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【コミカライズ配信記念】悪役令嬢の優雅なる采配①

コミカライズ配信記念(にしてはあまり関係ない内容の)小話です。

時系列は1章中盤くらいのイメージです。

 爽やかな朝の日差しに、メリアローズは目を覚ます。

 何て気持ちの良い朝だろう。

 こんな時に考えるのは、もちろん……王子とジュリアのことだ。

 今日はいかにしてあの田舎娘に嫌がらせを仕掛け、王子をやきもきさせてやろうか。

 そう考えると、自然と頬が緩んでしまう。


「一日の計は朝にあり。さて、今日はどうしてやろうかしら……」


 今日も悪役令嬢の矜持(きょうじ)を胸に、メリアローズは正々堂々と戦うことを誓うのだった。



 ◇◇◇



「ふふ、揃ったようね……。今回は、紅茶ぶちまけ作戦を実行するわ!」


 メリアローズが強くそう宣言すると、王子の恋を応援したい隊の三人がごくりとつばを飲み込んだ。

 その反応に、メリアローズは満足げに胸を張る。


 非情な悪役令嬢は、偶然を装って愛らしいヒロインに紅茶や食べ物をぶちまけるのだ。

 そして、「オホホ、ごめんあそばせ!」と勝利の高笑いを披露しながら颯爽と去っていく。

 悪役令嬢物の物語で幾度となく目にした、古典的な嫌がらせの手法である。大臣が託した作戦指示書にも載っていた。

 衣服を汚され、誇りまでもを傷つけられたヒロインの屈辱はいかほどのものだろうか……。

 話を聞いた生徒たちは皆ジュリアに同情し、悪役令嬢を憎むだろう。

 ついでに、陰でこっそり泣いているヒロインを慰めるヒーロー……のようなおいしいシチュエーションも期待できる。

 まさに一石二鳥。メリアローズは打ちひしがれるジュリアを想像して、にんまりと笑う。


 だが、この完璧とも思われる作戦に異議を唱える者がいた。


「あー、ちょっといいか」

「よし、発言を許可するわ」

「ジュリアの制服、やっとの思いで用意した一張羅なんだわ。その制服が着れなくなったら、あいつ学園に来れなくなる」

「むむむ……」


 バートラムがもたらした情報に、メリアローズは眉を寄せた。

 これは予想外だ。ジュリアが学園に来られなくなる。それだけは、何としてでも避けなければならない。

 しかし替えの制服もないとは、ジュリアは思った以上にハードな境遇のようである。

 特待生というからにはもっと待遇がいいのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 いったい大臣は何をやっているのか。ジュリアを学園に入れて、後は放置とはいかがなものか。

 それとも、王子に選ばれた後にお涙頂戴エピソードとして吹聴するための仕込みなのだろうか。

 なんにせよ、「紅茶ぶちまけ作戦」をそのまま実行するのは難しそうだ。


「何かいい方法はないかしら……」

「要は、嫌がらせになればいいんですよね」

「そうよ、制服を汚さずに、なんとかジュリアへの嫌がらせを……」


 そう呟いた途端、メリアローズは閃いた。

 閃いて、しまったのだ。


「そうだわ! とんでもない紅茶を作って飲ませてやりましょう!!」


 悪役令嬢メリアローズは差し入れの振りをして、ジュリアに紅茶を振舞う。

 しかしその紅茶には、とんでもないものが混入していたのだ!!

 差し入れという建前がある以上、ジュリアは断ることはできない。

 哀れジュリアは、メリアローズによってトンデモ紅茶を飲み干さなければならない状況に追いやられてしまうのだ……。

 これなら制服を守りつつ、紅茶を使って嫌がらせを行うことができる。

 生徒たちのジュリアに対しての好感度を上げることもできるし、王子も哀れなジュリアを守りたくなるはずだ。ついでに、メリアローズ達が作戦指示書の内容を実行したというアリバイもできるわけだ。

 まさに一石三鳥!

 メリアローズは早くも勝利の高笑いを披露した。


「で、とんでもない紅茶って何を仕込むつもりなんですか?」


 ウィレムにそう指摘され、メリアローズはぴたりと高笑いを止めた。

 そういえば……その点については考えていなかった。


「健康に害が出るようなものはいけないわ。飲んだジュリアがその場で吐きそうなものもダメ」


 嫌がらせではあるが、将来のことを考えるとあまりジュリアの品位を貶めるようなものは仕込めない。

 公衆の面前で嘔吐でもして、ゲロインのような印象がついては困る。

 ましてや健康に害が出そうなものなど言語道断だ。

 あくまでジュリアには、「卑劣な悪役令嬢の嫌がらせに耐える高潔なヒロイン」でいてもらわなければならないのだ。

 と、なると……


「リネット、用意を頼めるかしら。この微妙な塩梅の調整は、あなたにしかできないわ……!」

「は、はい……!」


 メリアローズの期待のまなざしを受けたリネットは、緊張しながらも頷いた。

 彼女は王子の恋を(以下略)隊のサポート要員なのだ。

 常にメリアローズ達に茶菓子を振舞ってくれる彼女であれば、きっと此度の任務にふさわしい紅茶を作り上げてくれることだろう。

 メリアローズはそう確信していた。

 完全なる丸投げであったが、敬愛するメリアローズの為ならば……と、リネットは燃え上がった。

 瞳に闘志を宿したリネットの姿を見て、メリアローズは勇ましく宣言する。


「さぁ、勝利の時は近いわ。哀れなヒロインに、愛の鉄槌を下してやるのよ!!」



 ◇◇◇



 数日後、四人は再び作戦会議室に集合していた。

 ついに、リネット作のとんでもない紅茶が完成したのである。


「こちらをご覧ください」


 そう言ってリネットが恭しく差し出したグラスの中には……


「ミルクティーと……なんなの、これは」


 一見普通のミルクティーのようだが、底の方に黒くてぶつぶつとした謎の塊が見える。

 いったいこれは何なのか。


「タピオカミルクティーです」

「タピオカ?」


 聞いたことのない名前だ。

 首をかしげるメリアローズの前で、リネットは穏やかに微笑んでいる。


「メリアローズ様、タピオカガエルという生き物をご存知ですか?」

「……いいえ、知らないわ」

「そういった名前のカエルが、存在するのですよ」


 リネットは穏やかに微笑んでいる。

 だが、メリアローズはその微笑みを恐ろしいと感じてしまった。


 タピオカミルクティーなる名前の謎の飲み物。

 そして、タピオカガエルという種類のカエル。

 まさか、この黒くてぶつぶつとした塊は……!


「カエルの、卵っ……!?」


 そう気づいてしまった瞬間、メリアローズはひっと息をのんだ。

 いくらとんでもない紅茶を用意しろと言ったからといって、まさかあのリネットが、カエルの卵をミルクティーにぶちこむなんてクレイジーな真似をするはずが……!

 恐れおののくメリアローズを見つめながら、リネットはにこりと笑う。


「…………と、思いますよね? ご安心ください、メリアローズ様。タピオカはただのお菓子を作る材料です」

「なんだ、違うのね……!」


 メリアローズは安堵のあまりその場に崩れ落ちた。

 よかった。王子の(以下略)隊の苛烈な任務に耐え切れず、リネットがおかしくなってしまったわけではないらしい。


「もちろん、タピオカミルクティーは安全な飲み物です。……ですが、その事実を隠して、今のようにカエルの存在をちらつかせながらジュリアさんに差し出すのです」

「……!」


 メリアローズはリネットの策に感心した。

 なるほど、今のメリアローズが見事にひっかかったように、きっとジュリアもタピオカミルクティーをカエルの卵が入ったミルクティーだと思い込むであろう。

 カエルの一部が混入した飲み物を飲ませるなど、もはや悪役令嬢を通り越して魔女である。

 きっとジュリアはメリアローズの悪行に恐れおののき、王子はメリアローズを糾弾するであろう。


「ふふっ、完璧じゃない……!」


『悪役令嬢メリアローズ! 僕の大切なジュリアにタピオカミルクティーを飲ませた罪で、国外へ追放するっ!』

 という、怒りに震える王子の断罪の声まで聞こえてくるほどだ。。

 まぁ、本当に国外追放を宣言された場合は、タピオカミルクティーが安全な飲み物だと説明して保身を図ろう。


「オーホッホッホ! 待ってなさい、ジュリア!!」


 放課後の作戦室に、メリアローズの高笑いが響き渡った。


 一方、ウィレムとバートラムはタピオカミルクティーにはまっていた。


「この食感が癖になるな」

「なるほど、これは女の子を誘うのに使えるッ……!」


 それぞれの思いを抱えたまま、やがて作戦実行の時がやって来るのだ。

本作「悪役令嬢に選ばれたなら、優雅に演じてみせましょう!」ですが、本日よりコミックシーモア様でコミカライズ版の先行配信が開始しました!

メリアローズたちが動きます! 表情豊かでめっちゃかわいいです!!

大臣やメリアローズパパといった、惜しくも書籍版ではイラストにならなかった方々もばっちり出てきます。

メインキャラが一通り出てくる10ページ弱の試し読みもありますので、ぜひぜひ見てください!!

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