150 メリアローズ、久しぶりのデートにはしゃぐ
城下町は、今日も人で溢れていた。
空はからりと晴れ渡り、人々の楽し気な声がひっきりなしに耳をくすぐる。
最近ずっと気を張っていたメリアローズも、久方ぶりに軽やかな気分で足を踏み出す。
「ふふ、こうしてるとあの時を思い出すわね」
「あの時?」
「えぇ、まだユリシーズ様とジュリアをくっつけようと頑張ってた頃……こうやってデートしたじゃない」
あの時のウィレムは、自暴自棄になって誰彼構わずデートに誘おうとしていたメリアローズを引き止めてくれた。
もしもあの時適当な男を捕まえていたら……いったいどうなっていたのだろうか。
少なくとも今こうして、ウィレムと連れ立って街を歩くようなことにはなっていなかったのかもしれない。
そう思うと少し不思議で、メリアローズは苦笑した。
「今思えば私何を考えてたのかしら……。まったく、バートラムの奴が下手な挑発するからよ!」
「その下手な挑発に見事に引っかかりましたね」
「うっ……」
痛い所を突かれ、メリアローズは慌ててウィレムから視線を外す。
「仕方ないじゃない! ……でも、助かったわ。あなたが引き止めてくれなかったら、どうなっていたことか――」
「まったくですよ。『悪役令嬢役』らしからぬ軽率さでしたね」
「むむむ……そういうあなたも、メガネらしからぬ強引さだったわ」
意趣返しのようにそう言うと、ウィレムはくすりと笑う。
そして、メリアローズの耳元で囁いた。
「そりゃあ必死になりますよ。……他の誰かが、あなたを奪い去ろうとしているのを冷静に見ている事なんてできませんから」
「っ……!」
今の彼の言葉からすると、ウィレムはメリアローズが彼を意識する前から、こちらのことを――。
「もう! 行くわよ!!」
急に気恥ずかしくなって、メリアローズは景気よくウィレムの背を叩いて走り出した。
◇◇◇
「あっ、見て! あのお店……!」
王都の広場では、今日もたくさんの露店が並んでいる。
その中にいつぞや見たようなアクセサリーの店を見つけ、メリアローズは嬉しくなって駆け寄る。
店先には、色鮮やかなアクセサリーが誘うように通りがかる人の視線を奪っていた。
「ふふ、懐かしいわね……」
メリアローズの手首にも、似たようなブレスレットがはまっている。
彼との初めてのデートの時に、おそろいで買った……というよりも、無理やり買わせた物なのである。
「何かお気に召す物はありましたか、お姫様?」
「もう、今日の私も街娘の設定で……あら」
からかうように声を掛けてきたウィレムに口をとがらせながらも、メリアローズの視線は一点へ引き寄せられた。
美しく輝く緑の石があしらわれた、イミテーションの指輪だ。
――ウィレムの、目の色に似てるわ……。
ちらりと振り返ると、彼は不思議そうな顔をした。
「何か?」
「な、何でもないわ! あ、あの店も素敵ね!!」
自分の発想が恥ずかしくなって、メリアローズは慌てて立ち上がり、すぐ近くの別の露店へと足を進める。
ウィレムは、少し遅れてついてきた。
「クレープの店ですか」
「クレープ? これが?」
メリアローズの知るクレープは、きちんと皿に乗せられた状態で出されるものだったが……どうやら、くるくると巻いて歩きながら食べるという食べ方もあるようだ。
――マクスウェル家の公爵令嬢たる私が食べ歩きなんて……はしたないわ! でも、少しだけなら……。
そんなメリアローズの思いを察したのか、ウィレムは早速クレープを買って手渡してくれる。
メリアローズはおそるおそるクレープを見つめた後……意を決してぱくり、と食らいつく。
「おいしい……!」
味だけでいえば、マクスウェル家お抱えのパティシエが作るものには劣るかもしれない。
だがこの場の雰囲気……それに大好きな相手が隣にいるのも相まって、メリアローズはまるで初めてクレープを食べたかのような感動に打ち震えた。
「ねぇ、あなたも食べ……あら?」
隣のウィレムに声を掛けると、彼は何故かあらぬ方向を睨みつけている。
「どうかしたの?」
だがメリアローズが声を掛けると、彼は何でもないかのように笑顔を浮かべた。
「いいえ、何でも。次は向こうの劇場に行って見ませんか?」
「劇場? 面白そう!」
ウィレムに背を押され、メリアローズは足取りも軽やかに歩き出す。
そんな彼女を微笑ましく見守りながらも、ウィレムは時折威嚇するかのようにどこかを睨みつけていた。
マンガがうがうにてコミカライズ12話の公開が始まりました!
珍しくウィレムがかっこいい回です!笑
メリアローズたちのドレスアップした姿もとっても素敵なので、ぜひぜひご覧ください!