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111 波乱のお茶会(2)

 いよいよお茶会の当日がやって来た。

 ここ数日準備に忙殺されて疲れ切ったメリアローズは、それでも最後の仕上げとばかりに会場を見渡す。


 ――……うん、大丈夫そうね!


 茶器やお茶、テーブルクロスなどの品物一つとっても、どこで作られたものを使うかというのには中々気を遣う。

 朝早くからセッティングに駆けずり回った会場の出来に頷いて、メリアローズはリネットとジュリアの方を振り返った。


「いい? あとは私たちの働き次第よ。打合せ通りに頼むわよ!」

「「はいっ!」」


 いよいよ、お茶会の開幕だ。



 ◇◇◇



 約束の時間がやって来て、会場には続々と見知った顔ぶれが集まりつつある。

 本日のお茶会には、学園の知り合いの中でも、今も王都に残っている者たちを中心に招待した。

 人数もそこまで多くはない。腕試しには十分だろう。


「お久しぶりです、メリアローズ様」

「ふふ、ご活躍との噂を伺っておりますわ」


 旧友たちと挨拶を交わしながら、メリアローズはちらりとリネットの様子を伺う。

 ユリシーズ王子の隣で次々に挨拶を受けるリネットは、少しリラックスした様子も見て取れた。

 お茶会が始まる前には「失敗したらどうしましょう……」と涙目になっていたが、今はしっかりと主催としての役割を果たしている。

 慣れた顔ぶればかりなのが功を奏したのだろう。


「メリアローズ様、もう少しで追加のスコーンが焼けるそうです!」

「ありがとう、ジュリア。あなたも朝から疲れたでしょう。少し休憩なさい」

「わぁい!」


 元々は学園のアイドル――もしくはペットのように人気のあったジュリアだ。

 今日は給仕としてここにいるにも関わらず、行く先々で次々に旧友たちに軽食やデザートで餌付けされていた。

 まったく、後でじっくり淑女の心得を説いておかねば。


 ――……まぁ、今日くらいは大目に見ましょうか。あまりガミガミ言いすぎるのもよくないでしょうし。


 ジュリアを見送り、一息ついたメリアローズの元へ、見慣れた二人が近づいてくる。


「お疲れ様です、メリアローズさん」

「招待ありがとな。いろいろ大変だっただろ」


 やって来たウィレムとバートラムを見て、メリアローズの表情が安堵に緩みそうになる。

 だが、ここには他にもたくさんの人がいることを思い出し、メリアローズは慌ててキリっと表情を整えた。


「あら、このくらいなんともありませんわ! 少々わたくしを侮っているのではなくって?」


 つい癖でそんな風に返すと、ウィレムとバートラムは苦笑していた。

 ウィレムは王子の護衛としてここにやってきている。バートラムの方はよくわからないが、きっと仕事をサボったのだろう。

 メリアローズは心の中でそう推測した。


「結構評判いいみたいだぜ。これでリネットも少しは自信つくだろ」

「そうね、それが一番の収穫よ」

「早くも第二回の開催を望む声もあるようです」

「第二回、ね……。いっそ、定期的な行事にしてしまうのもいいかしれないわ」


 このお茶会を定例化して、若い世代による、社交と意見交換の場としてもいいかもしれない。

 ここに集まった者たちは、きっと将来ユリシーズ王子やリネットにとって、大きな力となるはずだ。

 メリアローズはそう思考を巡らせた。


「ありがとう、いい案が浮かびそう」


 にっこり笑ってそう返すと、バートラムはふと真面目な表情になった。


「まぁそれはいいが……あんまり無理しすぎんなよ」

「え?」


「何を言ってるの」と聞き返す間もなく、バートラムは指でちょん、とメリアローズの眉間を突っついた。

 そして、彼はメリアローズの耳元で小声で囁いた。


「目元に隈が出来てる。夜更かしは美容の天敵じゃなかったのか?」

「え、嘘!?」


 確かに、昨夜は最後の準備に追われてろくに寝ていなかった。

 メイクで隠せたと思っていたが……ここまで至近距離まで近づかれると、見破られてしまうのかもしれない。

 あたふたするメリアローズを見て、バートラムは悪戯っぽく笑う。


「なんなら俺が添い寝しましょうか、お嬢様? 二人で甘い夜を――って痛ぇぇぇ!!」


 調子のいい言葉を並べ立てていたバートラムは、いきなり小さな悲鳴を上げて飛び上がった。

 見れば、彼の隣のウィレムがものすごい目つきでバートラムを睨みながら、ぎりぎりとバートラムの足を踏みつけているではないか。


「……黙って聞いてればべらべらと……そんなに死にたいのか」

「冗談だって! だからブーツで踏むのはヤメロ! 俺の可愛い小指が潰れるぅぅ!!」


 ぎゃんぎゃんとじゃれ合う二人を見て、メリアローズはくすりと笑う。

 この見慣れた光景は、少々疲れ気味のメリアローズの心を和ませてくれた。


「私は他の皆の様子を見てくるわ。ゆっくり楽しんでいってね」

「ちょっと待て! メリアローズ、頼むから助け――ぎゃあぁぁぁぁ!!」


 バートラムの悲鳴を聞き流し、メリアローズは会場内に視線を走らせる。

 招待客が退屈しないように、会話を盛り上げるのも主催の役目だ。


「あら、お久しぶりね! 最近の様子はいかがかしら?」


 頭の中から招待客リストを引っ張り出し、メリアローズは次々と旧友たちへと声をかけて回った。

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