148 悪役(を見習う)令嬢の願い事
「いい加減機嫌なおしてくださいよ、メリアローズさん」
「ふん、あなたが秘密主義を貫くなら私もそうしようと思っただけよ」
必死に宥めようとするウィレムから顔を背け、メリアローズは怒りつづけている。……振りをしている。
ウィレムが勝手にジェフリーと決闘してから数日。
メリアローズは日々こうして機嫌を取ろうとするウィレムに、そっけない態度を取り続けていた。
最初の方は、勝手に賭けの対象にされ、もし負けたらウィレムが身を引こうとしていたことに怒っていた。
メリアローズとウィレムの関係については二人の間の話なのに、何故1ミリたりとも関係ないジェフリーが首を突っ込んでくるのか!
さらに何故、ウィレムはジェフリーの持ち出した賭けに乗ったのか!!
自分のあずかり知らぬところで話が進んでいたことに、メリアローズはたいそう立腹したものである。
――本当に、私に関しての話なら私を通しなさいよ! まったく……。
……というような愚痴を少し前にジュリアとイーディスに零したところ、二人は
「勝手に決闘なんてずるいですよね! 私に教えてくれたら私も決闘に参加したのに!」
「えぇ、何それうっざーい。メリアローズ様、そんな無粋な殿方のことなんて忘れてパーティーしましょうよ!」
と、何故か簡易パーティーが始まってしまった。
もぐもぐとリスのように焼き菓子を頬張るジュリアを眺めていると、イーディスがこそっと耳元で囁いてくる。
「メリアローズ様、こういう時は簡単に許したら駄目ですよ。拗ねたふりをして、限界まで相手を焦らせるんです。そして相手の焦燥感が頂点に達したところで……普段なら通らないような要求を突きつけるんです」
「え、要求を突きつける?」
「えぇ、そうです。そういう時の男って判断能力が鈍ってるから、高い宝石でもドレスでもころっと買ってくれたりするんですよ」
そう言ってあくどい笑みを浮かべるイーディスは、まさに悪女の風格を持っていた。
――ヒロインの皮をかぶった悪女ね、この子……。よくやるわ。
彼女のしたたかさに呆れつつ、メリアローズはその話を確かに頭の片隅に記憶していた。
そして、こうしてウィレムに対して拗ねたふりをし続けているのである。
「あのジェフリーの口車に乗るなんて……メガネを外したから目が曇ってるのかしら。またメガネでもかけてみたらどうなの?」
「だからそうじゃなくて……まずメガネから離れてください!」
……そろそろ潮時だろうか。
メリアローズはなにもイーディスのように、高価な宝石やドレスをウィレムにねだるつもりは無い。
そんな物ならウィレムにたからなくても、一言「欲しい」と言えばマクスウェル家の者が即座に用意してくれるのだから。
自分でも、恵まれているとは思う。だが、だからこそ……メリアローズはウィレムにしか叶えられない願いを抱いていた。
「メリアローズさん、その……あなたに黙っていたことは本当にすみませんでした」
「……本当に反省してる?」
「してますよ!」
「そう、じゃあ……」
メリアローズはくるりとウィレムの方へ振り返り、わずかに頬を染めながら俯き気味に声を絞り出した。
「また、前みたいにデートしてくれたら……許してあげる」
イタチサナ先生による「悪役令嬢に選ばれたなら、優雅に演じてみせましょう!」のコミック2巻が、12月15日に発売します!
メガネとのデート、VS偽悪役令嬢、そして絡まる恋の行方は……?という感じの2巻です!
2巻には6~10話が収録されているので、現在一話ずつ公開されている部分よりちょっと先が読めちゃいます!
しかし原作(小説版)だと2行ぐらいで雑に済ませた部分がきちんと描いていただけたりするので、漫画家さんってすごいな~といつも感心してます。
ドレスや小物なども可愛いので、要チェックです!
「どちら様ですか?」って感じのイケメンウィレム(&メリちゃん)が表紙の2巻、ぜひぜひ読んでみてください!
それと、先日双葉社の漫画アプリ「マンガがうがう」がリリースされました。
「悪役令嬢に選ばれたなら~」のコミカライズは今後こちらが最速更新になるかと思われるので、ぜひダウンロードしてみてください!