表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/166

 ひな祭りの用意。異世界編 ②

 昨日は失敗だった。いや……昨日も失敗だっただな。

 連日の失敗続きでめげそうだけども、このくらいで諦められないからな。

 昨日の失敗のについては理由がはっきりしているし、そこを反省して今日こそはミカに会う!


 ミカの件が進まなくては話にならない。

 チョコレートでお忙しいお姫様の手をわずらわせる事なく、お姫様に気づかれることなく進めなくてはいけないのだ。


 昨日の失敗の理由は準備不足。だが、俺は同じ轍は踏まない男。

 同じ失敗を繰り返さないためにはアレがいる。そう、──賄賂が必要だろう!


 そして賄賂といえばお菓子。時代劇でもよくあるしな。そしてお菓子といえばお菓子屋さん!


「へい、いらっしゃい……なんだ零斗(れいと)じゃねーか。冷やかしか?」


 賄賂を買うために入った、お隣の和菓子屋の店内。俺の顔を見るなりそう言われた……。

 いつもは競馬新聞読むのに忙しいおっちゃんは、今日は何か書き物をしていたらしい。というか、おっちゃんだと?


「なんでいつも冷やかしが前提なんだよ。つーか、おっちゃん。死んだんじゃなかったのか?」


「いつだよ……。毎日こうして店に出てるわ! だいたい、隣のオヤジが死んだら流石に分かるだろ!」


 おっちゃんはキレて自分の死亡説を否定する。

 しかし、俺の記憶では確かに死んだはずだ。

 だが、生きていたならいたでちょうどいい。


「そんなことはどうでもいいんだ。お菓子を千円分くらいで見繕ってくれ」


「……」


「手土産としていくつか欲しいんだ。女の人が喜びそうなヤツを頼む! プロの目線でチョイスしてくれ!」


 イラッとされたのは間違いないが、おっちゃんでも俺が客だと分かれば、流石にキレたりはしないらしい。

 そして、お願いした通りにおっちゃんは、お菓子の入ったケースから、いくつかお菓子をチョイスしていく。


 これが秘策というか間違いない選択だ。お店の人に選んでもらうという、もう間違いようのないな。

 昨日の失敗は手土産がなかったからだ。間違いない!

 あれでは門前払いにされても仕方がなかった。それを踏まえて今日は天国の門へ行こう。


「ほらよ。こんなところだろう」


「流石はおっちゃん。俺ではこうはいかない!」


 プロに選ばせた和菓子。これ以上はない手土産でしょう。いや、念には念をを入れて二重底にして、下に金色のやつも必要だろうか?

 しかし、あれは断られた場合がマズイよな……。


「今度は何をやってやがんだ?」


「なにもしてないよ。ただ、あそびにいくのにおみやげがあったほうが、いいかとおもっただけだよ」


 言った以上の事は言えないので誤魔化すしかない。追及されても、それっぽい事を言って誤魔化そう。


「警察のご厄介になるようなことだけはすんなよ」


「──しねーよ! 俺のことをどう思ってんだよ!」


「ならいい……」


 どうして俺の評価はこんなんばかりなのか!? 真面目にやっているし、生きているのに。

 ……あのヤンキーたちのせいか?

 あんなのと一緒にいるからなのか。今度、頭を真っ黒に染めさせよう。もしくは丸刈りにさせよう。


「じゃあもういくから。あぁ、ひな祭りはいつものやつね。ママンが言ってた」


「はいよ。毎度ありがとうございます。って言っておけ」


 よし、これで準備は万端!

 今日も元気に天国に行ってみよう!



 ※



 大工衆の進捗を確認して、お姫様のご機嫌とりをして、二クスからおっさんたちの進捗を聞いたりしていたら、だいぶ時間がかかってしまった。


 賄賂のお菓子を買ってはきたが、これにお姫様の分は含まれていない。

 それなのに目ざとく袋を見つけられた時は、どうしようかと思ったーー。


 お姫様に勘づかれるわけにはいかないのだ。これは秘密の案件なんだから。

 なんとかお姫様を誤魔化し、ようやく今日もここまで来た。今日こそはミカに合わなくては!


「……貴様。昨日の大天使様の言葉を聞いていたのか?」


 門のあるところまでは来たが、インターホンもない。アポの取りようもない。そもそも、狙い撃ちされるから門まで近づけない。

 そんな状況の俺は、とりあえず昨日の天使ビームで穴の空いたままのところまで進んでみた。そしたら、昨日の頭の固い天使が、呼んでもいないのにやってきた。


「お前に用などない! ミカエルさん。もしくはガブリエルさんを呼んでこい!」


 しかし、この天使くん。ちょうどいいところに出てきてくれた。こいつにどちらかを呼び出してもらおう。


「貴様──」


「いいのか? 昨日ここでやるなと言われてたよねー。俺は昨日の位置から進んでない。もしこれで手を出したら、悪者はキミだよ。天使くん」


 この天使くん。こいつが昨日のやりとりで、ガブリエルさんには逆らえない事は判明している。

 それを利用しない俺ではないし、野郎なんぞに容赦も遠慮もない。


「これでは手は出せないよな。ザマァみろ! さあ、大人しく言われた通りにするんだな!」


「馬鹿め。取り継ぐわけがあるまい。そうして、そこで好きなだけ立っているんだな!」


 それだけ言うと天使くんは俺に背を向け、嫌なやつ特有の笑いをしながら去っていこうとする。

 嫌なやつだとは初めから思ってたが、やっぱり最悪だった。


「お前、性格悪いぞ。それでも天使か! ミカを見習えよ。クソ天使が!」


「ミカエラ様とお呼びしろ……」


 こいつも天使だというだけで、自分のとこの姫が大好きな人だ。信者だ信者。

 しかし、この世界の姫たちは愛されてるねぇ。

 ミカも見てくれは悪くないし、あのプニプニは魅力的だけどさ。勘違いの姫だからなー。


「──黙れ、お姫様大好きマンが!」


「何を言う、当然のことだろう!」


「どうせあのプニプニに目が眩んだだけだろう。自分たちの姫をいやらしい目で見ている変態野郎が」


「なっ、なんの話だ。そんなわけがあるまい! プニプニなどと……」


 俺に掴みかかろうとしてくる天使くんを、お土産の袋を使って阻む。

 こんなプニプニに目が眩んだ、変態野郎なんかにやられる俺ではない。返り討ちにしてくれる!


『何をしているのですか?』


 そんな一進一退の攻防が続いていたら、不意に天から声がした。その声は昨日と同じ声。

 ──やった、ガブリエルさんや!


「聞いてください、この天使が酷いんです!」


「──何を言う。貴様の方がよほど酷いぞ!」


 またもついている。今日は運が味方してくれているな。

 この天使を悪者にしたてて、それを口実にガブリエルさんに取り入り……ふふふふっ……。


『貴方たち2人ともに言っているんです。話を聞いていなかったのか。わざとそうしているのか。どちらでしょう?』


 ガブリエルさんは昨日と変わらぬ口調だが、何というか、ひしひしと感じるものがある。

 たぶんだが、ものすごく静かにだが、これは怒っていない?


(おい、天使くん。ガブリエルさんは怒ってる?)


(ま、マズイぞ……。天使長が怒ったらただではすまんぞ)


 姿も見えないのに、声だけなのに、なんかこう空気がビリビリする感じ。雲より上にいるわけだが、雷でも鳴っているような気がする。

 それに天使くんの顔色がヤバい。真っ青だ。


『そうですね。反省文を提出してもらいましょうか。ノート1冊分くらい。内容は心配せずとも大丈夫ですよ。ごめんなさい。と永遠書いてくれればいいですから』


 な、何それ……。超こわいんですけど。

 そんな狂気じみた罰を課せられるの?


「──申し訳ありませんでした! すぐに配置に戻りますので、ご勘弁ください!」


『わかりました。今日のところは見逃しましょう』


「──はい! 失礼します!」


 ガブリエルさんの見えない圧に、2人ともガクブルしていたのに天使くんは自分だけが謝り、さっさと配置とやらに戻っていった。

 あの野郎。俺を見捨て自分だけ助かりやがった。反省文から逃れやがった……。


『何故、また来たのですか?』


「昨日は、お土産がなかったから入れてくれなかったのかと思って」


 問答無用で反省文なのかと思ったら、ガブリエルさんは話を聞いてくれるらしい。マジ天使!

 ならば、ここで持ってきたお土産をアピール。

 だが、ただのお菓子ではやはり心許ない。二重底にした方が良かったのかもしれないな。


『そんなことは関係ありません。何度来ようと門は開きません。帰りなさい』


「えー、お菓子買ってきちゃたんで」


『帰りなさい』


 こえー、姿がないのに怖いよーー。冷たいよ。声が凍りそうなくらい冷たい。

 どっから声が出てんのよ。どういう仕組みなのよ。


「はい」


 怖いからそう言うしかないじゃん。

 これ以上は、ガブリエルさんを刺激しない方がいい。今日は。


『次はありませんからね』



 ※



 お土産ではダメだった。グサリと釘も刺された。

 しかし、引き下がるわけにはいかんのです。あと、昨日のお土産はお姫様が美味しくいただきました。


『今日も来ましたか。まったく(わたくし)の話を聞いていないようですね……』


「聞いてるけど来てんだよ。連絡手段が何もないんだ。何より合って話したい。あわよくば連れ出したい」


『聞き分けのないところが、ミカエラとそっくりですね』


「なんでもいいんで入れてくださいよー。日にちがないんすよー。そういうわけなんで、今日は中に入れてくれるまで、ここから動かないって決めてますから!」


 今日は現実では2月28日。つまり異世界では3月1日なんだ。

 異世界側の日付は誰かのせいで1日ズレてるんだ。誰かのせいで!


 いよいよもって、ひな祭りまで時間がないんだ。

 なので、今日は泊まり込む覚悟だ。寝袋も食料も持ってきた。準備は万端だ。


『その大荷物はそれですか』


「食料もジャンクだけどある。入れてくれないと俺は本気でやるよ? ここにずっといるよ?」


『はぁ……』


 ガブリエルさんはどう見ているのかは分からないが、俺の様子を見てだろう。ため息をつく。

 だが、これはどっちの反応だ? 怒ってないっぽいし、熱意に負けたパターンであってほしいな。


『──つまみ出しなさい。抵抗するなら多少は痛めつけても構いません。そして、これは正式に抗議します』


 考えられた中で最悪のパターン!?

 痛めつけてもいいとか、下手に抵抗したら天使ビームもあるかもしれない!


「毎日毎日、性懲りも無く来おって! しかし、ようやく貴様ともお別れだ!」


 ガブリエルさんの一声で、ゾロゾロと門のところの警備の天使たちが現れた!

 こんなに一気にこられては抵抗のしようもない。


「くそー、諦めんぞ。ここで俺を倒したところで、第2第3の俺が……──あーーーーっ!」


 警備の天使たちに両脇を抱えられ、さらにぐるりと囲まれながら、無理矢理ゴンドラへと押し込まれる。

 そして天使くんがゴンドラを操作し、ゴンドラが下に動き出してから、自分は羽を生やし悠々と窓から外に出ていった。


 んで、動き出したゴンドラは急速に降下を開始するし、なんか操作板がバチバチいってる。


「あ、あの天使。ボタンを壊しやがった! これでは上へのボタンをもう押せない!」


 操作板には下へのボタンしかなくなってしまった。

 城下へは着いたら自動で戻る仕組みだから問題ないかもだが、天国へはこれなくなってしまった。

 これではミカのところに繋がる唯一の窓口を失ったことになって、ひな祭りは失敗に終わる……。


『困ったやつ。こほん……門の中に入るためのヒントは最初に出しましたよ? 門から中へは入れないと。頭を使いなさい』


「えっ、ガブリエルさん? 今のはどういう意味が……──もう少しヒント! マジで時間がないんだ!」


 何が起きたのかは分からないが、ガブリエルさんの声が聞こえる。教えてくれるなら教えてもらわねば。


『仕方ないですね。貴方がこの世界へと来る方法。これはもう答えですね……』


 やれやれと言わんばかりの声だった。そして、これっきり声は聞こえなくなった。

 そしてゴンドラはかつてないほどの速度を出している! 変なとこ壊れてない? ちゃんと止まるよね!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ