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39 王子の取り巻き、弁解する(前)

 なんだかどっと疲れが出て、メリアローズはウィレムに支えられるようにして壁際に退いた。

 その視線の先では、王子がリネットの手を取ってホールの中央に進み出ていく。

 どうやら、アクシデントはあったがダンスパーティーの開幕となるようだ。


「それにしても、リネットが……」


 ゆっくりと音楽が流れ始め、王子とリネットが手を取って優雅に踊りだす。

 輝くシャンデリアの光に照らされて、若い二人はただ互いだけを見つめながら、ゆっくりとステップを踏んでいく。

 周囲の生徒たちも、祝福ムードで二人を見守っているようだ。


 ――こうして見ると、意外とお似合いね。


 疲れ果てたメリアローズは、ぼんやりとそんなことを考える。

 いついかなる時も派手なオーラをまき散らす王子に、彼の傍らにそっと寄り添うリネット。

 案外、バランスがいいのかもしれない。

 何よりも、想い合う二人の間には独特の空気が漂っているのだ。

 これは邪魔などできるはずがない。


 ぼぉっと踊る二人を眺めていると、傍らのウィレムがぽつりと呟いた。


「メリアローズさんが忙しいときにリネットを王子の所に行かせてたじゃないですか。おそらくその時に、お互い惹かれあったのではないかと」

「そういえばそんなこともあったわね……」


 メリアローズは王子がジュリアに想いを寄せていると思っていたので、まさかリネットに惚れこんでしまうなどとは予想もしなかった。

 まったく、あの王子はどこまでメリアローズを翻弄すれば気が済むのだろう。


「でも、ジュリアのことは……」

「それは……もしかしたら、最初から勘違いだったのでは?」

「えっ?」

「王子とジュリアが恋に落ちた。その前提が、間違ってたんじゃないかと思うんですよ」

「そんな、まさか……」


 まさかそんなはずは……と思ったが、そう言われれば腑に落ちる。

 メリアローズがしつこくジュリアをいびっても、王子はメリアローズの行動を咎めようとはしなかった。

 ジュリアなんて、メリアローズに懐いた挙句に当て馬バートラムに告白する始末だ。

 二人は恋に落ちた者同士ではなかった。

 ……そう考えると、色々なことにも納得がいく。


「……まったく、どうしてこうなったのかしら」


 ホールの一角では、国の重鎮たちが感激の涙を流しながら、王子とリネットのダンスを目に焼き付けようとしている。

 計画が失敗したというのに、彼らはのん気なものだ。


「結局のところ、大臣たちはただの王子バカですからね。王子が心から愛した人であれば、それがジュリアでもリネットでも構わなかったのでは」

「さんざん人を酷使してそれはないじゃない……!」


 まったく、この一年メリアローズが必死に悪役令嬢っぷりを披露したのは何だったのだろう、

 いや、それよりも……


「…………あなたは、よかったの」

「えっ?」


 こちらを振り返るウィレムに視線を合わせられなくて、メリアローズは王子とリネットの方を眺めたまま、ぽつりと呟いた。


「……リネットは、あなたの恋人じゃない」

「…………えっ?」

「相手が王子だからって、そんな簡単に渡していいの!? あなたは――」

「ち、ちょっと待ってくださいよメリアローズさん! 何言ってるんですか!!」


 ウィレムは何故か焦った様子でメリアローズの肩を掴んだ。

 そのわざとらしい態度が気に障り、メリアローズはがばりと顔を上げる。


「何よ! 私は知ってるのよ!? あなたとリネットは恋人同士だったじゃないの!!」

「違いますよ!! なんでそうなるんですか!!」

「誤魔化さなくていいのよ。私……見たのよ。あなたとリネットが抱き合ってるところを……」


 そうだ。

 放課後の学園内で、切なく抱き合う二人。恋人でないならば、いったい何だというのだろう。


「抱き合う……? あー、あれか……」


 そう言ったウィレムには、明らかに心当たりがある様子だ。

 ……やはり、彼は恋人を見捨てたのだ。 

 その途端急に怒りが湧いてきて、メリアローズはウィレムに食って掛かる。


「見損なったわ! そんな、恋人を簡単に手放すような真似をするなんて!!」

「だから違うんですって! 落ち着いて聞いてください!!」


 いつになく必死な様子のウィレムに、メリアローズはぎゅっと唇を噛んだ。

 ウィレムの気持ちもわかる。メリアローズとて、以前は同じように考えて、バートラムとジュリアを引き離したのだ。

 だが……何故だが目の前の彼のことを、そんな冷酷な人間だとは思いたくなかった。


「メリアローズさん、落ち着いて聞いてください」

「なによ……」

「俺とリネットは、別に恋人同士でもなんでもありません」


 真っすぐにメリアローズの目を見つめ、はっきりと、ウィレムはそう口にしたのだ。


「……嘘よ」

「嘘じゃないんです。あなたの言う通り、確かにリネットを抱きしめたことはありました。ただ、それは……泣いてたリネットを慰めようとしただけなんです」

「…………えっ?」


 思いもよらぬ返答に、メリアローズの口から令嬢らしからぬ間抜けな声が漏れる。

 ウィレムはどこか気まずそうに、王子と踊るリネットの方へと視線をやった。


「俺、偶然リネットが一人で泣いてるところを見てしまって……慰めようとした結果、そんな感じに……」


 ……なんだそれは。


「普通はそんなことしないわよ……」

「えぇ、俺もそう思います。どう考えても軽率でした。でも、リネットって……」


 ウィレムはそこでくすりと笑うと、少し恥ずかしそうに口を開いた。


「ちょっと、俺の妹に似てるんですよ」

「ぇ、妹……?」

「えぇ、そう思うとほっとけなくて。つい気がついたら体が動いていたというか」

「…………まったく、なんなのよ」


 ウィレムとリネットが恋人同士である。

 ……どうやらそれは、メリアローズの勘違いだったようだ。

 もしかすると、最初に王子とジュリアが恋仲である、と大臣に報告した者も、こんな風に誤解をしていたのかもしれない。


「…………ふぅ」


 そう考えると、たまらなく恥ずかしくなってくると同時に……何故か、すごく安心した。

 一体なぜかしら、と考えたが、メリアローズにはよくわからなかった。

 ただ、きっと今は、今だけは……ウィレムはメリアローズの隣にいてくれるのだろう。


 それが、今のメリアローズには、何よりも嬉しく思えるのだった。

ちょっと長くなったので分割。

後編は夜に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] はぁ……。王子、最低……。
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