変化した日常
ホワイトデーの話だ。
章タイトル通りポンこ……天使が出てくる。
バレンタインでは俺がやらかしていたが、今回はポンこ……天使がやらかす。あとは自分で見てくれ。
♢1♢
あの始まりのバレンタインから、1週間と少しが過ぎた。今日は2月22日。2がいっぱいだ。
そしてカッコつけようと、1週間と少しとか言ってみたが、あれからたった8日しか経過していない。
この間、特に変化はない……こともない。
俺は今日もバイト帰りだし、この1週間はほぼバイトだし、休んだ分こき使われすぎだし。
そうだな、俺に変化はない。俺には……な。
「ただいまー」
そんな今日のバイトから、俺は今ちょうど帰ってきたところだ。
ようやく温かい我が家に到着し、帰宅を知らせる挨拶をする。
「……」
しかし、鍵開いてるし、電気付いてるし、茶の間から声するのに、この家の人間は誰もおかえりと言わない。言ってくれない!
『おかえりー、今日も大変だったね』
『そうなんだよ。元ヤンが厳しくてさー』
とか、会話があっていいはず!
いや、悲しくなるからやめよ。大人しく風呂にいこう。
無反応の寂しい玄関から家の中に入り、最も遠いところにある風呂場へと歩いていく途中。
茶の間の前を通ると襖が開いていて、部屋の中のコタツでは、ここ何日かよく見る光景が繰り広げられている。
「ターン終了……」
コイツら。また、やってんのか。
こっちは、いい加減やめたらいいのに。懲りないヤツ。
「おや、なにもせずにターン終了ですか? じゃあトドメかなー」
そしてこっちは嫌なヤツ。自分でその状況にしておきながらの台詞。
妹でなかったらひっぱたいてる。もうね、かなり本気でだ。
「ぐっ……やりなさいよ! 一思いにやりなさいよ!」
こっちはこっちで、スゴく悔しそう。
負けず嫌いでもあったらしい。繰り返し挑んでは、返り討ちになってるけどね。
しかし、今回もやっぱり負けたな。手札ゼロ。もうひっくり返せない。完全に詰んでる。
「じゃあ、──また一愛の勝ち〜! お菓子はいただいた〜」
そう、勝ちを宣言した妹により、賭けていたんであろう今日のおやつが没収される。
彼女たちがやってるのは、アンティルールでの勝負だ。それもカードではなく、お菓子を賭けた勝負らしいぞ。
ひとつ断っておくが、俺が教えたわけではないからな? 賭けも、カードゲームもだ。
「あーーっ、今日のおやつが……。今日のおやつも無くなった……。無くなってしまった……」
どんだけお菓子食いたいんだよ。って思うけど、無視して風呂にいこう。こいつらに関わると長くなる。
「れーと、おかえり」
こいつは……。
この妹はーーっ。
わざわざこのタイミングで言いやがったな!
「また負けた……。また、負けたのよ! フォローしなさいよ。見たんでしょう!」
「えーーっ、俺関係ないじゃん。お前らが勝手にやってんじゃん。お願いだから巻き込まないで!」
「あんたの妹でしょ! なんとかしなさいよ!」
確かに、俺の妹ではあるけども。俺は何も関係ないよね? 勝敗にも賭けにも。
見てたといっても最後だけ。もう詰んでる状況からだし。
「一愛、お姫様をいじめるのはやめなさい。彼女からお菓子を取り上げると、こうして俺にとばっちりがくる。以後、賭けは禁止だ。きんし」
「えー、それじゃあ明日から一愛は、どうお菓子を入手すれば良いの? れーと、買ってくれるの?」
「自分で買いなさい。なぜ俺にたかるの? お小遣いだって貰ってるよね? 俺とは違って」
まったく、お菓子くらい自分で買えるだろうに。
なに? 何故、お姫様が普通にいるのかって?
なぜだろうね。不思議だねー。
「チッ──。つーか、油臭いからはやく風呂いけや。それと、寒いからそこしめろや」
口悪く妹は俺に、言われたらまあまあなダメージがある台詞をぶつけてくる。
なんだろう、妹は反抗期なんだろうか……。だが、これはチャンス。言われたように風呂にいこう。
「待ちなさいよ──」
襖を閉め、コタツから一歩も動く気がないヤツらから、逃げるように風呂へと向かった。
自分たちで襖を閉めるのも嫌なのか。そんなにコタツに入っていたいのか。ダメなヤツらだ。
※
ふう……。湯に浸かっているし、文句も言われないし、ようやくゆっくりできる。
なので、みんなの疑問に答えようと思う。
何故、お姫様ことルシアが……カードゲームに興じていたのかだろう?
あれは妹の、一愛の趣味だ。ヤツはカードゲームが好きなんだ。
そうなるきっかけは俺だったのだろう。1つしか歳の違わない俺たち兄妹の流行りは、だいたい一緒だったから。
それにカードゲームだし、男の子が最初だろう。
しかし、俺はもうカードゲームはやらない。
バイトして資金のある今やれば、さぞ強いカードも手に入るだろうし、以前は近くではやってなかった大会なんかにも出られるかもしれない。
しかし、俺は誓ったんだ。『二度とやらない!』とな。あっ、今のはリアルの話であってアプリのやつとは違う。あれは面白い。
同じ家に歳の近い兄妹がいて、俺たちは毎日のようにカードゲームで遊んだ。友達より、幼馴染より、妹と一番遊んだ。
いい話を期待しているなら、残念だが違う。
アレはカードゲームに関しては悪魔なのだから。どこぞの悪魔たちのように、人間とは違うのだ。
男の子というのは、主人公の使うやつに憧れる。カッコいいし強いからだ。分かるよな?
だが、一愛はライバル的なやつが使う悪いカード。主人公とは違うカッコよさがあるカードが好きなわけでもない……。
ヤツが好きなのは、ライバルも悪役も使わないようなカードたちが好きなんだ。
愛しているんだろう。一途に。一愛という名前の通りに。
──もうゲスいよね!
ビックリするくらいゲスいカードが大好きな一愛ちゃん。
カードゲームで一番強いって何だと思う? 俺は、使わなせないことだと思う。
手札のうちに捨てればいい。出させないようにすればいい。デッキから消してしまえばいい。
そんな悪役もやらない戦略がヤツは大好きなのだ。わかる、子供は泣くよ?
しまいには、『ずっと俺のターンだ!』とか言うよ?
あんなのと二度とカードゲームなんてやらない。ヤツの被害を最も被ったのは俺だ。
そして誓った。『二度とやらない!』と。
さっき、お姫様の手札はゼロだった。対してヤツは山のように持っていた。
あとカードゲームは基本、手札が多いやつが勝つ。選択肢が増えるからな。
一愛はカードゲーム研究に余念がない。
ヤツは、『どうすれば、より相手を苦しめられるのか?』と、そんなことを考えているのだと思う。いもうとこわい。
ちなみにだ。お姫様が使っていたデッキは、最新かつ環境最強のやつだろう。
一愛はその辺も抜かりない。己を満たすためならば何だってやる。アレはそういう妹なんだ……。
カードゲーム友達が、とーぜんいない一愛ちゃんは、近隣のカードショップの大会に出没する。
友達は誰も遊んでくれず、競い合う相手もいないからだ。
みんなあんなのと遊びたくない。うん、わかる。
だけどな。大会となれば逃げられない。相手は必ずテーブルに座る。
あとは、ほら……分かるだろ?
あの手の大会は勝つとカードをくれる。その店の商品券とかのパターンもあるらしい。
つまり、勝てるヤツは無限に強くなっていく。大してお小遣いを使わずに!
それに一愛の愛するカードたちはあまり目立たない。表紙にもこないだろうし、地味なカードに見えるし。
そのままバラで購入しても、お小遣いを上回りはしないだろう。
それなのにお菓子を俺にたかろうとする。まったく、あの妹は何を考えているのか……。
まあ、連日アレに負け続けているお姫様がありがたいと思う。あーやって、家の中で遊んでる一愛を見るのは、久しぶりな感じだったから。
それは俺が遊ばないからだけど。しょうがないじゃん?
勝てないんだ、妹に。全然。まったく。1回も。
さて、次はヤツのカードゲームに対する……──えっ、聞きたいのはそれじゃない?
────えっ!?
長々と語ってから、そんなこと言われても困ります。あと3話はこの話でいけるよ?
何故、お姫様がいるのか。何故、一愛と普通に遊んでいるのかの方が気になるって?
それはバレたからだよ。異世界のことも、お姫様のことも。
あれは……寒い夜だった。続く。




