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149 デートは待ち合わせから

「お嬢様、こちらはどうでしょう!」

「こっちも素敵ですわ!!」


 公爵家のメイドたちは、きゃっきゃとはしゃぎながら、ああでもないこうでもないと衣装をとっかえひっかえしている。

 メリアローズもそわそわしながら、一体どの衣装が一番自分を引き立ててくれるだろうかと頭をひねる。

 なんていっても、またウィレムと城下町へデートに出かける約束を取り付けたのだ。

 何が何でも、最高な一日にしなければ!


「お化粧は控えめにいたしますね!」

「この髪飾りはどうでしょう?」

「そうね、できるだけ周りの人たちに馴染めるようなものがいいわ」


 ――懐かしいわ……。


 かつて、バートラムに挑発され当てつけのようにウィレムとのデートに出かけたことがあった。

 あの時は思わぬアクシデントもあったが、公爵令嬢、そして悪役令嬢としての立場を忘れ、思う存分楽しんだものだ。

 ……ウィレムを意識し始めたのも、思えばあの頃からだった。


 ――あの時は驚いたわ、冴えないメガネだと思っていたのに、あんな風に私を守ってくれて……。


 思い出すだけで頬が熱くなる。

 ふぅ、と熱い吐息を持て余しながら、メリアローズはそっと大切に仕舞っておいた宝箱の蓋を開ける。

 中に入っているのは、公爵令嬢が身に着けるにしては少し安っぽいブレスレットだ。

 だがメリアローズにとっては、どんな高価な宝石よりも価値を持つ宝物なのである。


「あのね……アクセサリーはこのブレスレットを着けていきたいの。これに合うように服や他のアクセサリーを選んでもらえるかしら」

「承知いたしました!」


 メリアローズのお付きのメイドたちも心得たもので、誰も「そんな安物を身に着けてはなりません」などと苦言を呈する者はいない。

 敬愛するお嬢様の望みを叶えようと、皆目を輝かせて衣装の選定に戻るのだった。



 ◇◇◇



 心待ちにしていたデート当日。

 メリアローズはドキドキと胸を高鳴らせながら、大通りを進んでいく。

 何と今日は、ウィレムと城下町の広場で「待ち合わせ」をしているのだ!

 ウィレムは何度も「自分が迎えに行く」と主張したが、メリアローズは頑なに譲らなかったのである。

 待ち合わせ場所の近くまで馬車で送ってもらい、今は自らの足で歩みを進めていく。


 ――だって……「ごめん、待った?」「ううん、今来たところ♡」ってやりたいんだもの!


 メリアローズは悪役令嬢役を止めた後も、様々な恋愛小説を読みふけっている。

 待ち合わせも、デートの大切なワンシーンなのだ。

 約束の時間まではまだ30分以上もある、待ち合わせ場所である噴水の傍のベンチに腰掛けて、のんびりウィレムを待とうかしら……とメリアローズが思案した時――。


「ねぇ、君一人?」


 ぽん、と肩に手を置かれ、メリアローズは驚いて声の方を振り返る。

 そこには、ニ十歳くらいの青年がにこにこと笑いながら立っていたのだ。


「……私、でしょうか」

「そうそう……わぁ、君すごく可愛いね!」


 真正面からそう言われ、メリアローズは思わず頬を赤らめた。

 その様子をどう思ったのか、青年は更に距離を詰めてくる。


「実はさ、向こうの店で欲しいものがあるんだけど、女の子と一緒じゃないと入れなくて……よかったら少しだけ一緒に行ってくれない?」


 困ったような表情でそう言う青年に、メリアローズはどうしようかしら……と頭を悩ませた。

 ウィレムとの約束の時間まではまだ30分以上ある。

 すぐに行って帰ってくれば、約束には十分間に合いそうだ。


 ――目の前に困っている人がいるんだもの、私にできるのなら助けてあげなければ……。


 そう考え、頷こうとした瞬間――。


「悪いが、彼女には先約がある」


 聞きなれた声が耳に入ったかと思うと、背後から肩を抱かれる。


「ウィレム!?」


 現れたウィレムは、ちらりとメリアローズに視線を遣ると、声を掛けてきた青年を睨みつけた。


「あっ、そうなんだー……ごめんね、じゃあまた!」


 ウィレムに睨まれ、青年はそそくさと退散していく。

 大丈夫なのかしら……とメリアローズが首をかしげると、傍らのウィレムが大きくため息をついた。


「……だから迎えに行くって言ったのに」

「ウィレム、随分と早い到着ね」

「あなたに何かあったらいけないと思って早めに来たんですよ! まったく……メリアローズさん、まさかあんな見え透いたナンパに引っかかりかけたりはしてませんよね?」


 ――ナ、ナンパ……? そうだったの!?


 まったく気づかなかったメリアローズは、慌てて咳払いをして動揺を誤魔化す。


「えぇ、もちろんわかっていたわ。華麗にお断りして差し上げるつもりだったのよ」


 メリアローズが虚勢を張ってそう告げると、ウィレムは呆れたように笑う。


「まったく、あなたは……まぁ、何事もなかったようで安心しました。メリアローズさんこそ約束の時間にはまだ早いですが……待ちましたか?」


 どこかいたずらっぽくそう口にするウィレムに、メリアローズは嬉しくなって微笑んだ。


「いいえ、今来たところよ!」


 多少のアクシデントはあったが、これこそがデートの醍醐味である。

 メリアローズは嬉しくなってウィレムの手を取った。



「マンガがうがう」にてコミカライズ11話が配信開始しました!

コミック2巻の続きの話です!

ぽや~んとしてるジュリアがすっごく可愛いのでぜひぜひ読んでいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やった!いちゃいちゃデートですね! 簡単にナンパに引っかかりそうになってしまうメリアローズが心配でありつつ、待ち合わせから楽しもうとしているのが可愛いですね。 ウィレムは本当に最初は冴えな…
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