まるでバトルもののようにたたかう
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家財道具一式くらいを1人で運んできた女の子。
荷物が引っかかったから、無理矢理にその荷物を引っ張って、城門を大破させた女の子。
すさまじい怪力なその女の子の身長は、普通に考えて3メートルくらいあると近づくまで思ってたら、実際にはお姫様と同じくらい。
わずかに向こうの方が高いというくらいだった。その差は、若干。1、2センチくらいだと思われる。
お姫様のだいたいの身長と比較して、怪力な女の子はだいたい160センチというところだろう。
全部だいたいなのはしょうがないよ。身長なんて、だいたいでしか分かんないじゃん? 測ってとも言えないし。体重なんて聞けないじゃん? 死にたくないし。
あと、みんなが気になるところの話もしておこう。お姫様は控え目だが……──彼女は結構ある! ミルクちゃんまでとはいかないが、ルイよりもある!
こう、上はシャツにネクタイだけ。下もミニスカートなもんだから、もうヤバイよね。
どうしても上と下に目がいってしまう。
しかし、これは男のサガだから仕方ないんだと言っておこう。
そして、何故いろいろとこんなふうに比較できるかというとね。今現在、彼女たちは顔を向き合わせて睨み合っているからだね。
もうね。さっきから一触即発な状態なんだ。俺はもう帰りたいなー。
「あー、帰りたいわー」
おっと、口に出てしまった……。
だが、誰も反応しなかったところを見ると、みんな彼女たちに夢中だということだろう。
「「…………」」
ああ、あとな。カチコミに来た女の子は、日焼けなのか焼いているのかは分からないけど色黒。制服みたいな服装も合わさってギャルっぽく見える。
ギャルがカチコミにはこないだろうから、ヤンキーなのかもしれない。異世界にもヤンキーはいたのか。
「久しぶりね、ルシア。相変わらずどこも成長してないようで安心したわ」
──ギャルが仕掛けた。先制パンチだ!
睨み合いに飽きたのか、はたまたこれが戦争が始まる合図なのか。どちらにせよ、口に出てしまったところで帰るべきだったのは間違いない!
「成長してるでしょう。前に会った時より、5センチも身長が伸びたわよ!」
──お姫様が反撃した。しっかり身長測ってた!
この2人。前に会った時から、それなりに時間が経っているっぽい。だからなんだ! そして誰なんだ!
「えっ、ぜんぜん変わんないじゃない……」
「──あんたも身長伸びてるからでしょ!」
「えっ、そうなの!? アタシも身長伸びてるの。まったく気づかなかった!」
この2人は知り合いらしい。なら、これは闘わないんじゃないだろうか?
さっきのは2人なりの挨拶で、2人は本当はとっても仲良し。ということにして俺は帰っていいかな?
だってさ……5センチ視界が高くなったらさ。普通は気づくよね。普通は。
それに気づいてないってアホなのかもしれない。俺、アホの子はちょっと……。
そういうのが可愛いという人もいるけど、俺的にはちょっと。賢い子がいいというわけではないけど、アホな子。しかもギャルはちょっと。
「ふむふむ、身長はお互いに伸びていると。そうよね。ルシアだけならともかく、アタシもそのままなわけないもんね。こんなに成長したし! に対して……そちらはずいぶんとペッタンこよね。ちゃんと食べてるの? それとも、そっちは成長しないの?」
ア、アホの子だったーー!
それはアカン。お姫様はかなり気にしてるんだ。それをそんなにストレートに言うなよ。アホめ。
「……戦争よ」
あーーっ、そして今日は何故だか異常に沸点が低い。そしてついに戦争が始まってしまうらしい。
に、逃げなくては……。あの怪力に巻き込まれたら死ぬ!
「元よりそのつもりで来たんだから、望むところよ! 身長も胸もアタシの勝ちだし、ルシアを打ち負かしてアタシがさらに勝ち越すわ!」
「調子に乗るな! ちょっと発育がいいからって、──頭は空っぽのくせに!」
「なんですってーー! 誰のことよ!」
「あんたに話してるんだから、あんたにに決まってるでしょ。やっぱりバカなのね!」
うん、逃げよう。戦争が始まる前に逃げよう。
バレないうちに撤退するのが一番いい。万が一にも巻き込まれたくないし。
どうせ誰も見ちゃいないんだ。今のうちに……。
「──レイト!」
「──はい、なんでしょうか! 姫殿下!」
振り返らずに後ろに後ろに下がる途中、こちらを見ることなく、お姫様に呼ばれてしまった。
に、逃げようとしたのがバレたのか? すでに怒っておられる、お姫様の脅威度は高いのに。
「あんたが審判よ。勝ち負けを判定しなさい」
「嫌です。もう帰りたいです! それに、審判なら他の人にやってもらって? ほら、俺は素人だからさ」
「公平な判断ができる人がいるならいいわよ?」
「えっ、それはいないかもしれない……」
まず、騒ぎに集まってきた兵士に悪魔。彼らはお姫様の信者。お姫様に超有利な、お姫様判定になってしまうだろう。
対して向こうのアホの子の後ろにいる男は、アホの子に有利な判定をするだろう。
というか、またイケメンだと!? ニクス1人でイケメンキャラは足りてると思う!
無駄に身長が高いし、無駄にイケメンだし。
なんか執事っぽい格好もきまっていて、なんかムカつくな。あれなら始末してもいいな。むしろやられないかな。
「……そいつ人間。ルシア、どういうこと? 生きた人間がどうしているの?」
このアホの子は何を言いだすんだろう。
生きてない人間はいないと思う。だって、生きてないってことは死んでんじゃん。
俺は生きてるし、やはりアホの中のアホの子なのか?
「ルシア、どういうこと。黙って見過ごせないわよ」
「この場での質問には答えません。聞きたいことがあるのでしたら正式に書面で、──正式に許可を得てからお願いします!」
アホの子は目線だけは俺を見ていた。そこに、お姫様が喋っている途中で殴りかかった! 審判をやるって言ってないのに始めやがった!
それも不意打ち……。あまり褒められた行動ではないと思う。
「不意打ちとは卑怯ね。アタシに正面からぶつかったら、勝てないってのはわかるけど──」
しかし、『パシッ』と音がして、お姫様の不意打ち殺人パンチは、簡単に受け止められている。近くにいる俺まで風圧がきてる威力のね。
どうなってんだよ、どっちも。これが異世界のスタンダードなのかよ。
「おりゃーーーーっ!」
「「──えっ?!」」
お姫様の不意打ちは片手で止められた。だが、アホの子がカッコつけて喋っている間に、お姫様はもう片方の手で掴まれた手を捕まえて、アホの子をぶん投げた!
俺は柔道に詳しくないが今のは分かる。一本背負いだね。ちょっと無理矢理だけど、力でもっていった形ですね。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーっ」
そして、あれは間違いなく落ちる。この宙に浮いてる城から。そのくらいの勢いに見えるし、どんどんアホの子が遠ざかっていく。
残念ながら……見えない。なんでもないです。
「つーか、大丈夫なのアレは!? 落ちたら死ぬよ!? 忘れてるのかもしれないけど、ここ天空だよ!?」
「大丈夫よ。あのくらいじゃ死なないわよ。それより、あたしから離れなさい。あんたの方が死ぬわよ」
何を言って……。
「──卑怯よ。いきなり投げるなんて!」
……………………えっ? はっ!?
「ふん、戦争に卑怯も何もないわ。勝った方が正義。勝ったやつが正しいのよ!」
いや、そんなこと言うのは悪役……──じゃなくて! 飛んでんだけど……。
アホの子の背中に羽が生えているように見える。まるで天使のような羽があって、羽ばたきもせずに飛んでるように見える。
「悪魔らしい理屈を言ってーーっ。もう、本気でやるわよ!」
「自分こそ。まるで天使みたいよ? 羽生やして」
「──アタシは天使よ! 生まれた時からずっとね!」
えっ、天使もいるの?
いや、悪魔がいるんだから天使もいるのか。
あと、お姫様に向かって悪魔らしいって言った?
……悪魔なの?
セバスとかニクスのように、ツノがあるわけでも、鼻が長いわけでもないけど……彼女も悪魔なの?
「──集束。天使の光!」
何か技名を叫んだ気がする。アホの子こと天使。だが、『悪魔なの?』が衝撃的すぎて、ただただ呆然としてしまう。
「──あんた本当に死ぬわよ。呆けてないで退がりなさい!」
「ぐはっ──」
そんな俺は邪魔だとばかりに蹴り飛ばされた……。痛い、ちょーいたい。
そして、再び前を向いた時、天使の指先から光が放たれる。『ビームじゃん』そう思った。
「ビームだと? バカな。そんなバトルもののようなことが……」
ビームで驚いている最中、お姫様は飛んできた天使のビームを拳で受ける。詳しく言うと殴り飛ばした。『脳筋じゃん』そう思った。
「「──こざかしい!!」」
2人の同じセリフの直後、弾かれたビームは爆発し、城の庭の一部は(王様の趣味)は大破した。
飛んでる天使は蹴りの体勢で急降下し、お姫様も回し蹴りで迎え撃つ。
「「ウォォォォォォォォーーーーッ!」」
始まってしまった戦争に、見物人と化した兵士たちはボルテージを上げる。2人の戦いにだか、おもいっきり見えてしまっているものにだかは分からない。
「いや、誰か止めろよ……。あっ、審判は俺だった」




