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143 真夜中の決闘(2)

 ウィレムの怒声に、ジェフリーは悔しそうに顔をゆがめた。


「それが一番メリアローズの為になるんだ! あいつもすぐに理解し――」

「黙れ」


 ウィレムの気迫に怯んだのか、ジェフリーが息を飲む。

 一度冷静になろうとウィレムはジェフリーの胸倉を掴んでいた手を放し、大きく息を吸う。

 ……彼と自分の考え方は、とても相容れそうにない。


 ――……俺は、貴族に向いてないのかもしれないな。


 貴族の娘を「駒」や「物」として扱い、本人たちの意思を軽視するのは貴族社会ではままあることだ。

 ウィレムとてその考え方に賛同はできないが、そういうものだと頭で理解はしている。表立ってその考えを批判するつもりもない。

 だが……メリアローズに関してだけは、ジェフリーのように彼女の意思を無視するような扱いをすることは許せなかった。


「俺は、彼女を愛してる」


 真っすぐにそう告げると、ジェフリーは驚いたように目を見張った。


「お前がどう思ってるのかは知らないが、俺は本気だ。マクスウェル公爵令嬢ではなく、メリアローズさん自身を愛してる」


 笑顔も、泣き顔も、少し間の抜けたところも必死に努力する姿も……何もかもが、ウィレムを惹きつけてやまないのだ。


「だから、彼女を傷つけようとする奴は許せない。彼女の家柄だけを見て釣り合うだの釣り合わないだの言うお前に負けるつもりも――」

「違う」


 ウィレムの言葉を、ジェフリーは途中で遮った。


「お前の言葉の二番煎じのようになるのは(しゃく)だが……俺は別に、あいつがマクスウェル公爵家の娘だからどうこうしようとしているわけではない」


 ジェフリーはウィレムを睨みながらそう告げる。

 その視線からは……嘘をついているようには見えなかった。


 ――これは……厄介だな。


 ウィレムは内心で舌打ちした。

 バートラムからジェフリーがメリアローズに歪んだ好意を抱いている可能性は聞いていたが、どうやらその通りのようだ。

 だが、だからこそウィレムには彼の行動が理解できないのだ。


「……お前のそれは、愛情じゃない。ただの支配欲だ。メリアローズさんをあれだけ傷つけて、それでも愛情だとでも言うつもりか」

「……黙れ、貴様に何がわかる」


 相容れない二人は睨み合った。

 このまま話を続けても、きっと平行線をたどるだけだろう。

 ウィレムとジェフリーでは、根本的に考え方が違うのだ。

 だったら……。


 ウィレムは意を決して、近衛騎士隊の白の手袋を咥えるようにして手から引き抜く。

 そして、ジェフリーの足元目掛けて投げつけた。


「拾え。これ以上は……剣で決着をつけた方がいいだろう」


 騎士が相手に手袋を投げつけるのは、決闘の申し入れの作法だ。

 ジェフリーは足元に落ちた手袋に視線をやると、にやりと笑う。


「ふん、ちょうどいい。一度貴様を無様に叩きのめしてやりたいと思っていたところだ。勝利の女神が俺に微笑んだら……分をわきまえメリアローズから離れろ」


 ジェフリーはウィレムの手袋を拾った。

 これは、決闘の受諾を意味する。


「決着は早い方がいい。明日の真夜中、日付が変わる時間にもう一度ここへ来い」


 時間と場所を指定して、ウィレムはジェフリーに背を向けて歩き出した。

 近衛騎士同士の許可のない決闘はご法度だが、バレなければどうということはない。


 ――絶対に、負けるわけにはいかないな……。


 メリアローズとの未来のためにも、彼女をジェフリーのような男に渡さないためにも、ウィレムはここで負けるわけにはいかない。


 ――いや、負けるはずがない。


 ウィレムはメリアローズの騎士なのだ。

 彼女のために戦うのなら……勝つことだけを考えねば。


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