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悪役令嬢の華麗なる浮気調査①

「シンシア、この前チェックしたお店には絶対行くわよ!」

「はいはい、わかりましたから座ってください、お嬢様。危ないですよ」


 侍女のシンシアに諫められ、メリアローズは慌てて馬車の座席に腰を下ろす。

 それでも、きょろきょろと窓の外を眺めるのはやめられない。

 今日は学園も休みの休日だ。更に空は青く晴れ渡り、いかにもなお出かけ日和なのである。

 これは幸いと、メリアローズは侍女のシンシアを供に、城下町へ繰り出していた。


「ふふ、やっぱり自分から出向いて買い物をするのって、楽しいわね」


 以前ウィレムにデートに連れて行ってもらって以来、メリアローズは城下町でのショッピングに夢中になっていた。

 さすがに一人での外出は許してもらえないが、こうしてお供がいれば、好きなように城下町ショッピングを満喫できるのだ。

 今日は何を買おうかしら……と、メリアローズは胸をときめかせながら、大通りに並ぶ店の数々に視線をやった。

 好天に恵まれた休日ということで、大通りにはメリアローズたち以外にも、多くの人が繰り出していた。

 楽しそうに通りを行き交う人々を見ていると、ふと、とある記憶が蘇る。


 ――そういえば、ウィレムとデートをしたのもこんな日だったわ……。


 あの時、バートラムに挑発され、メリアローズは半ば自棄になったような形でデートの相手を探していた。

 偶然会ったウィレムがその役を引き受けてくれたからよかったものの、もし、その辺の適当な男を相手に選んでいたら……今頃はどうなっていたのだろうか。

 そう考えるとなんだかおかしくて、メリアローズはくすりと笑う。

 するとその様子を見たシンシアが、不思議そうに首を傾げた。


「どうかしましたか、お嬢様?」

「ううん、ちょっと昔のことを思い出して、ね。それより――」


 次はどこへ行きましょうか――と窓の外に視線を投げかけたメリアローズは、視界に入った色に驚いて目を見開いた。

 人ごみに紛れていても、すぐにわかる。

 陽の光を浴びて輝く淡い金の髪に、メリアローズの視線は一瞬で吸い寄せられたのだった。


「ウィレム……?」


 彼も街に出ていたのか。

 様子を見て声を掛けようかと、メリアローズは窓に顔をくっつけるようにして目を凝らす。

 そして、気づいた。

 ウィレムは一人ではなかった。


 彼の隣にいるのは……メリアローズ達より少し年下であろう、小柄な少女だったのだ。


「お嬢様? どうなさいました、お嬢様?」


 窓の外を眺めたまま固まってしまったメリアローズに、シンシアが訝しげに声を掛ける。

 いったいうちのお嬢様は何にそんなに気を取られているのか……と、同じように窓の外へ視線をやったシンシアも、気づいてしまった。


「あれは、ウィレム様……ですよね」

「……」

「一緒にいらっしゃるのは――」

「…………」

「ほ、ほら……きっとウィレム様のご友人ですよ!」

「……学園では、見たことのない子だわ」


 メリアローズは縫い留められたように、ウィレムとその隣の少女から視線が外せなくなってしまった。

 ……あの少女はいったい誰なのだろうか。

 ロージエ学園の生徒ではないし、貴族同士の社交の場である、お茶会や夜会でも目にしたことはない。

 それに……少し二人の様子を見ているだけで、随分と親密な間柄だということが見て取れる。

 少女がすれ違う人にぶつかりかけると、ウィレムは優しく彼女の肩を引き寄せ、何か少女の耳元に囁いている。すると少女は、くすくすとおかしそうに笑った。

 その自然な雰囲気に、メリアローズの胸はつきんと痛んだ。


 ――今まで、ウィレムが女の子にあんな風に優しくするところ……見たことないわ。


 ウィレムとて伯爵家の貴公子だ。女性に対するマナーは心得ているだろうが、メリアローズは今まで彼があんな風に女性と親しくしている場面を、見たことはなかった。

 仲睦まじい二人の姿を見ていると、胸がざわめいてしまう。


 ……彼はメリアローズと一緒にいる時、あんな風に楽しそうにしていただろうか。


 ――いいえ、私よりも、あの子と一緒にいる時の方が楽しそう……。


 メリアローズを好きだと言ってくれた、彼の言葉を疑いたくはないが……どうしても、自信がなくなってしまう。

 ウィレムが、メリアローズの知らない間に心変わりをしてしまったのではないかと……。


 ウィレムと少女に気を取られていたメリアローズは、ふと、シンシアが先ほどから全然喋らなくなってしまったことに気がついた。


「シンシア、どうし――」

「……行きましょう、お嬢様」

「えっ?」

「追いかけるんですよ! ウィレム様とあの女性の後を!!」

「えぇっ!!」

「ウィレム様にならお嬢様を任せられると思ったのに……もしもあれが浮気だとしたら、許してはおけません! このシンシアが天誅を下します!!」

「ちょっとちょっと……!」


 物騒なことを言いだしたシンシアに、メリアローズは慌てて彼女を諫めようとした。

 だがいきり立ったシンシアは、荒ぶる闘牛のように今にもウィレムに突撃しそうな勢いである。


「誠実そうに見せかけて二股! いえ、それ以上なのかもしれません! そんな浮気野郎に大事なお嬢様を託すことができましょうか!!」

「ウィレムはそんな人じゃないわ!」


 メリアローズがとっさにそう口にすると、シンシアは不服そうに、じっとメリアローズの方をを見つめた。


「……じゃあ、確かめましょう、お嬢様。このまま屋敷に帰ったら、寝覚めが悪くてうっかりウィレム様の暗殺計画を企ててしまうかもしれません」

「それは困るわ……」


 仮にも公爵家の令嬢が、こんなストーカーまがいなことをするべきではない。

 だがウィレムとあの少女のことが気になっているのは、メリアローズとて同じだ。

 迷った末に、メリアローズはシンシアの言う通りウィレムの後を追うことに決めた。


「いい? 私が何か言うまで、ウィレムに声を掛けたり突撃してはダメよ。わかった?」

「かしこまりました、お嬢様」


 衝撃的な場面を見てもメリアローズが比較的冷静でいられたのは、自分よりシンシアの方がよほど荒れ狂っていたからだろうか。

 人間、自分よりやばい状態の相手を見ると、自然と落ち着きを取り戻すものである。


 そっと馬車を降りると、随分先をウィレムと少女が並んで歩いていくのが見える。

 シンシアの手綱を握りながら、メリアローズは二人にばれないようにそっとその後を追い始めた。


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