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 さっそく予定変更。しょうがない。

♢5♢


 我が家と商店街裏を、特に誰にも気づかれることなく抜け、無事に駅まで到着。そこから電車に乗り約10分。二駅先までやってきた。

 ここは市内の中心部かつ、最大の町であり、基本的になんでもあるところだ。


 俺の通う学校も最寄駅はここだ。バイト先もここ。遊びに来るのもここと、中心部というのがよく分かるだろう?

 なんでもあるってのは素晴らしいのだよ。だが、買物するだけなら商店街でも済むだろう。

 しかし、今日はチョコレートがメインなのだ。


 あの場所に住んでいる俺から言わしてもらうが、『──バレンタインらしさはあそこにはない!』それと、『──決して、女の子と歩いてるのを見られるのが、恥ずかしいとかじゃないんだからね!』以上だ。


 さて、前置きはこのくらいにして話を進めよう。


 実は、ここに来るまでもすごく大変だったのだ。もう疲れたんだ。何があったのかというとな……。

 見る物全部が珍しいお姫様により、俺は怒涛の質問責め。あまりのことに、短時間でかなり疲労した気がする。通学時と同じ電車に乗って来ただけなのにだ。


 そんな俺とは対照的に、お姫様はすこぶる元気だ。それに世間知らず。流石は箱入りのお姫様だ。

 こちらの事が分からないのは大目に見よう。しかしだね。


「──すごいわね! 電車、あれも欲しい!」


「電車なんて売ってない。そもそも、あんなの個人が所有するわけないだろ。どこ走らせんだよ!」


 あれもって……いくらする、というか持って帰れるわけないだろ。おもちゃじゃないのよ?

 自販機にも同じようなことを言った気がする。


「そうなの?」


「そうなの! 個人が所有する乗り物は、そこら辺を走りまくってる車だ。あれとか、あれとか、あれとかだ!」


「なら、車なら買える?」


 金銭感覚もお姫様なこいつは終始この調子だ。

 あれも欲しい。これも欲しい。って、向こうなら買えてしまうのだろうか? だとしたら、こわいわー。


「……買えなくはない。だが、乗れはするが運転はできないぞ? 専用の資格が別に必要になる。電車もそうだ。資格がないと動かせない」


「あるだけではダメってことね。ならしょうがない。今日のところは諦めましょう」


 今日のところはなんだ……。

 次は車、買っちゃうのかな。姫、こわいわー。


「まぁ、なんだ。車の話は終わりにして、今日の予定を発表する。ここまで一切言うチャンスがなかったわけだが、それももういい」


「そういえば、どこに何をしに行くの?」


「よくぞ聞いてくれました! しかし、決めてあった予定は急遽変更されました。本当はチョコレートを最初に持ってくるつもりだったんだが、その前に服を買いに行く!」


 俺のリサーチ不足。というか知るわけねー。

 お姫様が姫な服しか持ってないとは知らなかったよ。

 この先もいちいち、ミッションインナントカするわけにもいかないし、お姫様に服と靴は必須だ。


「……誰の?」


「──お前のだよ! これからもいちいち借りてたんじゃな。なので、服を買ってやるから先にそっちに行く」


「これからも……」


 予定変更してでも先に行くべきだ。

 目的地にも服は売ってるのだが、予算的な問題がある。予算的な。な。

 そこでお手軽価格なお店に行ってから、予定コースに戻ることにした。


「んっ、今なんか言ったか?」


「別に」


「なら、さっそく行動開始する。まずは移動だな。こっからだとバスがいいか? いや、節約だな……」


 いくらかかるか分からない。僕、女の子の服の値段なんて分からない……わからないよ。

 バス代すらケチるのはどうかと思うが、帰りはともかく行きは節約ということで。お出かけ日和だし!



 ※



 そんなわけで徒歩にてやって来ました。ユ◯クロです! ここなら俺の財布でも大丈夫だ。大丈夫なはずだ。大丈夫だよね?


 ときに……みんなもユ○クロ好きだよな? な!?

 おかしくはないよね? 女の子も行くよね?

 俺、自分では基本的にユ◯クロしか行かないんだけど。オシャレとかあまり興味ないんだけど。


「着いたが……女の子も女の人もいる。むしろ多い! 良かった。これなら、お姫様をお連れしても大丈夫だ」


「ここは服が売ってるのね。それに、人が多いわね……」


「まあ、日曜だからな。入り口にいてもしょうがない。中に行くぞ」


「……うん」


 なんだろう。いつになく弱気だな……。

 ここまでずっと元気だったのに、急にテンションが下がったな。

 理由はなんだ? 電車は結構空いてたし、ここまでは歩きだった。比べると、人が密集してるってところか。


「もしかして、人多いとこダメなのか?」


「ちょっとね。こんなに人が集まってる場所になんて、わざわざ行かないし」


 ──聞きました!? なんたるお姫様発言!


 確かに、だだっ広い城なら、こんなふうに人が集まってる場所はないだろう。こんな時はあれだ。

 よく迷子になるやつにする、迷子にならないようにするための対処と一緒だ。


 昔、買い物に行った先で、よく行方不明になっていた妹にしていたようにするのがいい。

 とても恥ずかしいが……この際、しょうがないよな。


「ほら──」


「その手はなに?」


「──掴めよ! 俺だって恥ずかしいんだぞ! 嫌なら服でもいいから。ここまで来て、行かないという選択肢はない。俺が先歩くから。入っちまえばそんなに人は密集してない。こっから見える、レジ前には列ができてるけどな」


 わずかに逡巡したお姫様は、俺の服の裾を掴むことにしたらしい。

 手を繋いではハードルが高いから、俺としても助かる。妹とはわけが違うのだ。


「前向いてるのが嫌だったら、視線下げて俺の背中とか見るようにして歩け。それなら視覚はなんとかなる。行くぞ」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 店内に入ってすぐ目に入る、今は混み合ってるレジも、買い物が終わるころにははけるだろう。

 そして俺の勘も当たり、レジのある入り口付近には人が多かったが、奥に行けば人はそうでもない。

 みんな思い思いに、服を見て回っているからね。


「──次あっちに行って!」


「はいはい」


「『はい』は1回!」


 テンションが下がっていたお姫様も、今や服に夢中である。あっちこっちと見て回っている。

 興味は人混み嫌いも凌駕しつつあるらしい。


「あれ可愛い! 次、あれ見たい」


「はーい」


「意味なく伸ばさない!」


 このように女子はオシャレ好き。

 これは、異世界だろうと変わらないのか。

 どこであっても共通する理念なのかもしれない。


「……」


 問題は俺である。この間も、俺はずっと裾を掴まれている。となれば、必然的にずっと一緒に店内を見て回るかたちになる。

 なにも1人で行ってこいと言いはしないが、こうしている俺たちは他人から見てどう見えるのか? つい、そんなことが気になってしまう。


 楽しげに会話し、一緒に服を選び、並んで歩く。


 ──いかん、これはいかんぞ! 俺は接待する側なんだ。邪念は振り払わねば。

 なに……お前は邪念の塊だ? ちょっと何を言われているのか分かりません。



 ※



 店内を一周見て回り、一通りの服を選び終えた。

 こいつを脳内で足し算していくと……諭吉さん1人では足りない。2人は必要になる。それで足りるかどうかというくらいです。


「こんなもんか。しかし、一度に全身揃えるとなると、結構な額になるのな……。女の子の服というのはお高いんだね」


「次はどうするの?」


「入り口のところのレジに行く。んで、金を払えば買い物終了だ。どこも同じだから覚えとけよ」


「なるほど。だから、みんな並んでたのね」


 最初と違い今はレジの人混みはなくなり、並んでいる人も少ない。

 今がチャンスだとレジへと向かい、待ち時間にお姫様に買物レクチャーし、自分たちの番になり会計を済まし店を出た。


 払いは当然俺だが、荷物も当然のように俺が持っている。別にいいけどな……。

 荷物持ちはよくさせられてる。し!


「誰かさんの支度が遅かったから、次で最後だ。思ったより時間がかかってるし」


 荷物持ちだとしても、このくらいの嫌味は許されるはずだ。

 出発が遅かったから、もう昼過ぎだ。

 帰宅までで夕方くらいまでと考えているので、移動時間も計算するとこんなもん──


「ごめん。あたしのせいで。こんなの、初めてだったし……楽しみで時間掛けちゃったから……」


 あれーーっ?! なんか、俺が悪い雰囲気になってるよね。そんな急降下しちゃう!? 今までご機嫌だったじゃないの!


「だ、大丈夫だぞ! 次はデパートだ。メインがなくなったわけじゃない。というか、そこ以外がオマケだからな!」


「……ごめん」


「──だ、だ、大丈夫だって。むしろオマケがなくなったからメインが際立つというかなんというか……。とにかく、問題ない! 気にせず行こう!」


 やらかしたのが分かったから、なんとかフォローしようともう必死である。

 しかし、言っていることは事実だろ? チョコレートがメインなんだから、あとはオマケだ。


 はぁ……我ながら情けない言い訳だ。

 家族から『おまえは口が悪い』と言われるから、気をつけてはいるんだが、やらかしてしまった。


「ほら、行くぞ。あそこのデカい建物が目的地だ」


「……うん」


 やっちまった……。


 まさか今日を楽しみにしてたとは思わなかった。

 ただの興味本位だと思っていた。

 けど、違ったのだ。それだけではなかったのだ。


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