【コミカライズ配信記念】悪役令嬢の優雅なる采配 おまけ
☆取り残された当て馬☆
あいつら、逃げやがった……!
王子を引きずるようにして、ものすごい速さで去っていくメリアローズ。
……と、その後を追いかけるウィレムとリネット。
彼らは、バートラムを一人見捨てて、非情にもこの場から逃げ出したのだ!
「わぁ、王子とメリアローズ様ってやっぱり仲がいいんですね!」
きゃっきゃっとはしゃぐジュリアの声に、バートラムはゆっくりと振り返る。
よし、このままなんとか話題を変えられれば……!
「そうだ、バートラム様はカエル料理だったら何がお好きですか?」
逃げきれなかったー!!
バートラムは先ほどのメリアローズと同じように、冷や汗をかきながらジュリアに向き直る
ダメだ、メリアローズたちが立ち去ったことで、ジュリアの標的が自分一人になってしまった。
しかしバートラムに逃げることは許されない。なんとか、この場を切り抜けるしかないのだ。
「あー、それはだな……」
「私、話してたらなんだかカエルが食べたくなってきて! 今度捕ってこようと思うんです!」
やめろおぉぉぉ!!!……と叫びぶこともできなかった。
ダメだ、ジュリアはこう見えて中々頑固なのだ。一度そうと決めたら、必ず最後までやり遂げるだろう。
「捕ってきたら唐揚げにして、バートラム様にも差し上げますね! もちろん、メリアローズ様にも!!」
「あー、ありがとな……ジュリア」
もうどうにでもなーれ、と投げやりな気分で、バートラムはわしゃわしゃとジュリアの頭を撫でた。
大丈夫。犠牲になるのはバートラム一人ではない。
あの非情な悪役令嬢も、ジュリアにカエルの唐揚げを押し付けられる羽目になるだろうから。
「メリアローズは喜ぶぞー。わざわざお前にタピオカを紹介しに来たくらいだからな!」
「えへへ、楽しみです!!」
こうなったら何としてでもお前を道連れにしてやるからな、メリアローズ……!
何とかジュリアがメリアローズにカエル料理を差し入れるように仕向けながら、バートラムは地味な復讐に燃えるのだった。
☆ヒーローとヒロイン……になるはずだった二人☆
「ってことがありまして、王都周辺でカエルがたくさん捕れるところを探してるんです! 王子はご存じですか?」
曇りなき眼を輝かせるジュリアに、ユリシーズはそっと苦笑した。
どうやら彼女は、自らの手でカエルを捕獲し、メリアローズに食べさせようとしているらしい。
「うーん、カエルかぁ……」
ジュリアは何か勘違いしているようだが、この国の上流貴族にカエルを食べる習慣はない。
大方、またメリアローズがジュリアの気を引こうとちょっかいを出して、盛大に自爆したのだろう。
このまま放っておいてもおもしろいことになりそうだが、そうなると、少しメリアローズが可哀そうだ。
公爵令嬢にカエルを食べさせようとするなんて、なんて無礼な!……などと、いらぬ火種を巻き起こす可能性もある。
ユリシーズは、なんとか丸く収める方法を模索した。
「カエルもいいけど……ほかの食材でもいいんじゃないかな」
「ほかの食材?」
「この辺りでは、あまり食用のカエルは捕れないんだ」
「そんな……。そんなに貴重な食材を、メリアローズ様は私に……!?」
「きっと、メリアローズは君に喜んでほしかったんだよ」
「そんなぁ、ふへへ……」
頬を緩ませて照れるジュリアに、ユリシーズの胸がほんわりと暖かくなる。
メリアローズとジュリアの間に芽生え始めたものを守るためにも、ここは自分が一肌脱がねば。
「同じ唐揚げにするとしても、例えば鳥の肉を使うとか……」
「鳥を狩るんですね! 実家にいたときは、よくムクドリとか撃ち落としてました!! 任せてくださいっ!」
あ、やっぱ狩るんだ……。
ユリシーズは目の前の少女のバイタリティ溢れる精神に感服した。
まぁでも、カエルの唐揚げを作り、マクスウェル家や学園で大パニックを起こされるよりもマシだろう。
「よし、じゃあ今度一緒に狩りに行こうか」
「はいっ! あっ、でも……実家に弓矢を置いてきちゃいました」
「大丈夫、貸してあげるよ」
「ありがとうございます、王子!」
仲睦まじく見つめあう二人は、傍から見れば、お似合いのカップルに見えることだろう。
……あくまで、会話の内容を聞かなければ、だが。
☆ナーバスな悪役令嬢と、まだ押しの弱い王子の取り巻き☆
「はぁ、ひどい目にあったわ……」
例のタピオカ事件の数日後、いつものようにジュリアに絡みに行くのも何となく恐ろしくなってしまって、メリアローズはこそこそと校内を移動していた。
もしジュリアに遭遇し、カエル料理の入った弁当箱などを満面の笑みで差し出されたりしたら……いったいどうすればよいのだろう。
「ふん、こんなものっ!」と、目の前で弁当を床に叩きつけてやろうか。
いや……さすがにそれはひどい。
いくら悪役令嬢役といっても、メリアローズの良心が痛む。
それに、食べ物を粗末にするのは良くない。犠牲となったカエルに祟られてしまう。
「うぅ、どうすればいいのよぉ……」
「何がです?」
「ひゃああぁぁ!!?」
いきなり背後から声を掛けられ、メリアローズは悲鳴を上げてその場で飛び上がった。
慌てて振り返ると、背後にいたのはメリアローズに負けないくらい驚いた顔のウィレムだった。
「よくも私の背後を取ったわね!?」
「いやいや……ちょっと話しかけただけじゃないですか」
「……それで、何の用なの?」
ジュリアかと思って死ぬほど焦ったが、やってきたのは王子の取り巻きの眼鏡だった。
とりあえず周囲を警戒してみたが、ジュリアの気配はない。
ほっと一息ついたメリアローズが問いかけると、ウィレムは静かに答えてくれた。
「食堂で、王子がお呼びです」
「え?」
王子がメリアローズを食堂に?
いったい何故?
「まさか、食堂で断罪イベントを始める気じゃ……!」
「いや、さすがにそれはないんじゃないですか?」
「そうよね。断罪イベントの舞台が食堂だなんて、なんだか締まらないもの」
おいしそうなランチの匂いが漂う中で断罪されても、気が散ってしょうがないだろう。
途中で腹の音などが鳴ってしまえば、それだけで雰囲気がぶち壊しだ。
さすがにあの王子も、そのあたりの空気は読んでくれると信じたい。
「ねぇあなた、王子にタピオカミルクティーの件は話したの?」
「えぇ、悪役令嬢メリアローズが、怪しげな飲み物をジュリアに飲ませたようだと伝えました」
「ふむ……そうなると、断罪イベントとまではいかなくても、軽い警告くらいは入るかもしれないわね」
『田舎出身のジュリアにはカエルの卵がお似合いだとでも言いたいのか? 辺境の民を馬鹿にするとは何事だ! ジュリアが王太子妃になった暁には、カエル料理で宮廷晩餐会を開いてやる!!』
メリアローズの想像の中の王子は、勇ましくそう告げた。
「カエル料理の晩餐会……」
「えっ、なに言ってるんですかメリアローズさん」
「でもそういうことよね。王太子妃とは、自ら流行を作っていく者だもの。あの子が王太子妃になったら、きっと宮廷料理はカエルで埋め尽くされるわ」
「いやいや、さすがにそれはないでしょう」
「あなたも今のうちから慣れておいたほうがいいわよ。はぁ、帰ったらカエルを食べる練習でもしようかしら。それとも、国外逃亡も視野に入れようかしら……」
ぶつぶつと何事か呟きながら、力ない足取りで進むメリアローズに、ウィレムはそっと声をかける。
「その時は……俺もお供しますよ」
「え? 何か言った?」
「…………いえ、王子を待たせるとまずいです。そろそろ行きましょう」
すたすたと歩きだすウィレムの後を、首をかしげながらメリアローズも追いかける。
このメガネが何を言いたかったのかはわからないが、今重要なのは食堂で待ち受ける王子だ。
たとえどんな展開が待っていようとも、悪役令嬢らしく、毅然としていなければ。
「私は悪役令嬢、メリアローズ・マクスウェルだもの。あんな田舎娘ごとき、恐れたりはしないんだから」
そう自分に言い聞かせ、メリアローズはしゃきっと背筋を伸ばす。
堂々と胸を張れ。今のメリアローズは、誇り高き悪役令嬢なのだから。
食堂の前で、ウィレムとメリアローズは足を止める。
この扉の向こうでは、王子が待ち構えているはずだ。
たとえ場違いな断罪イベントが始まってしまったとしても、腹の音がならないように気を付けなければ。
「……行きましょう。私の雄姿を、最後までしっかりと見ておくのよ、メガネ」
「ウィレムです、メリアローズさん。……大丈夫です。例え何があっても、俺はあなたの味方ですから」
力強くそう告げたウィレムがそっと食堂の扉をに手をかける。
山ほど鳥の唐揚げを作って待っていた王子とジュリアが、唐揚げパーティー開始の合図を告げるまで、あと、5秒――。
【お知らせ】
双葉社のサイト、がうがうモンスターにて、コミカライズの1話が公開されました!
→(https://futabanet.jp/list/monster/work/5dd4f6a07765616c32050000)
もう全ページ最高なので、是非読んでください!
私のお気に入りは、メリアローズが悪役令嬢に目覚めたシーンです。
とにかくかわいくてかわいいんです!!(語彙力不足)
よく見ると場面ごとに衣装が変わっていたりと、すごく細かくて素晴らしいので是非読んでみてください!!