと笑う。


「貴女は……随分と綺麗になったな。驚いたよ」

「えっ!?」

「マクスウェルの至高の薔薇……なるほど、公爵が手放したがらないのももっともだ」


 驚くメリアローズの元に、ロベルトが距離を詰めてくる。

 至近距離にロベルトの美しい顔が見えて、メリアローズはじわりと頬に熱が集まるのを感じた。

 そんな時、足早に廊下を掛けてくる音が聞こえてきた。


「あっ、いたいた。ロベルト、探したよ」

「ユリシーズか。どこに行っていた? 急に姿が見えなくなったから何かと思ったぞ」

「それはこっちの台詞でって……メリアローズ?」


 やって来たのは、メリアローズもよく知る王子とリネットの二人だった。

 見知った顔の登場に、メリアローズはほっと胸をなでおろす。


「まったく、お前がいなくなるのでメリアローズ嬢に案内を頼もうかと思っていたのだが」

「いなくなったのは君の方じゃないか。悪かったね、メリアローズ」

「いえ、それよりも……」


 ちらりと目配せすると、リネットは素早くメリアローズの意図を察知し、疑問に答えてくれた。

 さすがは一年間メリアローズの腹心をやり遂げたフォローの女神である。


「メリアローズ様、こちらのロベルト殿下が留学生としてこの学園に編入されることになりまして、わたくしとユリシーズ様で校内をご案内させていただいていたのです」

「編入……まぁ、そうだったの」


 何故隣国の王子がこんなところにいるのか不思議だったが、まさか編入生だったとは。

 両国の歴史から考えれば、決しておかしなことではない。

 これはまた騒がしくなりそうね……と、メリアローズはちらりとそんなことを考えた。


「よろしければメリアローズ嬢、貴女も共に学園を回らないか? 久しぶりに話したいこともあるので」

「えぇ、喜んでご一緒させていただきますわ」


 ユリシーズの隣のリネットが明らかに緊張を隠せない状況だったので、メリアローズはにっこり笑ってそう答えた。

 これで、少しでもリネットをフォローすることができるだろう。


「では、参りましょう」


 それにしても、ダブル王子と後の王妃と共に学園散策とは。

 これは目立つでしょうね……と、メリアローズは内心でこっそりため息をついたのだった。



 ◇◇◇



 四人で学園を歩くと、誰しもがこちらを振り返る。

 それも当然だ。

 輝ける王子であるユリシーズに、シンデレラのごとく彼に見いだされたリネット。

 それに、学園の生徒からすれば「あの高貴なオーラを漂わせるイケメンはいったい誰なの……!?」とでも言いたくなるようなロベルト王子である。

 メリアローズ達が通りがかると、生徒たちは驚いたようにこちらに釘付けになり、そして彼らの放つロイヤルオーラにあてられたように、ぽぅっと夢見心地になっていくのだ。


 少し歩いたところで一旦休憩しようということになり、四人は学園内のカフェテラスに腰を落ち着けることにした。

 ユリシーズがリネットをエスコートするようにして椅子を引き、彼女をそこへ座らせる。

 となると、自然とメリアローズとロベルトが隣あう席へと座ることになる。

 ロベルトに優雅にエスコートされながら、メリアローズは小さく息を吐いた。


「あぁ、遅くなったが婚約おめでとう、ユリシーズ。レディ・リネット、噂以上に素晴らしい女性だ。いい相手を捕まえたな」


 隣国の王子に正面から褒められて、リネットは一瞬で真っ赤になった。

 そんな彼女を愛おしそうに眺め、ユリシーズはいつものロイヤルスマイルを浮かべている。


「ありがとう、ロベルト。君の方はどうなんだい?」


 ユリシーズの問いかけに、ロベルトは小さく頭を振った。


「中々運命のお相手には巡り合えなくてね。少しこちらの国にも足を伸ばすことにしたんだ」


 ちらちらと近くのテーブルからこちらを気にする女生徒にロベルトが手を振ると、彼女らは「きゃあああぁぁぁぁ!!」と黄色い声を上げて気絶した。

 なるほど、ファンサービスにおいてはユリシーズよりも丁寧なのかもしれない。向こうの国の王子は。


「……の時は、随分活躍されたそうだな、メリアローズ嬢は」

「は、はい……」


 ロベルト殿下に人気が集まれば、ウィレムに群がる女生徒たちの数も減るかしら……とぼんやり考えていたメリアローズは、急に話を振られて焦ってしまう。

 だが、すかさずリネットがフォローを入れてくれた。


「えぇ、メリアローズ様のおかげで、私はユリシーズ様にお近づきになることができたのです」

「そうだね、君には感謝してもしきれないよ」


 どうやらユリシーズ王子とリネットの馴れ初めの話だったらしい。

 しかし、隣国のロベルトまでその話を知っているとは……。メリアローズは一気に恥ずかしくなった。

 そんなメリアローズに追い打ちをかけるように、ロベルトはにっこりと笑って口を開いた。


「我が国にも届いてるよ。王子と友人の為に一芝居打った、心優しい公爵令嬢の美談は」

「そ、そんな……」


 ストレートにそんなことを言われ、メリアローズは今すぐ消えたくなった。

 他者からすれば美談だとしても、メリアローズにとってその話は心の地雷であったのだ。

 恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。

 頼むから触れないでちょうだい!……と、メリアローズは必死に話題を逸らそうと頭を回転させる。


「そうだわ、ロベルト殿下。エリス王女殿下はお変わりございませんか?」

「あぁ、今も元気いっぱいだよ。ユリシーズ、お前が婚約したと聞いた時は随分驚いていたが……」

「そうだね、リネット。一度、ユウェル王国の方にも正式に挨拶に行こうか」

「は、はいぃ……」


 ロベルトの妹君である王女の話題を出したことで、なんとかメリアローズの触れられたくない話は去ったようだ。

 緊張気味にロベルトと会話を交わすリネットを眺めながら、メリアローズは小さく微笑んだ。



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