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114 波乱のお茶会(5)

「……で、お前とジェフリーはどういう関係なんだ?」

「関係って……ただの知り合いよ。彼、昔から私を困らそうとして嫌なことばっかり言うのよ。だから私、苦手なの」

「なるほどねぇ……」


 何故、バートラムはいつもメリアローズがひっそりと読書に没頭しているところにやって来るのだろうか。

 クールな騎士にいきなり抱きしめられたヒロインの今後が非常に気になるが、仕方なくメリアローズは本を閉じてバートラムの方へと視線を向ける。

 彼が話題に出しているのは、先日お茶会にやって来たジェフリーの件だ。

 メリアローズからすれば、彼にああやって騒がれても迷惑でしかない。

 何とか穏便に出入り禁止にできないものか……と思案していると、珍しく真面目な顔つきのバートラムと目が合った。


「お前、あいつに口説かれたことは?」

「ないわよ。変な髪の色だとか馬鹿にされたことはあるけど」


 その時はさすがに傷ついて、メリアローズは屋敷に帰ってから少し泣いた。

 すぐに同じ髪の色を持つ母が「私とおそろいね!」と慰めてくれ、兄や使用人たちも素敵な色だと口々に褒めてくれた。

 そのおかげで、今ではメリアローズは自分の髪の色を誇らしく思えるようになった。

 だが一歩間違えば、彼の言葉はメリアローズの心に大きな傷跡を残していたはずだ。


「『僕が貰ってやってもいい』なんて……私を馬鹿にするにもほどがあるわ! どうせあいつも私の家柄にしか興味がなくて、王子に捨てられた今なら簡単に釣れると思ったんでしょ」


 体面を保つためだけにそれなりの家柄の相手と結婚し、裏では浮気三昧というのは貴族の間では珍しくない。……非常に残念なことであるが。

 だが、メリアローズは誰が相手であろうと、そんなお飾りの妻という立場に甘んじるつもりはない。

 しかもジェフリーは、メリアローズが数多くの男と浮名を流している……などという事実無根の話を信じ切っているようだった。

 まったく、とんだ侮辱である。


 心の中でサンドバックをぼこぼこにしていると、バートラムが少し戸惑いがちに口を開く。


「もし……あいつがお前に本気だったらどうする?」

「はぁ? あなた頭大丈夫?」


 あまりにも見当違いな発言に、メリアローズは呆れてしまった。

 仮に、バートラムが言うことが真実だとしたら、何故彼は好きな相手であるはずのメリアローズを困らせるような真似ばかりするのか。

 とてもじゃないが、メリアローズには理解できそうにない。

 そう口にすると、バートラムはやれやれと肩をすくめた。


「男子っていうのは、好きな女の子につい意地悪しちゃう生き物なんだよ。まぁ、あの年でまだその段階から脱却できてないのは痛いけどな」

「ふぅん、参考にさせていただくわ」


 メリアローズが棒読みでそう口にすると、バートラムは苦笑した。


 きっとバートラムは年中色恋沙汰のことばかり考えているから、そんな思考になるのだろう。

 だがメリアローズには、バートラムの言うことが正しいとはとても思えなかった。

 ジェフリーはただ純粋にメリアローズのことが嫌いなのだろう。

 ああいう風に真正面から悪意をぶつけてくるタイプは珍しいが、メリアローズも今まで理不尽に嫌われたり嫌がらせを受けた経験がないわけでもない。


 ――ジェフリーが近衛隊に所属してるなら……ウィレムが詳しいかもしれないわ。一度、ジェフリーの様子を聞いておくべきね。


 理由をつけてウィレムに会いたいという私欲がないでもないが、ジェフリーに警戒すべきなのは間違いない。

 彼はプライドが高い人間だ。一度追い払われたからといって、おとなしく引き下がるとは思えなかった。


「お前も、一応気をつけろよ。あいつ、ねちっこそうな顔してるし」

「言われなくてもそのつもりよ。大丈夫、私はあんな奴に後れを取ったりはしないわ!」


 ジェフリーは顔面偏差値だけで見れば中々だが、中身は残念な青年だ。

 メリアローズがきちんと警戒していれば、彼に出し抜かれるようなことはないだろう。


「何かあったらすぐに周りに言えよ。ウィレムとジュリアが暴走すると面倒なことになりそうだしな」

「ふふっ、肝に銘じておくわ」


 昨日の一件だけで、ジェフリーを懲らしめようとクリームたっぷりにパイをわざわざ用意したジュリアだ。ジェフリーが更なる嫌がらせを仕掛けてきたときは……城中をパイまみれにしてしまうかもしれない。


 ――それに、ウィレムは……。


 一瞬、本気モードのウィレムの姿が頭をよぎり、メリアローズは一人赤面した。

 普段は穏やかなウィレムだが、本気でぶちぎれた時の静かな怒りは尋常じゃない。

 彼がそこまで怒るのは、いつもメリアローズの身が危険に晒された時だ。

 メリアローズは本気モードのウィレムが恐ろしくもあり、彼がそこまで自分の為に怒ってくれることが嬉しくもあった。


 ――ま、まぁ……何もないのが一番よね!!


 だが、念のためウィレムはメリアローズの口から事の顛末を報告しておこう。


「大丈夫よ、バートラム。今度はちゃんと相談するわ」


 去年のパスカルにねちねち迫られた時は、一人で解決しようとして痛い目に遭ったことがあった。

 だから、もう同じ過ちは犯さない。


「俺のことも忘れんなよ、女王様?」

「もう! その呼び方はやめてって言ってるじゃない!!」


 どこか晴れ晴れとした気分で、メリアローズは本を手にその場から立ち上がり、歩き出す。

 その後姿を、バートラムはじっと見つめていた。



 ◇◇◇



 先日ウィレムに注意された通り、メリアローズは使いを送ってウィレムに手紙を届けてもらった。

「二人で話したいことがある」と。

 幸いにも、返事はすぐに返ってきた。


 ――久しぶりにウィレムと二人で会える。


 そう思うと、不謹慎にも心が浮き立ってしまう。


 ――だ、駄目よ。これは、真面目な話をするための場なんだから!!


 そう自分に言い聞かせても、ルンルン気分は止められない。

 ウィレムと会う時の服は? 髪型は? アクセサリーは?


「お嬢様、こちらのドレスはいかがです?」

「この髪留めなんて素敵ですよ!!」


 まるでデートに赴く時のように、メリアローズはメイドたちとともにファッションショーを繰り広げるのだった

書籍2巻発売記念!

…ということで3日くらい連続更新したいと思います!

明日はかなり糖度高めのいちゃいちゃ回です!!

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