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一話:色々あって、転生した

「じゃぁ、これでパーティは解散だな」

共に冒険したパーティの面々。それらを思い浮かべながら、台座に半ばまで突き刺した聖剣を強く握る。

『魔王討伐』のために前触れもなく、日本から異世界に召喚された俺は当時、猛烈に混乱した。しかもいきなり「貴方は勇者です」なんて、何のネタか聞いてやろうかと思った。

そんな俺だったが、色々あって僅か十八年で討伐に成功した。


…その色々の中に仲間達の死があるのだ。


仲間四人の他にはいかなる者でもパーティに入れることなく、終いには『孤高の英雄』とまで呼ばれるようになった。自分でも凄い馬鹿だなと思う。その四人に叱られる、なんて日本的な大義名分を挙げていたし、実際馬鹿だったと思う。


本当はただ、異世界に来て初めての仲間以外を信用出来なかっただけなのだ。

異世界転移を経ても、俺の人見知りな性格は治らなかったのだ。

転移直後も、知人が共に転移していればあの仲間達だって仲間として見無かっただろう。


だが訓練期間二年間、魔王討伐の十四年の初期に寝食を共にしたことで、あの仲間達は元の世界の親友よりも大切な者達となっていった。


それこそ、期限ギリギリまで彼等を復活させる方法を模索していたほどに。

紛れも無く、彼等は俺の仲間だ。


そうはいっても、やはり壁役でもいいから雇ってれば、もっと俺の生存確率を上げられただろうに。今生きているから良いものの、危なっかしい場面は日常的にあった。


だが、そんな冒険も今日で終わりだ。


魔王の生き血を吸った聖剣は、台座に刺すことで召喚された勇者を元の世界へ送還出来るのだ。


さらば異世界、俺を勇者として扱ってくれた国々よ。


だが俺は、仲間達にしかここにいる価値など無かったのだ。


…あぁ、せめて最後にパーティの顔を、ゾンビでもいいから見たいな…


俺は聖剣を台座にしっかりと刺し込んだ。



δ



元の世界に帰った俺は、先ず家族に会いにいった。


勇者として活動していた数瞬前とは違い、身体の反応が鈍かった。これが俺なのか、と少しだけ落ち込み、事実を受け入れた。


仲間を失ったことが衝撃的過ぎただけで、精神は勇者のものを持っている俺は結構打たれ強い。実際対魔王戦では右手が千切れていた状態で攻撃していた。今の一般人の身体でも、それと似たようなことを出来る自信がある。


それに、元勇者にとって帰還後の人生は、余生みたいなものだ。理由は今、手に持っているこれだ。


袋に入っているが、異世界の国々で謝礼としてたわまった宝石と、魔道具達である。


これを売ったり、使用したりするだけで孫子の代まで遊んで暮らせるのだ。



δ



「お、亮太。帰ったか!」



家に着くと、男勝りすぎる母に出迎えられた。

少しの会話を交わして自室に向かい、ドアを閉めて一息ついた。



「まさか異世界に喚ばれてから一日すら経っていないのか?」



俺は母親との会話に、とてつもない違和感を覚えた。

心を鎮めて前を向いた直後、俺は部屋に入ったところにある姿鏡を見て持っている皮袋を床に落としてしまった。


召喚前から一箇所以外全く変わりない自分が、こちらを観察していた。変わっているのは、眼だけ。達観しているような、ウザさを感じた。


異世界で、だが、俺は数えれば三桁に上るほどの修羅場を潜り抜けてきた経験がある。その賜物と考えておこう。二年間の訓練を経てその回数なのだから、訓練期間を設けてくれた帝国には頭が上がらない。だが、同じく訓練を受けてきた俺の仲間達は死んでしまったため、おそらく訓練で指導官を提供してくれた帝国が魔王の力を測り損ねたのだろうが。



δ



帰還時に持って来れるものは、無形のものも含めて三つのみ。しかも、記憶もそれに含まれるという仕様で、実質持てるものは二つだ。俺が持ってきたものは記憶と、一袋の財産や魔道具と、魔力である。


魔道具を使うために必要な魔力は、帰還時に持ってくるのが当然な気もするだろうが、普通はパーティの一人を持ってくる枠である。


俺の仲間は先に逝ってしまったからな…


魔力なんて必要ないと声を大にして叫びたい。それよりも仲間を生き返らせてくれ、と。だが、異世界で魔道具に頼り切りだった俺には、魔力を諦めるなんて無理だ。「魔力があれば…!」なんて俺が嘆いている様子がた易く想像できる。


異世界に居た時間は約十八年間。元の世界での年齢よりも長く居ると帰れなくなるなんて言い伝えがあるから、毎日のように日数を、カウントしていた。だから、異世界での癖が染み付いているのだ。


さぁ、魔道具の魔法を発動準備状態に出来た。何をするのかって?


発動するに決まっている。



δ



「ジャーツィ ドゥーマ」



魔道具の名前を現地の言葉で唱えてみた。「付与されたジャーチ発動」と言っているのだと解釈してくれ。


ジャーチは明かりを燈す高位魔法なので、指輪から出た光が部屋全体を均一に明るくした。ちなみにこの光は半永久的に消えない。エコなのである。


だが…



「眩し過ぎるわー」



…とりあえず部屋から退散し、公園に向かった。


決して明る過ぎる部屋になってしまったという現実から逃れようとしている訳ではない。


そう、次の魔道具を使う実験を行うためである。

何故か本来の三倍ほど、効果が強い気がするためである。


杞憂だと良いのだが。



δ



「ゲーディンクス ロムス ジェイクダヴ」



そこで確認のため、効果固定の魔道具(魔剣召喚系)を使ってみた。焔を収縮する派手なエフェクトの後、俺の手にすっぽり収まった。


知っている大きさの約3倍で…あ、長さな?

って…これ重過ぎ。


地面に深々と突き刺さった魔剣を不思議そうに見ているじゃないか。プレイングボーイ達が。



「兄ちゃん!そのでっけぇ剣みたいなヤツ、何だ?」



メンドクセェ…



「うん、ただの魔剣だ。見る価値もないぞ」



事実、聖剣はこれの数百倍の力を誇っていたからな。でかいだけの魔剣など、取るに足らない。だから送還してやる。



「は?消えた!?」



こんなことで驚くなんて、器がちっさいな。全く…


いや!


そういえば元の世界では魔法なんて無かったんだったか!


忘れてた。



δ



その後色々あって、悪の組織本拠地をただの魔剣を落とすことで破壊したり(善悪の基準は俺主観)、戦争に駆り出されたり(国からの命令)した。


で、気づいたら死んでた。


好き勝手し過ぎたようだ。盛者必衰というからな。



δ



その後色々あって転生した。どうやら、転生というものは記憶だけを赤子に植え付けるものであるらしい。人格は何処かに消えた。


一人称も「オイラ」に変わり、人見知りな性格も改善されたが、人格はやたらゲスとなった。



ゲスゲ〜スッスッスッス!



商人の子として生まれたオイラは、何故か俺が勇者として活動していた世界に転生した。


おまけに、俺が召喚される少し前の時代だったということもあり、十歳になる前に頭角を現せた。



商人として。



主に災害を予言し、被災地に補給品を持って訪れたり、魔王支配地のところには爆弾をたくさん置いていってあげたりした。


お金は皇帝直々に調達できて、経費以外にも色もたっぷりつけてくれた。


おかげでオイラも十歳目前にして一流の商人になった。



ゲスゲ〜スッスッスッス!



そして今日、オイラの誕生日がある。十歳のものである。これはこちらの世界の商人が独立できる年齢だ。


そう、これで一人前の商人として独り立ち出来るのだ。



ゲスゲ〜〜スッスッスッス!

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