なんかヤンキーに絡まれる ②
金髪のヤンキーに絡まれた前回からの続きだ。曲がり角で、肩がぶつかったヤンキーが絡んできた。
出会い頭だったし、双方謝るべきところだが、流石はヤンキー。絡んできた。
しかし、俺は柔らかい人。繰り返すが、硬いもの同士がぶつかるから揉めるのだ。片方が柔らかければ揉めない。
絡まれても大人な対応ができる。平和に解決できる。
「すいません。クソダサい金髪の人。めんどくせぇから、朝から絡んでくんな」
「ふざけてんのか!」
「──おっと! 暴力ですか? 人を呼びますよ。クソダサい金髪のピアスの人。だいたい、そんなんで学校に行ったら、先生に怒られますよーー」
これくらいは、まぁまぁよくあることだ。田舎には未だにヤンキーが生息している。
こういうのがカッコいいのは中学生までだと思う。高校生にもなってこれはないわーー。ダサっ。
「2人とも朝からコントやってないで。遅刻するよ?」
ヤンキーの後ろから、もう1人ヤンキーが現れた。
こいつは頭こそ染めてないが、ピアスにマスク。目の下のクマがすごいやつ。
金髪ヤンキーとマスクヤンキー。2人組か……。
左右を挟んで『ちょっとこっち来いや』ってやって、人気のないところに連れて行き、ヤンキー的行動をするつもりか……クズ共め……。
「まるで知り合いのように話かけないでください。お巡りさんを呼びますよ?」
「イチャイチャしてたの見てたかんな!」
「なに? ルイのストーカー。通報しなくちゃ……」
「──零斗! テメェ、いい加減にしろよ! なんなんだ、さっきから!」
やだ、俺の名前が知られている。やだ、ヤンキーに名前知られてるとかこわいわー。
これは元ヤンに頼んで、俺の名前をヤンキーたちの記憶から消してもらわなくちゃいけないかも。
「馴れ馴れしいぞ。誰だ、お前たちは。俺の知り合いにヤンキーなどいないぞ。ポッと出の雑魚キャラみたいな顔しやがって。そんなモブキャラの分際で話しかけてくんじゃねーよ。シネ!」
「おまっ……友達に向かってそんなこと言う?」
「知らない人だから問題ない。ヤンキーに知り合いなんていないし、ヤンキーの友達なんて存在しない。現に俺は、お前たちの顔も名前も知らないよ? 記憶にございません。名前もないモブキャラの人たちよ。では」
「何でこんなにつめてーんだよ! オレなんかした?」
──した。忘れもしない。
こいつらは俺からの相談事を、『リア充氏ね』と返してきたんだ。そんなヤツは友達じゃないよね? 元から友達ではないかもだけど。
だから、とことん冷たくいきます。まるで他人のように。今出てきたばかりの新キャラのように!
「とにかく話しかけてこないでもらえますか? ボク、学校に行かなくてはいけないので失礼します」
朝飯も食ってないし早く学校に行きたい。そんで、購買のパンが食べたい。朝一なら好きなのを選べる。
朝飯の時間を考えると、今日はバスがいいな。
「おい、学校同じじゃねーかよ! 無視……すんなよ」
「あれはかなり怒ってるね……」
知らない人たちに怒ってるも何もない!
しかし……なるほどな。これは今のお姫様たちの状態に近いものがある。俺がお姫様。ヤンキーズが天使。
不本意だがこのモブキャラたちと会話すれば、何か姫たちの解決に繋がるものを掴めるかもしれない。
「なぁ、オレが何をしたのか教えて? 謝るから」
「どなたか存じませんがひとつ。 ──自分が何をしたのかも分からずに謝るとかwww」
「心が折れそうだ……」
ふむふむ、このくらいで心が折れると。弱っ!
ヤンキーだがメンタルは豆腐。天使もこんなもんだろう。
「零斗。本当にどうしたの?」
「……」
「この距離で無視か。目も合わせない」
あとは目を合わせないでだったな。これは会話がなくても、相当なダメージがあるな。
あると思ってる反応がないというのは辛かろう。
よし、今日はヤンキーズたちと同じバスで行こう。諦めるか、諦めないのかも観察しよう。
おっ、いいタイミングでバスが来た。
「バスきたね」「ほら、先に乗れよ」
「……」
「……ダメか」「うん。でも先には乗るんだ」
学校までの移動中もバカなヤンキーは話しかけてきた。このテンションはどことなく天使を思わせる。
いいよー、そうじゃなくちゃ実験にならないからね。
「────。────」
「……」
「──、────!」
「…………」
だが無論、ガン無視する。
ヤンキーたちの言葉は右から左に抜けていっているので、1文字も分からない。興味もない。みんなも別にいいよね?
「もう無理だ……」
流石に諦めたか。ヤンキーなのに情けない奴。
しかし、通学の時間だけでこれでは、1週間無視されたら天使は大変だ。
姫たちの関係悪化で戦争勃発とかあるかも──
「せっかく零斗が探してたパーツを買ってきてあげたのに、これじゃしょうがない。あれは捨てよう」
「──!」
マスクヤンキーの言葉に、思わず振り返ってしまった。しないつもりだったのに反応してしまった。
や、やられた……。だが、俺的には無視できないことなんだ。かなり重要なことなんだ。
「キミさ、それはどの部分かな?」
「ステム」
「それはどこにあるのかな?」
「学校には持ってこないよ。家にある」
「よし、これから取りに行こう!」
こうなってしまったらしょうがない。
学校まで来てしまったが帰ろう。となると、ここに戻りのバスはしばらくないから、下まで降りてあっちのバス停から駅に行って……。
「いや、校門前まで来て帰んないよ? 放課後にしなよ」
「ダメだ! 今日はバイトなんだ。俺は放課後は忙しいんだ!」
「それじゃあ明日、零斗の家に届けるよ」
「えーーっ、今日欲しい! 今すぐ欲しい!」
欲しい。欲しい。ほしい。ほしいほしいほしい。
はっ──、欲望を抑えられなくなりそうだった……。うっかり他人設定もやめてしまってるし。
しかし、暇なヤンキーたちは遠出して、エクスチェンジマートに行ってきたのか。
いいなー、俺も暇だったら行きたかった。
「今度はしれっと会話に入ってきたな。どういうつもりだ? なんなんだ?」
「あれっ、キミは山田くんじゃないか。いたの。気づかなかったよ。おはよー、でどんなだったんだ?」
「山田くんって誰だよ!? いたのも何も、同じ駅から電車に乗ってきたし。同じ中学だし。友達だろ! そしてオレのことも気にしろよ」
「トモダチチガウ。こんな返事を返すヤツ、トモダチトチガウ」
こうなってしまったら、これもまたしょうがないから、スマホを操作して証拠の文面をヤンキーたちに見せつける。
「あー、これを怒ってたんだ」
「そうだ。俺は真剣に聞いたんだ。それなのに……」
「のろけ話だと思ったんだ。悪かったよ」
「誠意ある謝罪だから許そう。ステムも買ってきてくれたしね。なかったら許さないけど、ステムのためだから許そう」
マスクヤンキーは許そう。
ステムくれるらしいから許そう。
「のろけ以外の何者でもないだろ。さっきだって、小鳥遊さんとイチャイチャしてたじゃねーか!」
金髪ヤンキーの言った小鳥遊さんとはルイのことだ。お隣の和菓子屋さんは、そのまま小鳥遊という店名だ。
まあ、あまり意味があることではないので覚えなくていい。
「でもさ、僕たちの気持ちも少しは理解してよ。あんなのろけ話を深夜にされたら、ああ返すよ?」
「のろけ話ではないと言ってんじゃん」
「でも出掛けたんだろう? バレンタインにチョコも貰えたんだろう?」
「……否定はしない」
イエスとも言わないけどノーとも言わない。出掛けたのはお姫様とだし。
チョコはどちらからも頂いたけどね。
「なんで零斗ばっかり……」
「あっ、山田くん。まだいたんだ。早く教室にいきなよ!」
「山田じゃねーよ! 絶対に鈴木の方が覚えやすいだろ!」
ちっ、金髪が勝手に名乗りやがった……。仕方がないので紹介する。
金髪が鈴木ナントカくん。マスクが佐藤ナントカくんだ。別に覚えなくていいよ。
「スズキくん? どの鈴木くん? いっぱいいるから分からないな」
「佐藤の方がいっぱいいるけどな」
「年中マスクの佐藤くんは彼だけだよ」
「じゃあ金髪の鈴木もオレだけだよ!」
めんどくせぇ……。今日は朝からなんなんだ。
こんなことなら、学校なんて来なければよかったかな。ヤンキーに絡まれるし。
「はぁ……めんどくさ。ところで今の台詞、金髪の前にクソダサいを付けてもう1回言ってみて」
「じゃあ、クソダサい金髪の鈴木もオレだけだよ!」
「──本当に言いやがった! やばい、録画しておけばよかったーー」
実験はこのくらいでいいだろう。サンプルが山田くんだけなので心配だが、無視された場合、天使も同じようなことになるな。
そうなる前に、目前に迫るひな祭りで、ギクシャクしてしまったお姫様たちの関係を修復させなくては。
そのためにはまず明日が大事だ。なので、明日のバイトは休もう。可愛い妹のためといえば元ヤンも許してくれるだろう。
いや、そうなるとステムが貰えない?
ぐぬぬぬぬ……大変残念だが、明日手にしたところで何もできないし、月曜にしてもらうしかないか。
最後に分からなかった語句はググッてくれ。
説明するとうんと長くなるからはしょる。
次回は放課後。それも帰宅まで時間は過ぎる。じゃあ次回ね。




