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【コミカライズ配信記念】悪役令嬢の優雅なる采配②

 いよいよ、作戦決行の日がやって来た。

 リネットが用意したタピオカミルクティーを確認し、メリアローズは気合を入れる。


「よし! いけるわ!!」


 既に段取りは整っている。

 バートラムが勉強を見るとの名目で、屋外のテラスにジュリアを呼び出しているはずだ。

 悪役令嬢は、学園人気ナンバー2のイケメンを(たぶら)かしたヒロインに怒り、タピオカミルクティーを差し入れ、可憐なヒロインを恐怖のどん底に突き落とすのである。

 イメトレは完璧だ。恐怖におののくジュリアの顔を想像し、メリアローズはにんまりと口角を上げる。


 バートラムはジュリアと共に待機中。

 ウィレムは作戦決行の現場を是非王子に見せつけるために、王子を誘導中のはずだ。

 作戦の要であるメリアローズのサポートには、リネットがついてくれている。


「行くわよ、リネット。これよりオペレーション・タピオカを開始するわ!!」


 勇ましく宣言し、メリアローズは颯爽と歩き出した。



 ◇◇◇



 事前の打ち合わせ通り、屋外テラスにはバートラムとジュリアの姿が見える。

 端から見ると、まるで仲の良いカップルのようだ。

 バートラムは今日もうまく当て馬業をこなしているようである。

 大きく息を吸って、メリアローズは二人の方へ向かって足を進める。


「あら、バートラム様ではありませんか! それに……ジュリアも一緒だったのね」


 さも偶然通りかかりました、という雰囲気を装って、メリアローズは嫌味っぽく二人に声を掛けた。

 その途端、ぽつぽつとテラスの席を埋めていた生徒たちが、びくりと身を竦ませる。


 悪役令嬢と愛らしいヒロインがエンカウントしてしまった。

 今ここで、新たなる戦いの幕が上がったのである……!


「あっ、メリアローズ様! こんにちは!!」


 戦々恐々な周囲の空気など気に留めず、ジュリアは満面の笑みでメリアローズに挨拶をしてくれた。

 一瞬メリアローズは気圧されかけたが、すぐに気合を入れなおす。


 ――ふん、これは虚勢ね! 心の中では子羊のように怯えているに違いないわ!!


 ヒロインの虚勢など可愛いものだ。

 この悪役令嬢が粉砕してくれよう!


「あらあら、放課後までみっちり勉強なんて、特待生さんは大変ね。わたくしには到底真似できませんわぁ!」

「そーなんです! 次の試験に落ちたら留年かもしれないって先生に言われて!」

「え゛」


 ……待て、それは初耳だ。

 未来の王太子妃が留年だと? それはなんとしてでも避けなければならない。

 ジュリアがユリシーズの妃となった時に、過去をほじくり返されてバッシングの嵐になってしまう。

 涙ながらに謝罪会見を開くジュリアの姿を想像し、メリアローズは焦った。


 留年する可能性があるって本当なの!?……という思いを込めて、メリアローズはバートラムにアイコンタクトを送る。

 するとバートラムは、「本当だが俺が何とかするから心配すんな」とも言いたげな視線を送ってきた。


 ――くっ……これからは、ジュリアの成績にも気を配らないといけないわ……!


 それはそれとして、今はオペレーション・タピオカの真っ最中だ。

「定期的にジュリアの成績を確認する」と頭の中のメモ帳に書き込んで、メリアローズは気持ちを切り替えた。

 せっかくここまで段取りを整えた作戦を、途中で中止にはできないのだ。

 予定通り、ジュリアにタピオカミルクティーを飲ませるとしよう。


「ふふ、それは大変ね。そんな多忙な特待生さんに、わたくしから贈り物がありますの」


 パチン、と指を鳴らすと、メリアローズの背後に控えていたリネットが、ガラガラとティーカートを押しながら前に出る。

 ジュリアは、ぱちくりと大きな瞳を瞬かせて、その様子を眺めている。


「こちらをどうぞ、ジュリアさん」

「わぁ、ありがとうございます!!」


 ジュリアに向かって、リネットがそっとタピオカミルクティーのグラスを差し出す。

 すると、ジュリアは目を輝かせてタピオカミルクティーを受け取った。

 今からそのタピオカミルクティーによって、地獄に突き落とされるとも知らずに。


「おいしそう……これは、ミルクティーですか?」

「えぇ、そうよ。でも、ただのミルクティーではなくて、『タピオカミルクティー』という特別な飲み物なの」


 意味深な笑みを浮かべて、メリアローズはそう告げる。

 ジュリアはきょとん、と目を丸くして、まじまじとタピオカミルクティーを観察してるようだった。


「すると、この黒いぶつぶつがタピオカ……ってやつなんですか? でも、このタピオカって何なんですか?」


 その言葉が聞きたかった……!

 よし来た! と内心でガッツポーズを取り、扇で口元を隠しながら、メリアローズは衝撃の言葉を告げる。


「ねぇジュリア。タピオカガエルという生き物をご存じかしら」

「えっ、カエル?」

「えぇ、世の中には、そういった名前のカエルが存在するの」


 メリアローズが意味深にそう告げた途端、テラス席に残っていた生徒たちが何人か、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

 彼らはそのまま、怯えたようにその場から逃走していく。


 ――ふふ、いい感じじゃない。ちゃんと私の勇姿を学園中に広めるのよ!!


 逃亡者を横目で見送り、メリアローズはジュリアに視線を戻す。

 ジュリアはおそるおそるといった様子で、グラスの底の方に見えるタピオカを凝視している。

 鈍いジュリアでも、さすがにタピオカガエルとタピオカミルクティーを結び付けることくらいはできるだろう。


「じゃあ、これって……カエルの、卵?」


 ぽつりとジュリアが漏らした言葉に、メリアローズは肯定も否定もせずに、くすりと笑ってみせる。


 さぁどうするヒロインよ!

 こんなもの飲めないと突っぱねるか、悪役令嬢の圧力に負けタピオカミルクティーを口にするか。

 それとも、愛する王子が助けに来てくれることを信じて待っているのだろうか。

 随分と到着が遅いが、現在ウィレムが王子をこの場に誘導中のはずである。

 うまくいけば、悪役令嬢に追いつめられた窮地のジュリアを颯爽と救い出す王子……のような美味しすぎるシチュエーションも期待できる。


 これは、どう転んでもメリアローズにとってはおいしい展開だ。


 勝利の高笑いをぐっと堪え、メリアローズはにやにやと哀れなジュリアを見守る。

 不安そうにタピオカを眺めていたジュリアが顔を上げる。

 その表情は……眩いばかりの笑顔だった。


 ん、笑顔…………?


「王都の方々もカエルを食べるんですね! こっちに来てから見たことないから、てっきり田舎だけの風習だと思ってました!」

「え゛…………」

 

 今、この少女は何と言った?


 ヒロイン(ジュリア)による鮮やかなカウンター攻撃を喰らった悪役令嬢(メリアローズ)は、思わず言葉を失い固まった。


まだ続きます。

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