デートなのかデートではないのか。それが問題だ
お姫様に広告塔を頼みにいったら、お姫様との言い争いに発展し、そのまま終わりとなった前回。
あの引きでは、『もう無理じゃね?』『終わったな……』『──ざまぁ!』とか思われても仕方ない。そんな終わり方だったからな。
実際、俺も同じようなことを思った。最後のやつ以外な。
そんな前回の結果だけお伝えすると、お姫様の協力はあっさり得られたんだ。あの状態から何のダメージも受けずに。拍子抜けするくらい簡単にだ。
「いいわよ。協力したげる」
お姫様はこう仰られた。何と優しい。
俺はお姫様のことを勘違いしていた。二枚舌で、腹黒な、容姿だけはいい女だと思っていた。
「──マジで!? いいの! 嘘つかない?」
「嘘なんて言ってもしょうがないでしょ」
「よっしゃーー! これでバレンタインは成功だ!」
しかし、浮かれたのも束の間だった。
やっぱり、そんなにうまい話はなかったんだ。
お姫様は俺に条件を突きつけてきた。
「代わりに条件があるわ」
「タダじゃないのか……」
「勘違いしないで。これは互いに必要なものよ。それを、どこがいいかしら……」
何故だが、お姫様に俺の部屋の間取りを聞かれ、ある場所を片付けるように言われた。で、解散。
俺はセバスによく分からないことをされて、気づいたら元いたところに戻ってきていた。
戻ってきてしまったし、お姫様に言われたこともあるから、家に帰ろうとするとセバスもいて、後ろをついてきた。
「ねぇ、尾行だとしたらバレバレだよ?」
「尾行なら姿は消す。これは姫の言ったことに関係あることだ。小僧の部屋に行く必要があるのだ」
「?」
「気にせず帰り道を行け。勝手についていく」
そう言われ、つっ立っていてもしょうがないので家へと帰った。その道中、セバスは他の人には見えないらしく、電車もタダ乗りしていた。
家についたらついたで、お姫様に言われたことを真っ先にやらされ、終わったらセバスに『邪魔だ!』と部屋から追い出された。
俺の部屋なのに部屋に入ることはできず、立てこもった悪魔がキレるので諦め風呂へと向かった。
今は部屋に戻ってきたところだ。その結果──
「なっ──」
──なんということでしょう! 匠により、我が家(俺の部屋のクローゼット)が、異世界と繋がりました!
「──ぶざけんな! どうすんだ、これ!?」
「お前が啖呵を切ったんだろうが……」
この惨状を何も言わずに生み出したセバスに詰め寄るが、セバスはすごく不機嫌だ。
実は、お姫様の部屋から出た辺りから、ずっとそんな感じはしていた。
「それはそうだけど。これはないわーー。ない」
「約束は明日だな。ちゃんとしろよ?」
それだけ言ってセバスはクローゼットに消える。
表現がおかしいことは分かってるが、そうなんだからそう言うしかない。
「つーか、これどうすんだよ!?」
家族になんて言うんだ? いや、こんなこと言えるか。『頭沸いてんのか?』って言われるわ!
あのワガママ姫のせいだ……。何が──
「あんたのとこの世界が見たい。さぞ面白いんでしょう? 自信ありそうだったもんねー。まさか、嫌だなんて言わないわよね?」
──だ。後はそれに売り言葉に買い言葉だ。
結果、上手く乗せられてしまったんです。
策士! 策士だった! ワガママなだけじゃなかった!
面白いと証明できれば協力してもいいだと? だか……これはチャンスか?
あの腹黒ワガママ姫を味方にできれば上手くいく。つまり明日にかかってるわけか……。
どう案内すれば良い? 好印象を与えるにはどうするのがいい? 何かプランを練らねばならないな。
──あれっ? これって、いわゆるデートというやつなのではないか? まさかな……。そんなはずないよネ?
ただ2人で出掛けるだけだ。そこに深い意味はない。むしろ接待をしなくてはいけないんだからな!
ただ男女で一緒に行動するだけ。まあ、並んで歩いたりもするだろう。お姫様は初めての場所だし単独行動もするまい。つまり、ずっと一緒か?
──やっぱりこれはデートなのか!
※
その結果………………徹夜した。
デートという言葉が何度も頭をよぎり、何度もプランを見直したからだ。
しかし、見直しを繰り返していくうちに迷走し、終いには行き詰まり、友人たちに相談した。
しかし、返信は概ね『リア充。氏ね』だった。
何の役にも立ちやしない。あんな奴らに相談自体が間違いだった。あれらはもう友人とは呼ばない。
そんな元友人たちの話はいいんだ。きっと、二度と会うこともないだろうしさ。
今はバレンタインにチョコレートの話だ。
バレンタインというイベントを画策しているからには、その手の場所は外せない。
チョコレートも食べさせたい。あの食事で満足してる奴らだから、味覚が違うかもしれないから。
あとは町を案内することにした。徹夜したプランは役に立たない……。
出来上がったものを見て驚いた。あれは初めて訪れる場所での内容じゃなかったんだ。完全に、ただの理想のデートプランだった。
いつか使おう……。そう決め封印した。
そして、明日はやってきた。